写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

コロナ用語

2020年03月25日 | エッセイ・本・映画・音楽・絵画

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、ついに今夏の東京オリンピック・パラリンピックを2021年に1年程度延期することが決まった。

 こんな未曾有な大問題をもたらした元凶は、新型コロナウイルスである。日本国内で感染者を乗せた大型クルーズ船が横浜港へ入港したのは2月3日であった。それ以来、テレビのワイドショーでは連日このことばかりをやっている。

 新型だけあって、治療方法がわからないばかりか、勿論ワクチンも開発されていない。感染者を隔離して見守ることしかできないようである。感染者が増え始めた頃、対策として手洗い・うがいなどの基本的なことに加えて、3つの指針が出された。

 「密閉」「密集」「密着」の「3密」を避けることである。私が住んでいる小さな町の片隅であれば、簡単に3密を避ける生き方はできるが、大都会では電車での通勤時には避けることは難しい。

 こんな対策を声高に言っても、日々感染者は増え続けている。そんな状況を、毎日テレビで見ているが、専門家が出て、やたら専門用語を駆使して説明するが、当初は何を言っているのか理解できなかった。

 その理由は、横文字の専門用語が多いからである。昨日、河野防衛相が厚生労働省へ説明用語の見直しを要請したという。そういえば「クラスター」に始まり「パンデミック」「オーバーシュート」は、「集団感染」「世界的大流行」「爆発的増加」と言ってもらえば分かる話である。

 2、3日前に小池東京都知事は、東京で大規模な感染拡大が認められた場合は「ロックダウン」もあり得るとして、都民に対し大型イベントの自粛などを改めて求めた。「ロックダウン」とは、首都を「封鎖」することである。

 「封鎖」といえば、踊る大捜査線という映画の副題で「レインボーブリッジを封鎖せよ」というのがあったことを思い出す。まさに世の中、コロナ一色となっているが、この「コロナ」は「光冠」と呼ばない方が分かりやすいが、国民に説明する言葉は、日本語で表現できるものは日本語でやってほしいものである。 

 

 


ガード下の靴みがき

2020年03月24日 | エッセイ・本・映画・音楽・絵画

 半世紀も前、サラリーマンとなって初めて東京に出張に出かけた。東京駅に降り、丸の内側に出ようとした時に、駅構内に靴みがき屋さんのコーナーがあった。何人もが、丸椅子を置いて営業している。ある時、好奇心旺盛な私は、若造のくせに安い靴を磨いてもらったことがある。

 それから30年ばかり時は過ぎ、今度は有楽町駅のガード下の靴みがき屋さんで、ミカン箱に座って磨いてもらったことがある。まさに、電車が頭上を通り過ぎていく迫力ある「ガード下の靴みがき屋」であった。景気の回復もあり、今では靴みがき屋さんの姿なんぞ、とっくの昔に消えてしまっている。

 久しぶりにそんな昔のことを懐かしく思い出すようなニュースを聞いた。女優の宮城
まりこさんが93歳で亡くなった。日本で初めての肢体不自由児の養護施設「ねむの木学園」を運営してきた人である。

 まだ戦後の色が濃く残る1955年(昭和30年)に、「ガード下の靴みがき」を大ヒットさせた歌手でもあった。

 
「ねぇ、おじさん、靴みがかせておくれよっ! お父さん? 死んじまった…… お母さん 病気なんだ……」。胸当てズボン姿の靴みがき屋に扮した、愛くるしい目をした宮城マリ子の叫ぶ声が、遠くどこからか聞こえてくるような気がしている。

 ♪ 紅い夕日が ガードを染めて
    ビルの向こうに 沈んだら
    街にゃネオンの 花が咲く    
    俺ら貧しい 靴みがき
    ああ 夜になっても 帰れない ♪

 

 

 

 

 

 

  


潔さ(いさぎよさ)

2020年03月23日 | 生活・ニュース

 錦帯橋の桜も、今日あたりには開花宣言が出されそうな暖かい1日である。そんな日の午前中、久しぶりに庭に出て、草除けシートを取り除くなどの手入れをした。

 ふと目を上げると、あんなにきれいに咲いていたサクランボの花は満開を過ぎ、今や枝という枝は枯れて変色した花で真っ茶色に見える。
サクランボとソメイヨシノ(以下桜)の花は、見た目には区別がつかないくらいよく似ている。咲く時期が10日から2週間ばかりサクランボの方が早く、しかも実をつけてくれるという違いがあるくらいだと思っていた。

 ところが、毎年サクランボの花を眺めてきたが、満開を過ぎた花は桜と違って、枯れても中々散らないことに初めて気がついた。すっかり茶色になった花びらを引っ張てみるが、結構強くくっついていて簡単に散りそうにない。

 桜といえば、日本人の心の花だと言われている。桜が咲くころは天気も不安定で、少し風が吹いただけで満開が過ぎた花は一瞬にして花吹雪となって散ってしまう。桜の花が散る時、人々はそこに「日本人」を感じる。それは「潔さ」であろう。卑怯さや未練がましいところがなく立派な点である。

