写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

期待資質

2009年01月29日 | 生活・ニュース
 日経新聞に「学生に期待する資質」と題して、企業が来年の新卒学生に期待する資質についてアンケートした結果が出ていた。

 調査項目は全部で14項目。これによるとトップ5は ①コミュニケーション能力(73%) ②熱意(53%) ③協調性(52%) ④明るさ(39%) ⑤基礎学力・バイタリティ(37%)の順となっている。

 残る項目は、一般常識、身だしなみ・マナー、信頼性、発想の豊かさ、体力、社会的モラル、社交性、フットワークなどであった。

 トップとなった「コミュニケーション能力」とは、いったい何なのか。漠然としていてよく分からない。14項目のすべてが集大成された結果が、コミュニケーション能力のような気がしないでもない。

 調べてみると「相手の表情、眼の動き、沈黙、場の空気などに十分に注意を払うことで、相手の気持ちを推察したり、自分の感情や意思を相手に伝える能力」と書いてある。

 企業が要求している「コミュニケーション能力」とは、ビジネスの場面において期待される「折衝能力」や「交渉能力」「説得能力」であろう。

 やはり感じていたように「コミュニケーション能力」とは、独立したある能力ではなくて、全人格的な総合能力のことのようである。

 とすると、明るさも体力も、フットワークもこの能力には欠かせない要素だ。私にはこれしか能がないと思っていたが、これも「コミュニケーション能力」の大事な要素なのだと思えば急に愛おしさが湧き自信がみなぎってきた。

 しかし隠居の身となった今では、時すでに遅しである。「コミュニケーション能力」なんぞの使い道は、今や奥さんとハートリーに対してだけである。  

 持ち前の明るさだって、いつも笑ってばかりいると、近所の人から頭がおかしいと思われているようだし……。「コミュニケーション能力」の発揮もままならない日々を過ごしている。
  (写真は、日経新聞の「学生に期待する資質」)

幸福度

2009年01月28日 | 生活・ニュース
 元日付の新聞は分厚く、興味を引く特集もたくさんあった。あらためてじっくり読むと、さすがに年頭を飾るにふさわしい力の入った記事が多かったように思う。
 
 そんな中で、今の自分自身を「本当にこれでいいのか」と考えさせる記事が「幸せ先進国へ『ほどほど』ブータン流生活のすすめ」であった。
 
 ヒマラヤ山中の小さな仏教国。九州とほぼ同じ広さの国土に人口六十六万人。険しい山岳地帯で電気普及率は約四割。

 インターネットとテレビは十年前に解禁されたばかりだ。国内総生産(GDP)は日本の四千―五千分の一の規模で世界の「最貧国」にあたるが、国勢調査によると90%以上の人が「幸せ」だと答えたという。
   
 英国の大学が実施した調査によると、百七十八カ国のうちブータン人の幸福度は北欧に並ぶ八位で、日本人は九十位だった。

 ブータンは国家目標として「国民総幸福量(GNH)」を掲げている。幸福量の指標は、経済発展、伝統文化の継承、自然環境の保全、統治などである。
 
 この記事を読んで、人間の幸福についてしばらく考えてみた。経済的な発展を遂げ、文化や文明が世界でも高水準に達していると思える日本人の幸福度が世界の中で中位に位置し、電気の普及もままならないブータンが八位である。

 幸福度とは物質の豊かさや便利さではなく、必要最小限の衣食住の上で、豊かなゆったりとした時間、スローライフであることを教えられた。貧富と言うほどの貧と富の格差もないのだろう。

 今の日本人のように、満たされていてもまだ富を追い続け、弱い者へ思いをめぐらす余裕のない人がうごめく現在の世の中とは雲泥の差があるように思えた。

 高僧が言うように「自分も他人も追い詰めてはダメ。少し立ち止まってみては?」である。

 「国民総幸福量」の詳しい定義と、評価方法が知りたくなった。もう一度このことを詳しい記事にしていただきたいと思う。
  (2009.01.28 中国新聞「中国新聞を読んで」掲載)

風 神

2009年01月27日 | 季節・自然・植物
 年末、奥さんが紅白のシクラメンの鉢を買ってきてくれた。日当たりの良いダイニングの出窓に飾った。

 買ってきてからはや1ヶ月、未だ、しおれることなく花は元気に咲いている。水をやりながら、じっと花の形を眺めているとき、あるものに似ていることに気がついた。

 シクラメンは冬の花として有名で、和名は「豚の饅頭」と「篝火草(カガリビバナ)」の2種類がある。

 「豚の饅頭」とは、ある植物学者がシクラメンの英名「sow bread(雌豚のパン)」を日本語に翻訳した名であり、「篝火草」はシクラメンを見たある日本の貴婦人が「これは、かがり火の様な花ですね」と言ったのを聞いた植物学者・牧野富太郎が名づけたという。

 前者は球根を見て、後者は花を見て名づけたものである。いずれも見た形から連想したものにちなんで名付けたものであるが、花が篝火に見えるとは、素晴らしい感性の持ち主に思える。

