夕方、奥さんが菜園で育てた大きな大根を大事そうに抱えて、笑いながら入ってきた。「こんなのが採れたわよ」と言いながらテーブルの上にどんと置いた。水で洗ったばかりで真っ白い色をしているが、根の方が二股になっていて、大根とは言え、なんだか艶めかしい。調理をする前に写真を撮っておいた。
この大根、短いけれど大根足がきちんと2本正面を向いているが、昨年収穫したものには、片方の足がもう一方の足に絡んでいるものがあり大笑いしたことがあった。大根1本で笑いを取るなんて、そこいらの大根役者よりは芸が上のようである。
興味をもって少し調べてみた。ダイコンの根が分岐している状態を「股根(マタネ)」と呼び、股根になっていても味が格段に落ちるわけではないが、商品にはなりにくい。股根になる原因はいくつかある。
まずは、1.障害物がある。根が育つ方向に、土の塊や石などの硬いものがあると、股根になる。原因としてはこれが一番多い。2.肥料に当たった。根が生長している途中で、未分解の肥料に当たると肥料を避けようとして、そこで股根になる。3.水の発生源が近い。根は水分を求めて伸びていくが、畑の浅い位置に地下水があると、それ以上は根が伸びにくくなる。結果として根は太く短くなってしまうが、短いところで生長が止まった根は、割れやすくなり股根になることが多い。
対策としては、1.よく耕して、土や堆肥の塊をなくす。「大根十耕」という言葉があるように、ダイコンを育てる時には、10回くらい耕して塊がないように丹念に耕す。2.石などの障害物を取り除く。3.肥料や堆肥が未分解の状態だと、股根になりやすいので、土作りを早めにしておく。4.地下水が浅いところに通っている場所は、畝を高くする。
そうかそうか、原因と対策はよく分かったが、股根の大根も見た目に愛嬌があって悪くはない。その晩奥さんは、股根大根をけんちん汁にしてくれて、おいしくいただいた。人間と同様、見た目だけで良し悪しを決めつけてはいけない。おいしいものはおいしい。そうはいっても股から下は、股根だけに「又ね」と言いながらごみ袋に捨てられてしまった。