 昔、「花は桜木 人は武士」と言われた。「武士は、いかに美しく死ぬかといつも考え、その最期の瞬間、心の乱れを克服して、桜が散るかのように潔く旅立つことが望まれた。

 盛者必衰、どんなに豊かな者も、必ず衰える時が来る。そして生きる者には必ず死がくるように、世は常に移ろい、同じままであることはありえない。仏教の伝統的なものの見方が、咲いたかと思えば散ってしまう桜に投影されて見えるのであろう。

 サクランボの花が、枯れてもなかなか散らないのは、ひょっとすると潔い桜とは違って原産地がイランの西部・黒海の近くの外国産だからではないだろうかと勝手に思っている。

 「潔さ」といえば、武士といわず今を生きる人間誰に対してもあって欲しい姿勢である。特に責任ある立場の人は、何か重大な事あれば、
多くを語らず自ら進んで責任をとる行為を示す言葉でもある。そういえば最近、丁寧に何度も言い訳ばかり言っている潔くない御仁が1人いませんでしたかねえ。


当然のこと

2020年03月21日 | 生活・ニュース

 今日(21日)は春分の日。朝から明るい日差しのする陽気であるが、春2番とでもいうのだろうか、時折強い風が吹いてくる。そんな中、運動がてら久しぶりに自転車に乗ってコンビニまで振り込みに出かけた。

 春といえば 「春財布」という言葉がある。この時期に買い替えた財布のことで、金運を呼び込んで縁起が良いとされている。名前の訳は「春」
という字が「張る」と同じ音で「張る財布」、つまりお金がたくさん入っていて、パンパンに財布が張るという語呂合わせからだという。

 近頃の私の財布はどうかというと、自慢ではないが、いつもパンパンに張っている。その中身は、まずは病院の診察カードが5~6枚、ホームセンターやいろいろな店のカードなどでパンパンに膨れているが、肝心の札は少ない。

 ところが、用を済ませての帰り道のことである。スーパーの入り口に向かう道を走らせているとき、道路の端に黒いものが落ちているのを見つけた。拾い上げてみると、黒い革製の二つ折りの長財布であった。これぞ春財布と呼ぶにふさわしいほどパンパンに張っている。

 そっと中を見ると、1万円札が何枚も入っている。そればかりか、車の免許証やATMのカード、保険証など、大切なものがたくさん入っている。免許証を見れば落とし主はすぐに分かったが、電話をしようにも電話番号が分からない。

 Uターンして警察署に向かい、落し物として届け出た。若い警官が「拾得物件預り書」に拾得した時の状況を書き込んでいく。財布には現金が9万2千円も入っていた。こんな大金が入った財布を落とすとは、羽振りのいい人なんだろうかと、落とし主の懐具合を推し量ってみる。

 警官がすべてを書き終えた後、「拾得者としての権利はどうされますか?」と聞く。「人として当然のことをしたまでです」とは言わなかったが「権利は放棄します」ときっぱりと答えて警察署を出た。

 家に帰って1時間が経った頃、持ち主から、ごく簡単なお礼の電話がかかってきた。演技でもいい、もう少し有難そうな言葉が欲しかったが、そうか「当然のことをしたまで」であったことを思い出した。


つぼ見

2020年03月20日 | 季節・自然・植物

  4月半ばの陽気だという明るい日差しのあるお昼時、スーパーで弁当とノンアルコールのビールを買い込み、奥さんと2人で今年初めての「つぼ見」に錦帯橋の上河原に行ってみた。
 
 「新型コロナウイルス感染予防のための外出自粛令」が出されているせいか、
見渡すところ、花を見に来ているような人は誰一人いない。もちろん桜のつぼみはまだ固くつぼんだ状態で、先の方がほんの少しピンクがかっている状況である。

 開花までには、まだ1週間はかかりそうだと判断した。毎年のことながら、仮設中の茶店がすでに3軒ほど完成していて、花見客に対しての準備は万全に見える。

 錦帯橋に向かって芝生の上にゴザを敷き弁当を開いた。そういえば昨年も同じように、この時季、硬いつぼみを眺めながらお花見ならぬ「つぼ見」をしたことを思い出した。時々通り過ぎる人に奇異な目で見られながら弁当をつつく。

 この調子でいくと、今年もあと2、3回は錦帯橋のつぼ見に出かけることになりそうである。「先んずれば人を制す」ということわざがあるが、花見ばっかりはいくら人より先に行っても、有利な立場に立つことができるという訳でもなく、時折吹いてくる川風で、くしゃみが出るくらいのことであった。
 
 家に戻り裏庭に出てみると、サクランボの花が満開状態である。やっぱり桜の固いつぼみよりは、花は少ないが満開のサクランボの方が美しい。毎年この花が咲くと10日後には桜の開花宣言が出される。これからしばらくは、心穏やかならぬ花のシーズンが真近となった。

 夜のニュースを聞いていると、「今日(19日)、中国地方に例年になく遅く『春一番』が吹きました」と伝えている。そうだろう、道理でつぼ見をしているとき、強い風が吹くときがあった。こうして、今年も春がやって来た。望むべくは、春一番が、新型コロナウイルスを吹き飛ばしてほしいものである。