退職して間もなく、近くにある標高が500mくらいの山歩きを奥さんと一緒に始めた。なんでも始めるとなると、格好を整えなければならない。まずは登山用の靴、リュックに帽子、それにストックを揃えた。数年間は、結構な頻度でハートリーを連れて登った。そんなことも、今は遠い昔の話になってしまっている。
先日のことである。久しぶりに裏山に登ってみた。登るといっても舗装がしてある車道なので、ウオーキングシューズでも何の問題もなく登ることが出来る。ただひとつ、納戸にしまいこんでいるストックだけは持って出かけた。なだらかな坂が続く道ではあるが、ストックを突きながら歩くと、体が安定して歩きよい。
これに味を占めて、最近は夕方の散歩のときにもストックを持って出かけるようにしている。このストックはLEKI製で、押さえるとクッションが入っていて、少し伸縮して衝撃を吸収する構造になっている優れものである。
散歩するときでも登山用のストックを使えば、歩きやすいし色は派手だし見栄えもよいので、年寄りっぽくは見えないだろうと思って使っている。
ところが雨上がりの夕方のことである。奥さんは雨傘を杖代わりに、私はストックを突きながら散歩をしていた。つい最近新しく住宅が立ち揃った通りを歩いていると、ちょっとした広場で数人のお母さんが小さな子供を遊ばせているところに出た。
4歳くらいの男の子が我々2人を指さして「おじいちゃんとおばあちゃんが来た~」という。「こんにちは。元気そうだね」と笑いながら挨拶を交わして通り過ぎた。幼い子供から見ると、杖を突いて歩く人は立派なおじいちゃんとおばあちゃんに違いないが、突いているものは杖ではなくて「ストック」なんだと言いたいが、通用する話ではなかろう。
家に帰って改めて「ストック(STOCK)」を調べてみるが、英語では出てこない。ドイツ語であることが分かったが、意味は「杖」とある。ストックと格好よく呼んではいたが「杖」に違いはない。適当に体重を乗せることもでき、バランスの補助として散歩のお供に都合がよいものである。
そういうことで、誰から見ても立派な年寄りであるならば、イギリス紳士のように、天気の日でもこうもり傘を持って歩くのではなく、夫婦共々杖ではなくストックをもって胸を張って散歩に出かけている。