写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

間引き

2009年05月28日 | 生活・ニュース
 奥さんを園芸店に乗せて行った折、並べてある草花を眺めている時、我が家でもエコにつながる「緑のカーテン」をやってみようという気になった。

 つる性の花といえば真っ先に朝顔が浮かぶ。何種類もの中から紙袋に入った2種類の朝顔の種を買って帰った。

 2個の長方形のプランターに、袋の裏側に書いてあるとおりに土の中に2粒ずつ浅く埋め、たっぷりの水を与えておいた。

 数日後の朝、「お父さんの朝顔の芽が出ましたよ」という。子供のころの夏休みの宿題以来、60年ぶりにしゃがんで観察してみた。

 ほんのちょっと手助けしただけで、乾いた種から双葉が出てきた。小さくか弱い命をじっと眺めた。

 それから3日後、埋めた種のほぼ全てから芽が出てきて5㎝くらいに伸びている。「間引いてやらないと…」との的確な指示が出た。

 「間引きとは、苗を密植した状態から少数の苗を残して残りを抜いてしまう作業のこと。通常は弱いもの、細いものを抜き取るが、この作業を行わない場合、それぞれの植物はやせ細ってしまい、作物として使い物にならなくなる」とある。

 言葉は知っていたが間引くという作業は初めての経験だ。「さてと…」と間引く苗を物色するのだが、せっかく生えてきたものを間引く段になると悩ましい。

 「すまんな」とつぶやきながら、各々の2本ずつ出ている双葉の1本をそっと引っ張ると、少しの抵抗はあるものの仕方なさそうに素直に出てくる。

 その根っこを見ると、長く細く白く伸びている。こんな小さなものが、今から生きていこうとして精一杯根を張っていたのに。他が強く生き残るために自らが去っていく。

 今の世の中、どこの世界でもこんなことはある。しかし、今生き残ったものでさえ確実に明日があるかどうかは分からないが、去って行ったやつの分まで頑張ることが使命だと、昔間引かれた立場で言ってみた。
 (写真は、間引いた「朝顔の双葉」)

ドビンコ

2009年05月27日 | 季節・自然・植物
 5月11日の朝、裏庭に戯れに掛けておいた巣箱の屋根を開けてみると、6個ものかわいい卵がかたまって並んでいるのを見つけていた。

 その後、注意して見ていると、見たこともない小鳥が忙しく出入りしていた。夕方には必ず巣箱に帰り抱卵している。巣箱をそっと覗いたとき、何回か目と目があった。

 その都度、親鳥は左右に大きく体を動かした。威嚇だろうか。そんな今朝、親鳥が山の方に向かって勢いよく飛び出して行ったのを確認して、巣箱の屋根を開けてみた。

 「あっ!」、小さな声で驚いた。全身赤黒い毛のない生き物が、黄色の大きな口を真上に向けてただ開けている。ドビンコだ。声は出さない。

 無事に孵化していた。重なっているのではっきりと数は確認できないまま、あわてて屋根を閉じて離れた。

 奥さんに親鳥が戻ってこないことを見張ってもらい、写真を撮るためにもう1度屋根を開けた。6つの卵は全部無事に孵っていた。

 人間社会が少子化のこの時代、庭先で6つの命が見事誕生した。それはそうだろう。午後の強い西日が直射するのを避けるために、パラソルを立てかけて陰を作ってやり大事に見守った。

 極力知らんぷりも決めこんだ。卵を認めて以来2週間でヒナが誕生している。これから親は大変だろう。6つ子を養っていくのだから。ヒナが声を出さないのはなぜだろう。身の安全のためか?

 小さな巣箱がにわかに賑やかになって来た。チーパー聞こえてくることはあるのだろうか。観察していると、親鳥2羽が交互にえさを運んでいる。

 それにしてもワンルームの狭い部屋だ。得意の木工で増築はすぐにでもしてやりたいが、果たしてどうやって巣立っていくのだろう。

 この一家への疑問はいろいろ出てくる。遠い所にいる孫に代わり、しばらく6つ子が相手をしてくれる。鄙にはまれなヒナの誕生だ。続く……。

相違点?

