写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

生類憐み

2010年09月29日 | 生活・ニュース
 早朝、庭に出ていた奥さんが息せき入ってきた。「イノシシが檻に入って捕まったそうよ。見に行かない」と誘う。我が家から、ものの100mくらいしか離れていない山裾の畑に仕掛けられた檻に、大きなイノシシが入ったという。
 私は見に行かなかった。間もなくすると帰ってきて「大きなイノシシが檻の中で暴れていたわ。小さな目がとってもかわいかった」と言う。
 今年も春過ぎから、近くの畑を荒らしまわり、野菜作りの農家が困っているという話は聞いていた。散歩の途中、鉄製の頑丈そうな檻が仕掛けられているのも見て知っていた。
 奥さんに誘われたが、檻の中で何とか逃げ出そうと必死で暴れまわっているイノシシを見に行く気にはならなかった。捕らわれた後のことを思うと、私はつぶらな瞳を直視することはできない。
 戻って来た奥さんにそのことをいうと「でもねぇ、農家の人はイノシシが捕まったのでみんな大喜びしていたわよ」という。確かにそうだろう。それは分かるが、イノシシの気持ちも分かる。
 朝食の支度をしながら「これで安心ね」妻は明るく言った。「……」
 しばらくして、私の気持ちが変わった。「そうだ、ブログのネタに困っている。写真を撮りに行ってみるか」。イノシシと対面した。大きい。私より一回り大きい。上に下に大暴れをしている。情は移るが運命はすでに決まっているようだ。「お前もなぁ、猛暑の被害者かもしれないな」。写真を撮った後、直ぐにその場を離れた。かわいそうなやつよ。
  (写真は、捕らわれの身となった「イノシシ」)

新・関白宣言!

2010年09月28日 | 生活・ニュース
 日経新聞の最後のページには文化面がある。いろいろな人が趣味や体験したことなどを、1400~1500字くらいのエッセイにしたものが毎日掲載されている。
 今日(28日)は、「妻に仕える新・関白宣言」と題して、全国亭主関白協会会長の天野さんが、我ら亭主族に面白くもためになることを書いてくれていた。
 会の目標は、妻とより良い関係を築いて夫婦円満になること。信条は「関白」は補佐役、「亭主」は茶の湯で客人をもてなす人のことで、要は妻を補佐し、もてなすことだという。
 「愛の3原則」として「ありがとう」「ごめんなさい」「愛してる」を言おうと提唱し、夫婦喧嘩には「勝たない」「勝てない」「勝ちたくない」の「非勝つ3原則」で臨もうと訴えている。
 妻に返事をする時には「うん」「へぇ~↑」「わかった」の「お返事3原則」。どうやら反論や否定、疑問を持つような返事は許されていないようだ。
 「しない」「していない」「する気もない」の「浮気3原則」なるものもある。まあ、これは今の私には、必要な資金も力もないのであまり関係はない。
 こんなことがしっかりと出来れば亭主の地位は安泰のようである。気をつけなければいけないのは「妻の尻に上手に敷かれる」ことで「妻に足蹴にされる」ことではないという。
 夫婦円満であれば子供は安心し、家庭も安泰。昔ながらの威張ったイメージの亭主関白ではなく、家族に愛される亭主関白を目指せということだろう。
 ひるがえって自分を見ると、定年退職の翌日から返事はすべて「うん、わかった」で通しているし、口喧嘩では何を言っても「勝てない」ので「ごめんなさい」の一辺倒。私はとっくの昔から新種の「亭主関白」実行中である。

竹原ヌーボー

2010年09月27日 | 食事・食べ物・飲み物
 現役時代、仕事でお世話になったエンジニアリング会社の先輩Hさんが、久しぶりに立ち寄ってくれた。広島県の竹原市に住み、趣味でワイン造りをやっている。
 竹原市とは、京都・下鴨神社の荘園地として開墾されたのが最初で港町として知られ、江戸時代後期は「塩田」と「酒造」により発展した。現在は 『安芸の小京都』 と呼ばれ、町並地区が「都市景観100選」に選定されている。
 そんな古い町には、明治初期からブドウ作りが盛んに行われるようになり、現在もそれは引き継がれている。Hさんは定年退職後、東京にマンションを置いたまま、実家のある竹原で長年温めて来たワイン造りに没頭している。 
 久しぶりの訪問の手土産だと言って、1升ビンと730㏄の瓶2本のワインを持ってきてくれた。今年出来たばかりのワインである。キャンベラというブドウから作ったものだという。
 まず、大びんのものをグラスに2口分注いで味わってみる。色は透明で、まさにワインレッド。口に含んでみると甘く、プンと新しいブドウの香りが鼻をくすぐる。
 小瓶の方も注いでみた。こちらはやや不透明感があり、深みのある赤色とでも言おうか。飲んだ感じは、肉料理に合いそうな、やや渋みのある高級品の味がした。
 いずれにしても、この暑かった夏に、広いブドウ畑でのブドウ作りに始まり、収穫からワイン造りの大仕事の成果を2本もいただいた。これぞ竹原ヌーボーである。
 退職後の「人生の楽園」のいろいろな過ごし方は毎週テレビで見ているが、商売ではなく、趣味でここまでやっている人は珍しい。ケミカルエンジニアだったHさんだけあって、分厚いルーズリーフ2冊には、びっしりと体験したノウハウが書きつづられている。発酵するに従っての糖度の変化もグラフできちんと記録管理されている。
 その日の夕食は、いただいたワインにふさわしい料理とはいかなかったが、グラスに半分注ぎ、竹原の方に向かって乾杯をした。Hさんのやさしい顔を思い浮かべながら楽しませてもらった。