 そう思ってみると、錦帯橋の鵜飼舟の舳先(へさき)で、真っ赤に燃え上がっている篝火の炎に、似ているように見えなくもない。

 しかし、今シクラメンを眺めながら、私は篝火とは違うあるものを思い浮かべている。それは俵屋宗達が描き国宝となっている屏風画「風神雷神図」にある風神の髪の形である。

 風袋を担いで風を吹かせていながら、自分の髪は突風にあおられているように斜め上に向かってオールバックになっている。まさにシクラメンの花そのものである。

 これを書きながら窓辺のシクラメンを何度も見るが、風も吹いていないのに下からあおられているように見える。面白い形の花びらだ。

 今日から私はシクラメンのことを「風神草」と呼ぶことにしよう。紅白の風の神が、部屋によどんだ悪い風を吹き払ってくれるような気がしてきた。
  (写真は、俵屋宗達の屏風画「風神雷神図」の「風神」)

タイヤチェーン

2009年01月26日 | 車・ペット
 子供が幼稚園に行き始めたころから、夏はキャンプ道具を乗せて九州へ、冬はスキーを乗せて広島県北のスキー場へ行くようになった。

 夏、暑い中を三角窓を全開にし、風を入れながらどこまでも走って行った。若さゆえか、それを何とも思わず走り回った。

 冬、スキーを車の屋根に取り付けたラックに乗せ、北へ北へと中国山地奥深くへ進んで行った。寒いなんて何も感じなかった。

 今と違って20kmも入ったあたりから、もう雪が積もっていた。道路が少し広くなったところに車を止め、チェーンを取り出して装着にかかる。

 まずはジャッキで車を浮かし、ハシゴ状に組んであるチェーンを巻きつける。もう一方のタイヤにも同じことをやる。ぬかるんだ道路にパンツや手袋を濡らしながら20分余り、寒い中での厳しい作業であったように記憶している。

 それが今や、うまくやれば5分で済むような作業に変わった。大幅に改良されたチェーンのお陰である。

 私が持っているのはイタリアのKONIC(コーニック)社製で、チェーンが常に路面に接するダイヤモンド・パターンのものである。

 これは横滑りを防ぎ、雪や氷に強いグリップ力を発揮してくれる。またジャッキアップが不要で、車を止めた状態のままで装着できるように工夫されている。

 値段は少しかさむが、昔の単純なチェーンに比べると装着作業の簡単さは今昔の感がする。

 そんなチェーンをはかせて、先日も雪景色を眺めながら真っ白い世界を走ってみた。この時季、すれ違う車も少ない。チェーンをつけたときには、雪を踏んで走る方が振動も少なくて快適だ。規則的な小さな振動が、むしろ気持ち良い。

 寒い寒いと言ってこたつにもぐるも良し。寒い時こそ、思い切ってチェーンをはいて寒い中に出て行くと、今度は心も温かくなる。皆さんもこんな遊び、如何ですか?
  (写真は、チェーンをはいて出かけた「雪の県境」)

雪と遊ぶ

2009年01月25日 | 旅・スポット・行事
 朝食を済ませ、新聞を読んでいたがどうも落ち着かない。窓から見える申し訳程度の雪景色ではなく、深い雪景色が見たくなった。

 「行くぞ! ハートリー」と叫ぶと、朝から気だるそうに横になっていたハートリーがまず飛び起きた。

 それぞれが防寒の支度を済ませ、車にチェーンを乗せ、真冬の西の軽井沢・吉和にある「魅惑の里」へ向かって出発した。

 目的は三つ。雪を眺めながらの露天風呂、レストラン「みわく」で食事、雪の中でハートリーを遊ばせることである。

 全行程は60kmあるが、40km入ったあたりから路面に雪が固まっており、車を止めてチェインを巻いた。1時間半かけて無事到着。

 まずは冷えた体を、誰もいない広い露天風呂で温める。庭のシャラの木の枝に積もった雪が、時々はらはらと音もなく落ちる。

 申し訳ないような贅沢な時間を独り占めする。こんな時のことを「至福」と表現するのだろうか。極楽極楽と独り言が小さく口をつく。

 露天風呂に併設された「みわく」自慢の定食は、刺身と天ぷらの定食だ。こんな山奥だというのに、どこかの料亭のように上品な味である。

 さて次は、車の中で待っていたハートリーと雪遊びだ。ハートリーはアメリカンコッカースパニエルで、イギリスでは水鳥の猟犬に用いられた犬種である。

 水や雪を見ると何の指示もしないのに飛び込んでいく。それもそうだろう、コッカーとは水鳥の鴫(シギ)のことだから。

 車から出した途端、深い雪の中に飛び込んでラッセルして遊ぶ。全身雪だらけ。誰に似たのか、とにかく遊ぶことが好きな犬だ。

 それぞれがそれぞれの遊びに堪能して帰路についたが、こんないい所を毎年私一人が楽しむだけではもったいない。

 是非ぜひ、これを読んでもらった皆さんも、お出かけください。私お勧めの、真冬のナイススポットです。お年寄りからお子さんまでどなたも楽しめますよ。
(写真は、毛にからみついた雪の後始末が大変だった「ハートリー」)