2009年05月26日 | 生活・ニュース
 6月を前にして、日差しの強い季節となった。サングラスをかけようと思っても、遠近両用の眼鏡をかけないと運転が出来ない私は、嫁がプレゼントしてくれたブルガリのサングラスを気取ってかけることもできない。

 あるショッピングセンターに入るとメガネ専門店の片隅に、メガネの上に引っ掛けるタイプの簡易なサングラスが置いてあった。いろいろな色のものがある。1,000円と高くはない。

 店員に頼んで私の眼鏡に当ててもらったが、取り付け部の金具と私の眼鏡の金具部が当たってうまく取り付けることが出来なかった。

 その店を出て、ぶらり100円ショップに入ってみた。あるわあるわ、100円の品々。「こんなものがたったの100円か」と見て歩くだけでも楽しい所だ。

 何と、先ほど見たと同じような引っ掛けタイプのサングラスが、100円と書いて並んでいる。手に取ってみても、全くそん色はない。

 たかが100円、直ぐに壊れても元々だ。気に入ったスモーク色のものを買って帰った。

 私のメガネに掛けてみると、やはり金具同士が当たってしっくりこない。ここは100円の強みである。ラジオペンチを取り出してサングラスの金具をじわり幅広に曲げてみた。

 私のメガネに当ててみると今度はきっちりとうまく引っ掛けることが出来た。サングラスをかけて空を見上げてみると、強い日差しも和らかくなった。

 MADE IN CHINA、うそかほんとか紫外線カット率99%と書いてある。これはあまり当てにせず、日差しを和らげてくれるだけでありがたい。

 メガネ専門店の1,000円の品と100円ショップの100円の品と一体どう違うのか。構造は全く同じに見えたのだが、そこは専門店というだけに100円の品をセンエンにした訳ではないでしょうね。
  (写真は、100円ショップの「サングラス」)  

ベルギーからの手紙

2009年05月25日 | 生活・ニュース
 錦帯橋の桜も終わりかけた4月の11日、ハートリーを連れて夕方今年最後の花見に行った。

 人気のない上河原に張られた2つの小さなテントから、外人の夫婦ともう一人女性が出てきた。話しかけてみるとベルギー人で、宮崎をスタートし京都まで自転車で行くという。フランス語は話せるが英語は少しだけという。

 私といい勝負の英語でしばし談笑した。ブログをやっているというので、アドレスが書いてある名刺を渡し、相手のアドレスも教えてもらった。

 それから1カ月余りが経った昨日、手紙が届いた。宛名には私の名刺をコピーしたものが貼ってある。

 差出人は書いてなく、消印を見ると「BRUSSEL BELGIE」とスタンプしてある。ベルギーと読んで初めて花見の時の出会いとつながった。

 中から手紙が1枚と写真が出てきた。「5月16日2009年 こんにちわ、わたしたちのりょこう は とてもよかったです。日本 は すてきな国です。 せんしゅう うちへ かえりました。らい年 日本に また いき たいです。ありがとう ございました! Anne と Didier」と書いてある。

 ひらがなが多いが、丁寧にきれいな字でつづってある。あの時見た3人が、自転車を前にして笑顔で写っている。

 早速、教えてもらっていたブログを開いてみると、日本を旅行した時のことを写真入りでアップしていたが、残念ながらフランス語なのでチンプンカンプンだ。

 それでも、写真を見ただけで日本を楽しんだことがよく分かるような気がした。そのブログに私はひらがなでコメントを入れて送った。

 「こんど日本に きたときには あいましょう。 しゃしん ありがとうございました」と。

 旅の途中でちょっと会っただけなのに、手紙まで送ってくれるとは。律儀さを感じた「ベルギーからの手紙」であった。
  (写真は、ベルギーからの「エアーメイル」)

「うわの空」

2009年05月23日 | エッセイ・本・映画・音楽・絵画
 2月の下旬、念願の流氷の旅に出た。冬の北海道。数字ではマイナス20度と聞いていても肌で感じる寒さは分からない。

 ともかくも何があってもいいように重装備の服装で出かけた。結果は、どこへ行っても汗ばむような暑さ。旅行中、厳寒の外に出る時間はごくわずか。

 拍子抜けしての帰りの飛行機の中、上から1枚、2枚、3枚と脱いで普段着のシャツでリラックスしていた時の話を、はがき随筆の「旅」特集に投稿していた。

 21日、運よくそれを掲載してもらいましたので読んでいただけますか。
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  「うわの空」

 流氷への旅の帰り、新千歳空港から飛行機に乗った。座席は後部乗降口のところだった。

 離陸の時、緊急対応のため美人スチュアーデスが目の前の座席に我ら夫婦と向かい合った形で座った。飛び立って水平飛行となるまではそのまま座っている。

 黙っているのも気まずくなり話しかけてみると「流氷を見に行かれたのですか。旅なれた方に見えますね」と笑顔で応えてくれる。

 おしゃれな外出着を持たない普段着の旅行者のことを「旅なれた方」と表現してくれた。さすがに接客業だ。思いやりのあるこのひと言で、身も心もまさに空の上を飛んでいた。
  (2009.05.21 毎日新聞「はがき随筆;特集『旅』」掲載)
   (写真は、我が家のアウトドアでの「接客態勢」)