写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

歳末モード

2013年10月30日 | 木工・細工・DIY

 好天気に誘われて奥さんと広島に出かけた。中心街に新しく出来たアウトドア・ショップの最近の商品を見物したあと、久しぶりに「お好み村」に行き、人気店「八昌」に入った。待っている3人の先客の後ろに並んだ。我々の後ろに並んだ客は「予約が入っていますのでごめんなさい」と言われて追い返されている。

 お好み焼きを食べながら店主に聞いてみると「このあと修学旅行の子どもが団体で来ることになっているので……」とのこと。広島にやってくる修学旅行の生徒は、平和学習だけでなく、お好み焼きを楽しんで帰るようだ。このシーズンは、この種の予約が沢山入っていると言っていた。

 買いたいものは特になく、散歩がてらデパートと東急ハンズへ行った。いつ行ってみても興味深い新商品が並んでいる。季節を先取りして早くもクリスマスグッズが並べられていた。色とりどりの立体の紙細工や針金細工のツリーがあった。手にとってはみたがこれは買わず、金色の細い針金を一巻き買って帰った。

 夕食後、プロ野球の日本シリーズを片目で見ながら、針金を取り出して針金細工を始めた。作ろうとしているものはクリスマスツリーである。まずは紙切れに原寸大の平面図を書く。この図の線に沿ってラジオペンチを使って針金を曲げていき、モミの木の形を3組作る。台としては円形のものを作り、その真ん中に木を束ねて立て台に固定する。頂きには、これまた針金で作った☆を取り付けると、自作の卓上クリスマスツリーが完成した。

 原価は針金代だけのクリスマスツリーであるが、店で売っていたものと比べても遜色はない。きれいに仕上がっているとはいえないが、苦労して作ったいびつなところが愛嬌でもある。もうひとつ単純な形のクリスマスツリーも作ってみた。これは針金が少し太かったせいか、加工が難しく無骨な出来上がりとなった。それもよかろう。これで我が家は、例年よりうんと早いクリスマスの準備が終わり、早くも歳末モードに入った。これという予定は何もないが口先だけは人並みに「あ~、忙しい、忙しい」と言っておこう。


あと10年

2013年10月29日 | 生活・ニュース

 月に1度、月曜日には行くところがある。高齢者が朝から出かけるといえば、言わずと知れた病院である。コレステロールと血糖値をコントロールする薬を処方してもらうため、かかりつけの病院へ向かう。3か月に1度は、血液検査をしてもらっている。

 その日、採血をすませて結果を待っていると診察室に呼びこまれる。名前も顔も覚えてもらっている先生の前に座った。検査の結果を見せながら「このたびの数値は、こうですね。前回より少し良くなっています」という。コレステロール値は標準域に入ってきたが、血糖値がまだ少し高い。カルテに書いてある年齢の欄を見ながら「あと10年は大丈夫ですよ」と言われたので、「あと20年と言って下さい。目標は一応平均寿命ということにしてはいますが」と笑いながら診察を終えた。

 家に帰り、先生とこんな会話をしたことを思いだしながら調べてみた。寿命の表現としては「平均寿命」とは別に「健康寿命」という定義がある。世界保健機関が公表したもので「日常的に介護を必要としないで、自立した生活ができる生存期間のこと」をいう。

 2010年の統計では、日本人の平均寿命は男性が79.55歳で女性は86.30歳であった。健康寿命は男性が70.42歳、女性が73.62歳だと発表された。表現方法をかえていえば、一生のうち日常生活に制限のある「不健康な期間」は平均寿命と健康寿命の差であり、男性9.13年、女性12.68年ということになる。

 この定義でいうと今の私は、すでに男の健康寿命の平均を超えているが、まだ介護されるような状況にはなっていない。先生が言った「あと10年は大丈夫ですよ」とは、「健康寿命はあと10年は大丈夫です」と言ってもらったのであろう。とすれば、寿命はさらにその先の米寿あたりになってしまう。そうだ、「何ごとも目標は高く」がモットーでやってきたのだから、健康寿命80歳を目標にして生きてみるか。

 それにしても今の私の毎日、本当に自立した生活、できているか? すでに健康寿命は終わっていないか? 少し反省点が残っている。


問 診

2013年10月27日 | 生活・ニュース

 定期健診のため広島にある総合病院へ行った。大型の秋台風の影響で朝から小雨がぱらつく日であったせいか、受付ロビーはいつもの混雑が見られない。受付を済ませて予約していた受診科へ行くと、直ぐに名前を呼ばれた。カーテンを開けて診察室に入り医師の前に座る。

 「今日は患者さんが少ないですね」というと「天気が悪い日は少ないですね」と答える。この先生との付き合いはもう10年以上となっている。小さな手術をして以来、毎回「異常なし」が続いていて、「検査は1年に一度でいいと思いますよ」と言われながらも、3か月ごとに通っている。

 50代半ばのこの先生が、「茅野さんのカルテを開くたびに『虎の門病院』に入院していたという文字が目にとまりますが、東京におられたのですか」と聞かれた。転勤していたが今は地元に帰っていることを話すと、定年後のよもやま話となってきた。

 「私は今、定年後の住みかをどこにしようかと悩んでいます」と先生が打ち明ける。聞いてみると、出身地は愛媛県のある町。奥さんも四国出身だが、今は2人とも実家は四国にはないという。言ってみれば、日本全国、気にいった所があればどこに住んでもいい状況のようだ。

