写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

地盤沈下

2011年04月27日 | 生活・ニュース

 岩国検定実行委員会の仲間と、コンビニで弁当を買って近郊の史跡を訪ねて歩いた。標高が150mの岩国北部・美和町で歴史民俗資料館に入ってみた。大昔に大地が隆起した所からアンモナイトの化石が発見され、それが展示されていた。
 今は山地となっている美和町は想像もできないその昔は、海底であったことが分かる。地球歴史上のある瞬間、突然海が陸になったということである。
 こんな地球創造の頃と時代は違うが、東日本大震災の被災地では、沿岸部の広範な地域で1m前後の地盤沈下が起きている。家も田畑も海水が浸入し、集団移転に向けた話し合いが始まっているという。
 地球上に人類が住み始めるはるか前より、地盤の変動は起きていた。今では地殻変動による大幅な隆起などはなくなっているが、太平洋プレートを始めとする4つのプレートが交錯する日本列島では、大地震のたびに若干の地盤沈下はこれまでにもあったようだ。
 今、改めて世界に冠たる「地震大国」に住んでいることを宿命だと再認識し、ことあるたびに沈下していく土地での生き方を、肝を据えて考えておかなければいけないことを教えられた。所詮、あらがいきれない大自然の猛威の前で、人間は己の力を無力と嘆くだけでなく、そこは霊長類の英知を結集して何としても乗り越えていかなければいけない。
 2本の足で踏みしめた不動とも思える大地は、時として大きく揺らぐだけでなく、沈みこむこともあるという大前提で……


釣 書

2011年04月24日 | 生活・ニュース

 学校を卒業し就職して以来、食事・洗濯・掃除付きの寮住まいをずっとしている息子がいる。27、28歳のころから帰省してくるたびに、いい人はいないのかを聞いていたが、まったくそんなそぶりを見せることなく、早くも30も半ばになろうとしている。
 そんな晩生の息子が、妻のたび重ねての電話攻撃で、やっとお見合いくらいしてもいいような応答をし始めたという。早速、知り合いに世話人を紹介してもらい、釣書を持って行くことになった。
 
私がお見合いした当時、多分書いたであろう釣書のことはすっかり忘れている。今になって「釣書ってどういう意味?」と、改めて疑問に思い調べてみた。
 語源は、
結婚相手を釣り上げるための書き物だから釣書と呼ばれるわけではない。本来は、血縁関係などを示す「系図」を意味し、氏名と氏名を線で結んだ様が文字をつるしたように見えることが由来とされる。
 見合い結婚、すなわち媒酌結婚は武家社会が起源で、武家の間で縁談の際に互いの系図を交換していたため、こうした呼び名が残っているとされる。本当は「釣書」ではなく「衡書」。つまり、両家の家柄のつりあいが取れるかどうかを事前に調べるためものという。
 我が家には、釣書に書くほどの立派な系図などはないし、つり合いなどを云々するような家柄や財産もない。ただ、息子が相手を気に入ってくれさえすればいいだけの話である。そんなことを思っていたら、最近の釣書には、本人の身上書と家族書を書くくらいでいいようである。
 それを持って世話人宅へお願いに行った。数日後、早くも相手の釣書が送られてきた。すぐにメールに載せて息子に送る。「う~ん、ちょっと」と、いい返事が来ない 。違うものをまた送る。また「う~ん」。
 今現在、息子は自分のことを棚に上げて、その繰り返しの真っ最中。送られてくる写真を楽しみにしているのは、息子よりも、ひょっとしてこの私の方かもしれない。どこかにいないかな~、私にとってもいい人が……
  (写真は、今が満開の我が家の「花水木」)


一心同体

2011年04月22日 | 生活・ニュース

 「最近、よく眠れるようになったわ」。 朝食をとりながら奥さんが言う。そう言えばここ半年、休んでいる隣のベッドでよく寝がえりうを打っていたような気もするし、深夜、起き出して階下で何か物音をさせていたこともあった。眠れないので、起き出していたのだと言う。
 そんな奥さんが、最近よく眠れるようになった訳は、はなはだ単純なことのようだ。生涯の課題というか万年の持病というか、昔からちょっと油断をすると肥えてしまう体質らしい。「らしい」ではなく肥えてしまう。
 雑誌のモデルとまでは行かなくても、何とか人並みに痩せてスマートになりたい願望は常々持っている。それを達成させんがために、好きなものを腹いっぱい食べることを我慢する。やがてややスリムになってくる。成功した途端、また好きなものを好きなだけ食べる。するとまた元の木阿弥に……の繰り返しが、このところずっと続いていた。
 ここ半年は好きなものを食べることを控え、ダイエットに頑張っていた期間だったらしい。先日、目標の体重まで減量した。それに安心して、最近はおいしいものを十分に食べて寝るようにしたという。お腹は正直なものである。あら不思議、夜、変な時間に目が覚めることなく、一晩中ぐっすりと眠れるようになったようだ。
 聞いてみると単純な話ではあるが、ひとつ困ったことが起きていた。風呂上がりに、私は時に体重計に乗ってみるが、数ヶ月前から体重が少し落ちていた。体形はやせ形のため、昔からあまり大きな変動はないが、それでも1kgくらい落ちている。おかしいなと少し気にはなっていた。
 そんな中、今朝起きて顔を洗っているとき、両手で頬の膨らみを感じた。「おっ、体重が戻ってきたのかな」、そう思いながら朝の食卓についていたとき、この話である。何ていうことはない、ダイエットの必要のない私が、奥さんのダイエットにつきあわされてスリムになっていただけである。まさに夫婦は、一心同体、いや異心胴大のお話である。
  (出来物の切除手術を終えたばかりのハートリー、お腹は腫れている訳ではありません。自腹です。) 

