写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

ストックと杖

2019年07月30日 | 生活・ニュース

 退職して間もなく、近くにある標高が500mくらいの山歩きを奥さんと一緒に始めた。なんでも始めるとなると、格好を整えなければならない。まずは登山用の靴、リュックに帽子、それにストックを揃えた。数年間は、結構な頻度でハートリーを連れて登った。そんなことも、今は遠い昔の話になってしまっている。

 先日のことである。久しぶりに裏山に登ってみた。登るといっても舗装がしてある車道なので、ウオーキングシューズでも何の問題もなく登ることが出来る。ただひとつ、納戸にしまいこんでいるストックだけは持って出かけた。なだらかな坂が続く道ではあるが、ストックを突きながら歩くと、体が安定して歩きよい。

 これに味を占めて、最近は夕方の散歩のときにもストックを持って出かけるようにしている。このストックはLEKI製で、押さえるとクッションが入っていて、少し伸縮して衝撃を吸収する構造になっている優れものである。

 散歩するときでも登山用のストックを使えば、歩きやすいし色は派手だし見栄えもよいので、年寄りっぽくは見えないだろうと思って使っている。

 ところが雨上がりの夕方のことである。奥さんは雨傘を杖代わりに、私はストックを突きながら散歩をしていた。つい最近新しく住宅が立ち揃った通りを歩いていると、ちょっとした広場で数人のお母さんが小さな子供を遊ばせているところに出た。

 4歳くらいの男の子が我々2人を指さして「おじいちゃんとおばあちゃんが来た~」という。「こんにちは。元気そうだね」と笑いながら挨拶を交わして通り過ぎた。幼い子供から見ると、杖を突いて歩く人は立派なおじいちゃんとおばあちゃんに違いないが、突いているものは杖ではなくて「ストック」なんだと言いたいが、通用する話ではなかろう。

 家に帰って改めて「ストック(STOCK)」を調べてみるが、英語では出てこない。ドイツ語であることが分かったが、意味は「杖」とある。ストックと格好よく呼んではいたが「杖」に違いはない。適当に体重を乗せることもでき、バランスの補助として散歩のお供に都合がよいものである。


 そういうことで、誰から見ても立派な年寄りであるならば、イギリス紳士のように、天気の日でもこうもり傘を持って歩くのではなく、夫婦共々杖ではなくストックをもって胸を張って散歩に出かけている。

 

 

 


黒にんにく

2019年07月25日 | 食事・食べ物・飲み物

 エッセイサロンの月例会を開催した。毎回、会の半ばで小休止をし、持ち寄ったお菓子をつまみながらお茶を飲み、何人かからいろいろな話題が提供される。先日の月例会の時、会員のひとりが大変珍しいものを配り「僕が作ってみたものですが、食べてみてください」と言う。見かけは何やらグロテスクなものであったが「黒にんにく」というものであった。

 にんにくを特殊な方法で加熱熟成させたもの。「にんにく」と聞いただけで独特な匂いを連想し、その場で食べずに家に持ち帰った。食べてみると「これがにんにく?」と思うくらい、特有な匂いもなく甘くておいしい。まるでスイーツのようである。

 早速インターネットで調べてみた。「黒にんにくとは、にんにくを一定温度・湿度を保った状態で熟成させると最終的には真っ黒になり、ほとんど臭みが感じられず、ドライフルーツのような甘みと食感に変わる。にんにくを超える栄養価の高さから、健康食品として脚光を浴びている」と書いてある。

 黒く変色するのは、含有する糖やアミノ酸などのアミノ化合物を加熱したときなどに見られる褐色物質を生み出すメイラード反応によるものである。

 黒にんにくの作り方は極めて単純で、10日~2週間ほど、炊飯器に入れて保温状態を維持するだけである。黒くねっとりとした状態になっていたら炊飯器から出し、網に入れて1日干したら完成。ちなみに炊飯器の保温温度は、メーカーにより若干異なるが、60°Cから70°Cである。

 ところが作る時に部屋中がにんにく臭くなるので、屋外で作るのがよい。電気釜は専用のものにしないと毎日のご飯が炊けないので、電気釜を買わなければいけない。それにしても、にんにくが疲労回復、滋養強壮というだけの食べ物ではなく、こんなにおいしいスイーツに大変身するとは「お釈迦様でも知らぬ仏のお富さん」であろう。いつか作ってみたいと思っている。


梅雨と共に去りぬ

2019年07月25日 | 季節・自然・植物

 シジュウガラの6個の卵がかえってから2週間が経っている。前日は、オスとメスが、入れ代わり立ち代わり、大きなエサをくわえて運び込んでいるのを見ていた。そんな慌ただしい行動を見ながら「明日辺りには巣立ちをするのではないか」と、奥さんと話をしていた。

 その翌日のことである。この地方の梅雨明けが発表された日の朝、庭に出て新聞を読みながらも片方の目でシジュウガラの巣箱に注意を払っていた。いつもとは様子が違っている。つがいが揃って巣箱の近くのフェンスや木の枝にとまり鳴き続ける。まるで巣立ちを促すかのように見える。

 それでも時折、山に向かって飛んで行き、エサをくわえては帰ってくる。「巣立つ前の最後の栄養補給かなあ」と思いながら眺めていた。そんな中、巣箱から小さな頭を初めてのぞかせるのをはっきりと目撃した。しかし、私はいくら時間を持て余しているとはいっても、何時間もシジュウガラと付き合っているほど暇でもない。

