33年前、家を建てたとき、奥さんが狭い南の庭に紅白2本のハナミズキを植えていた。土地との相性がよかったのだろうか、すくすくと成長し、今では背丈は6、7mほどになっている。
ハナミズキの寿命は長く、約80年だと言われている。それであれば我が家のハナミズキはまだ若い方だと言えるが、紅い花をつける木は、ここ数年、花の数が少しずつ減ってきていたり、小枝が枯れてきているのが気になっている。
その木が、素晴らしい気力を見せてくれているのに気がついた。一昨年の秋のことである。出窓から見える太い枝に、長さが50cmばかりの細い枝が1本上向きに伸びていた。台風ではないが強い風が吹く日であった。ふと見ると、その枝は元から折れて垂れ下がっていて、吹く風にあおられてぶらぶらと揺れている。
そのまま年を越したが、枯れ落ちることもなく、風に揺れながらも翌年、若葉をつけた。このことを奥さんに話すと「あの枝には、まだ道管がつながっているのね」と生物用語を使って解説してくれる。
それからまた1年が経った今年のことである。風が強い日には小枝は真下にぶら下がったまま揺れていたが、小さなつぼみをつけているのに気がついていた。果たして花は咲くのだろうかと思いながら毎日観察していた。
ところが、試練にめげずこの春、折れた枝の先に見事、紅い花を1輪咲かせたではないか。驚くやら愛おしいやらで、拍手喝さいをする。揺れる小枝を見て、何度も剪定しようと思ったが、残してやってよかった。改めてハナミズキの強い生命力を感じながら、我が身もあやかりたいと思うことしきりである。