 「茅野さんは定年後、どんなことをして過ごしておられるのですか」と聞き、自分が将来住む場所だけでなく、どんな過ごし方をしたらいいのかを考え始めている様子である。こんな話になると、私の得意な範疇だ。やおら自作の名刺を取り出して先生に差し出した。肩書きを4つも書いているが、どれも遊びでやっているものばかりである。

 「ほほー、いろいろ活躍しておられて、お忙しいようですね」と、半笑いされた。「定年後、どこに住んでも楽しく生きるためには、やはり地域や同好の仲間を作ることが大切です」と真面目に話した。雨降りで患者の少ない日、ふと先生の小さな悩みを聞かされた。患者である私の方から1つ2つ、先生に定年後の生き方について問診させてもらった定期健診の日であった。先生も悩んでいる。


長い懇談会

2013年10月25日 | 生活・ニュース

 奥さんが朝から、庭のバラ園の手入れをしに出た。新聞を読み終え、時計を見ると10時前であった。手入れの様子を見ようと庭に出ると「今、裏の団地のkさんが、秋明菊の苗を持ってきて上げるといって帰っていったわ」という。いつも愛想のいい笑顔をした同年輩のご婦人である。

 しばらくすると、ポリ袋に苗を入れて持ってきてくれた。パラソルの下の椅子に案内して、奥さんと3人で懇談会が始まった。わが家の庭は、自称「カフェ木馬」と宣言している手前、バリスターとしてコーヒーメーカーにスイッチを入れてコーヒーを沸かしてサービスした。

 若いころよく通った喫茶店のことを思い出して、買い置いていたピーナッツを各人に一つまみずつ出す。高い秋空のもと、ちょっとしたオープンカフェとなった。kさんは駅前で飲食店をやっている現役の女性だけあって、おもしろい話は尽きない。11時半になったころ、散歩中の2人の女性が立ち寄った。一世代若い顔なじみである。

 「丁度よかった。コーヒーでもいかがですか」と言うと「いただきます」と屈託がない。奥さんと3人の美女に囲まれて、さらに賑やかな懇談会が始まった。連休に行った旅の話、近く行われる祭りの話、趣味や孫の話と、次から次へと話は続く。朝、食パンを1枚食べただけの腹が減ってきた。時計を見ると2時になっている。

 話も話したり。なんと堅い木製の椅子に4時間余りも座り込んで話をしていた。たわいない話ばかりだが、笑わせたり大いに笑わせてもらったりした。そそくさと解散したが、時にはこんな一日があってもよかろう。「教育と教養」いや「今日行く所と今日用事」がない日にゃあ、朝から庭に出てパラソルの下の椅子に座って道行く人をながめていりゃあ、誰か一人くらいは私に付き合ってくれる人がつかまるかもしれない。

 コーヒーなら、この私めがお淹れ致します。何か面白い話をしてくれる人を、日がな一日お待ちしております。どうぞお越しくださいませ。「泣いた赤鬼」ならぬ「暇なロードスター」より。


ビンが欲しくて

2013年10月24日 | 食事・食べ物・飲み物

 岩国から約160kmの所にある山陰の長門市へ、車で小旅行に出かけた。同じ山口県に住んでいながら、この辺りの隠れた名所のことはあまり知らない。遊びに行く時は、いつも仙崎や青海島や萩ばかり。それ以外の所には行ったことがない。このたび、落ち穂拾いのような旅をしてみると思いがけない発見があった。

 長門市の西北に、日本海に大きく出っ張った半島がある。その突端に「千畳敷」という名所がある。標高約330mの高台に広がる草原で、眼下に日本海や遠く日本海のアルプスといわれる青海島などの島々が望まれる。広大な草原は「山陰の草千里」ともいわれ、大自然を体感できるパワースポットでもある。 

 海へ落ちる絶壁近くに、小さなかわいい店が1軒建っていた。「country kitchen」と書いた古い看板が掲げられていて、若い観光客で賑わっていた。つられて入ってみた。食事も出来るし酒も出るカントリー風な構えのカフェであった。喉が渇いていたのでコーヒーフロートを頼み、飲みながら狭い店の中を見まわした。小間物が沢山飾ってある。おもしろい形をした緑色のガラスビンが、高い棚にズラッと並べられていた。

 ラベルを見るとGrolschと書いてある。オランダのビール会社が製造・販売するビールのブランド名である。オランダ語ではフロールシュと発音するという。濃い緑色のビンには450mlが入っていて、ラムネのビンを少し大きく膨らませたような形だが、ひとつ大きな特徴を備えている。

 栓が金属ではなく、陶器に固いゴム製のパッキンをはめ込んだものである。それを太い針金を使ってビンに取り付けていて、針金を下方に倒すと、てこの原理でパチンと栓をするようになっていて密閉できる。これは便利だ。ビールやスパークリングワインなどの保存にも使えそうだと思い、中身が入ったものを1本買って帰った。

 わが家ではスパークリングワインを買ってきても、1度では飲み干せない。そんなときこのビンに移しておけば炭酸は抜けなく、翌日またおいしく飲むことができる。特別な道具を使うこともなくガスが抜けないこのビールビン、下戸にとっては、色々使い道がありそうだ。