 蒸し暑い中、汗を拭きふき2時間ばかり見守っていたが、巣立つ気配がないと判断して昼前に家の中に入った。夕方、やはり気になって庭に出る。あんなにさえずっていたつがいの姿が消えている。しばらく待っても、エサを運び込んだりしない。ひょっとすると、すでに巣立っていったのか。

 巣箱をそっと外して屋根の蓋を開けてみると、またもやもぬけの殻であった。「しまった。一番肝心なところをデジカメに収めることが出来なかった」と大きな悔いを残したが、6個の卵はすべて孵化して全員が無事に飛び立っていることを知り一安心した。

 思えばこのシジュウガラ家族は、卵の時に蛇に襲われるという、まさに危機一髪のところを、この私から救われたという試練を乗り越えての子育てであった。それだけに愛しさも一入というところであるが、そんなセンチメンタルな気持ちはどこ吹く風、1か月余り付き合った割には、この家族、ドライに梅雨と共に去っていった。
 (写真は、頭だけを現わしたヒナ)

 


坂井幸子展

2019年07月19日 | エッセイ・本・映画・音楽・絵画

 「坂井幸子展」という絵画展が、7月18日から7月23日までの間、岩国市山手町にある画廊「Door」で開催されるのを知って初日に出かけてみた。

 坂井さんは、小学・中学の同級生で、幼いころからよく知っている女性である。我が家のリビングルームにはここ10年間、彼女が描いて京都や尾道や益田などの町で開催された絵画の公募展で入選し受賞を果たした絵を何点もお借りして飾らせてもらっている。

 行ってみると、次から次へとお客さんが入館してくる。お祝いで贈られた花束も多く、部屋いっぱいにいい香りが広がっている。1階と2階の壁面に20点の絵画が展示されている。100号や80号だろうか、大きな絵が多く個人の展示会としては豪勢な印象を受ける。

 つい先日までリビングルームに掛けさせてもらっていた「一日の終わり」という花屋の店先を描いていた絵を、展示会の会場で見て驚いた。家で見ていたときとは違って随分と明るい絵に見える。本人に聞くと、手を加えてはいないという。明るい蛍光灯の照明のせいで、まるで違う絵のようにさらによく見える。

 絵画も展示してある部屋の照明の影響で、かくも印象の違った絵に見えることを知った。時間を見つけて皆さんにも鑑賞して頂きたい絵画展です。入館料は無料です。ぜひ足を運んでみてください。


瀬戸内クルージング

2019年07月18日 | 旅・スポット・行事

 梅雨とはいっても雨が少ないばかりか、朝から真夏のような日差しが眩しい日であった。以前から一度見たいと思っていた景色が見たくなり、田布施町の麻里府港に向かうことにした。目指すは麻里府港から南へ1・5㎞の海上に浮かぶ馬島である。

 馬島とは、平安時代に馬の放牧地として利用されていたことから「馬飼い島」と呼ばれ、文治2年(1186)以降に本格的に開拓が始められ水軍の拠点になっていたこともある。刺網、建網の沿岸漁業を中心に、磯での貝やひじきの採取、天然アサリの収穫が島の経済を支えていたが、近年は若者が島外へ流出し、現在では人口は20数人くらいの過疎の島になっている。
 
 そんな島にどんな景色があるのか。馬島の南に隣接する小さな刎島(はねしま)との間に、トンボロ現象が見られるという。トンボロ現象とは、普段は海によって隔てられている陸地と島が、干潮時に干上がった海底で繋がる現象をいう。全国的には20数か所あるようだが、近くでは周防大島の東和町の道の駅の直ぐそばにある真宮島(しんぐうとう)でも見られる。

 新聞で干潮時刻を確認すると午後3時半であった。その時刻を狙って10時半に家を出た。麻里府港から18人が座れるベンチシートの連絡船に乗ると、わずか8分後に馬島に着いた。乗客は6人であった。船着き場に掲げてある観光案内の地図を見ると、刎島まで1㎞と書いてある。
 
 カンカン照りの下、汗を拭きふき、日陰で休みながら、水分補給を怠らず歩くこと20分で到着した。200m先の刎島まで、幅が50mくらいの砂州がすでに現れている。写真に収め一休みをして、来た道とは違う白浜沿いの美しい道を、海水浴場を眺めながら船乗り場に向かった。

 麻里府港への上り便までは、1時間半待たなければいけない。調べてみると、この連絡船は、麻里府港を出るとまず馬島に下り、続いてすぐそばにある佐合島を経由して対岸に見える室津半島の平生にある佐賀港までを1日に5往復している。
 
 暑い中、1時間半もじっと上り便を待っているよりも、10分後に到着する下り便に乗って、佐合島を経由して佐賀港まで行き、船から降りることなく、乗ったまま同じ航路を引き返して麻里府港まで帰ることにした。いってみれば50分間の「瀬戸内クルージング」を楽しむことにした。
 
 その間、乗客は我々2人の他は2~3人止まり。「この船は民間の会社ですか」と船長に聞くと「民間ではやっていけません。町営ですよ」と笑って話す。

 それはそうだろう、乗船料は2区間までが160円であった。船員は2名乗船している。これではやっていけるはずはない。島の過疎化は、こんなところまで大変な状況になっていたが、穏やかな海面を眺めながら海風に吹かれて貸し切り船のような瀬戸内クルージング、皆さんもぜひ体験されることをお勧めします。 
  (写真上部にある3角形の小さな島が刎島)