 


すぐできること

2011年04月19日 | 生活・ニュース

 東日本大震災発生から1か月余りが過ぎた。町を歩いても、催し物を見に出かけても、レストランに行っても、どこに行っても小さな募金箱が置いてある。それほどまでに被災地から遠く離れたひとりひとりにまで、何かしてあげなければという篤志心を掻き立てる大震災であったことを再認識させられる。
 募金箱が目に入る都度、少額ではあるが協力をしてきた。しかし、いつまで、どれだけ募金すればいいのか。そんなものに答えはない。自分の力で出来る範囲のことをすればいいと決めているが、店のレジなどで、店員の横に置いてある募金箱を見ながら、何もしないで出て行くのははばかれる。
 そんなことを少し悩んでいるとき、いいことを書いている新聞のコラムを読んだ。
 「大震災の被災者のために、出来ることがなかなか見つからない。うろうろしているとき、ある人が『何をしていいか分からないときには、そばにいる人に優しくしてあげるといいんですよ。すると、優しさがつながっていきますから』と教えてくれた。この言葉をきっかけに、日々の暮らしをせっせと励もうという、素朴ではあるがもっとも基本的なことにたどり着くことが出来た。わたしが毎日していることは、きっと、かのちに、そして『これから』につながっていく」と書いている。
 これを読んで、思わず「これだ!」と言って膝をポンとたたいた。一個人の力としての募金には限りがある。これからは「そばにいる人に優しくしてあげる」、これに努めることに決めた。優しくされた隣の人は、また隣の人に優しくしてあげる。一足飛びに東北の被災地の人にまで、その優しさが明日にも飛んでいくかもしれない。そんなことを考えると、自分が被災地で何か小さなボランティアをしているような気にもなってくる。これは、今すぐに誰にでも簡単にできるいい発想だ。
 大震災が発生した直後から、何も出来ない自分へのもどかしさと、「私に今出来ることは何か」をずっと思い悩んでいたが、その答えをやっと見つけたように思っている。
 こんな殊勝な気持ちになっているとき、「今までのお前は人に優しいどころか、厳しすぎるぞ!」との声が聞こえてくるが「まあ、まあ、そう言わずに、優しく見守ってください。優しく…」とお願いいたします。
     (今が満開の我が家の「花水木」)


ニュートン算

2011年04月18日 | 生活・ニュース

 ニュートン算とは、算数の文章問題の種類の一つで、速さや仕事に関する問題である。ある仕事を仕上げるための人数と、それにかかる時間を解くものであるが、仕事を片付けている間にも一定の速さで仕事を増やす作用が働くような問題である。例えば、牧場の牧草と、それを食べる牛を考える。牧草は日が過ぎるにつれて新しく生えてくるから、牛の数を2倍に増やせば半分の日数で終わるわけではない。
 毎年のことであるが、私はこのニュートン算の牛に似たような作業を強いられてきた。この季節になると庭や菜園に雑草が勢いよく伸び始める。放っておくと見る見る内に大きく育ち、植えているバラや野菜が見えなくなるほどに立派に成長する。
 見るに見かねて抜きにかかるが、大きなものを抜くだけでも大変な重労働で、小さなものまできれいに抜くことなんてとっても出来ない。そればかりか、抜いていく片端から新しく草が生えてくる。これぞまさにニュートン算式の草抜き作業をやってきた。
 数年前のある夏、くたびれ果てて雑草が生えるがままにしていた時のことである。「お宅のご主人は体調が悪いのですか?」と通りがかった知人に聞かれたと奥さんが言う。こまめに草を抜いておかないと、私の体調を案じてくれる人まで出てきた。
 今、私が小学2年の時の通知表で「行動内容」に記録されていることを思い出している。「決まりを守る」「正義感がある」「正しく批判する」などは5段階中の5と評価されているが、「仕事を熱心にする」「持久力がある」「勤労を喜ぶ」は3である。真面目に作業をすることなどは子供のころから苦手であったことがよく分かる。生えてくる草が悪いだけでなく、どうやら勤労自体、昔からあまり好きではなかったようだ。
 しかし、家が雑草で囲まれているのでは見た目も悪いし、住んでいる人の生活姿勢まで疑われる。ついに雑草対策への決断を下した。黒いシートで菜園以外を覆うことにした。2m幅、5m長さの通気性のあるシートを7枚買ってきた。重ね合わせて敷き詰め、専用の押さえ金具で固定する。見栄えもいいように丁寧にきちんと張った。
 庭の趣はなくなったものの、これで雑草の悩みからは逃れることができそうだ。敷き詰めたシートの上のガーデンチェアーに座り、香り高いコーヒーを飲んでみた。難しいニュートン算に打ち勝ったような気になっている。