門 灯

2010年09月23日 | 生活・ニュース
 我が家の入り口には、鉄骨で作った扉のない門がある。その頂に門灯をつけていて、家の中から毎日朝夕、スイッチの入り切りをしていた。
 ところが、夕方は点け忘れ、朝は消し忘れがよくあった。また、日中出かけていき、帰りが遅くなった時などは暗い門をくぐることになりわびしい思いをすることもあった。
 人の手でスイッチを入り切りすることがわずらわしくなり、10年前「明るさセンサ付きの自動点滅器」というものを買ってきて、自分で門の下に取り付けた。その日から、何もしなくても暗くなれば点灯し、明るくなれば消灯するという優れもののおかげで、手間がかからない生活となっていた。
 数日前、夕方暗くなっても門灯が点いていないことに気がついた。電球が切れたのだろうと思って取り替えてみたが点かない。おかしい……? 
 「はは~ん、ついに自動点滅器が壊れたかな」と考え、工具箱を持ち出して自動点滅器の入ったボックスを開けてみた。テスターも持ち出してはみたが、壊れているかどうかの判断が出来ない。
とりあえず自動点滅器をとり除いた状態で結線し、スイッチを入れると門灯は点く。電気回路に異常はないようだ。
 分からないまま自動点滅器を元通りに復旧し、暗い状態にするため黒い袋で包んでスイッチを入れると、何ということもなく点灯する。「あれっ、壊れていないじゃんっ」。
 まずは電球、次は自動点滅器、そして電気回路と、疑わしき一連の点検をしてみたがどこも悪いところは見つからなかった。だがしかし、何ということか、セロテープで固定していたつもりのスイッチが何かの拍子に単に切れていただけだったことが分かった。長い間、このスイッチなど誰も触るようなことはなかった。まさか触らぬ神にたたりがあったとは。まったくトホホの出来事でした。何ごともまずは足元からということか。お粗末の一席。

東京デビュー

2010年09月22日 | 岩国検定
 午後3時、ハートリーと2人で静かな時間を過ごしているとき、電話が鳴った。「こちら、夕刊%#▲$…といいますが、岩国検定の事務局でしょうか?」。若い女性の声であった。「今、何ていわれました?」「夕刊フジと申しますが…」「東京のあの新聞社ですか?」「そうです」「一体何でしょう? 私は東京にいる時にはずいぶんお世話になったものですが」と言った後、話を聞いてみた。
 夕刊フジとは、産業経済新聞社から発行されているサラリーマン向けの駅売りタブロイド判夕刊紙。発行部数は東京版が105万部。大阪版が50万部くらいである。芸能面は少なめだが、必ずといっていいほど、グラビアアイドルの写真付き記事が載るところがよかった思い出がある。
 会社帰り、電車に乗る前にキヨスクでこの新聞を買う。その日の話題が大きな見出しと写真入りで書いてある。芸能・スポーツ欄も大衆向けの話題が多かった。ものの30分あれば、すべて読み終えられる内容で、よくお世話になった新聞だ。
 そんな新聞社から突然何の電話かと思うと、こうである。最近「検定の花道」というコラムを出している。ご当地検定を始めとし、観光や諸資格など、世の中のいろいろな検定を取り上げて紹介するコラムのようだ。その欄に「岩国検定」を取り上げたいという。設問の例題も載せたいが、ホームページに載せてある情報を引用してもよいかという電話であった。
 「ありがとうございます。どうぞなんでも引用してPRして下さい」、電話に向かって丁寧にお辞儀をした。望むところである。「どうして岩国検定を見つけられましたか?」と問うと、インターネットの検索でホームページを見つけたと答える。今の世の中、インターネットのありがたさを痛感した。
 10月8日の夕刊に掲載される。掲載紙は岩国では手に入らないので郵送してくれるという。一地方で生まれ出ようとしている「岩国検定」は、各新聞の地方版ではすでに取り上げられてはいたが、いよいよ花の東京の新聞でデビューすることになった。めでたしめでたしの一幕。