写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

かさぶた

2016年10月31日 | 生活・ニュース

 玄関から裏庭に出るところにナツツバキの木がある。28年前、家を新築した時に、記念樹として丈が2mくらいの株立ちのものを植えていた。それが今や4mを超すまでに成長し、6月には白く清潔そうな花を沢山咲かせて楽しませてくれる。

 そんなナツツバキであるが、片手で握れる程に細かった幹が、今では太いところは両手の指で輪を作ったくらいの太さになっている。毎年この季節には幹の表面の皮が自然に薄く反り返って剥がれ、美しいまだら模様を見せてくれる。皮は放置しておくと自然に落ちるのであろうが、私はその皮を強制的に手で剥がす時の感覚が好きで、手が届く限りの幹の皮を剥いでいる。

 そういえば、この表皮を剥ぎ取る感覚は、幼いころに似たものがあることを思い出す。足を擦りむいた傷痕が直るに従って堅い「かさぶた」となってゆく。完全に直れば何かの拍子にポロリとはげ落ちるが、それまで待てず、無理やりに恐る恐る剥ぎ取ることがあった。そんな時、ちくりと痛くて、剥いだ痕には小さく血が出ていた。それでも何故か早く剥ぎとりたい衝動にかられたものである。

 「かさぶた」とは瘡蓋と書き、傷口ににじみ出てきた体液や膿、血液などが固まってできる皮のことをいい、出血を止める役割や菌が入ることを防いだり、傷をふさぐなどの役割をもつ。昔はその傷痕が大人になっても残っていたが、現在ではかさぶたを作らない「湿潤療法」と呼ばれる傷口を湿らせる治療法や、創傷被覆材で傷口を覆う方法があるという。

 今どきの少年は、ペンダコやスマホダコは出来てもかさぶたの痕があるような子どもは、もはや絶滅しているのかもしれない。古い傷痕が、わんぱく少年の勲章であったのは今や昔の話のようである。


アウトロー

2016年10月30日 | スポーツ・山登り・釣り・遊び

 「アウトロー」、英語で書けば「out law」。俗世間から離れた場所で、自分らしく、生きるという、いいイメージで使うことがあるが、本来は文字通り法を無視する「無法者」のことをいう。同じような発音に聞こえる「アウトロウ」、「out low」という和製英語の野球用語がある。

 ピッチャーがバッターに対して外角の低めに投げる球のことで、この球が例えストライクゾーンに入っていても、バッターとしてはヒットを打つのが難しい球だという。

 こんな言い訳めいたことを書き出したのには訳がある。昨夜(29日)、地元のマツダ球場で我らが広島カープは大敗を喫し、日本ハムが日本シリーズの優勝を決め今年のプロ野球は全てが終わった。

 このシリーズ、出だしの2連戦で連勝した広島カープは、札幌でまさかの3連敗。その内2試合はサヨナラ負け。しかも押さえの中崎が満塁ホームランを喫するという全く予想外の展開であった。2勝3敗と負け越して帰って来ての第6戦。最多勝投手の野村が4回までに4失点と出足から劣勢であったが、その後続々と繰り出した投手が何とか持ちこたえて試合を作っていた8回、ジャクソンが2アウト後に大変調をきたして、満塁ホームランを打たれて一挙6失点して日ハムの優勝が決定的になったところで、テレビを消して風呂に入った。

 湯に浸かり、あんなに強かった広島カープの試合ぶりを考えてみた。新井とエルドレッドに象徴される悪球の空振り三振である。その悪球がアウトロウである。ど真ん中のストライクを見逃し、2ストライクと追い込まれてからストライクゾーンからボールとなるアウトロウの球へ手を出して空振り三振の光景を何度となく見てきた。

 「見逃しの三振をしてもいいから2ストライク後のアウトロウの球へ手を出すな!」くらいの指示でも監督は出せないものかと思わせるくらい、繰り返し見てきたシーンである。とは言いながらシーズン中はこれでも調子がいい時もあった。愚痴は言うまい。私が代わって打てるわけではない。所詮は外野からの素人の愚痴である。

 この1年間、十分に楽しませてくれた広島カープだ。負けたといっても銀メダル。これからも私がカープファンであることに変わりはない。来季、より高い目標が明確となったと思えばいい。11月5日の平和大通りで胸を張ってパレードして欲しい。決してアウトローなどにならずに……

 


シャンパン ストッパー

2016年10月28日 | 食事・食べ物・飲み物

 アルコールに強くはないが、殆んど毎夕食時、ごくごく少量のアルコールを飲んでいる。夏にはもちろんビールであるが、奥さんと350ccの缶をぴったり半分ずつ、その他の季節にはワインか日本酒。ワインであればワイングラスに約半分、日本酒であれば盃に1杯くらい。こんな量でもなければ物足りないところが不思議である。

 秋が深まって来るこの季節、ワインでも飲んでみたくなる。このところ続けて奥さんがスパークリングワインを買ってきた。私と奥さんの酒量では、一晩で1本を空ける様なことはとっても出来ない。

 そんな時のために、以前買っていたスパークリングワイン専用の栓で密封し、ガスが抜けないようにしていたが、先日栓をしようとした時にプラスチック材が壊れて機能しなくなった。もっとしっかりとした構造のものがないか、ネットで調べてみると本場イタリア製のいいものを見つけて発注したものが届いた。

 商品名は「シャンパン ストッパー」と書いてある。ふと単純な疑問が湧いてきた。「シャンパンとスパークリングワインの違いってなんだろう」。これもネットで調べてみた。「
スパークリングワインとは、一般には3気圧以上のガス圧を持った発泡性ワインの総称。シャンパンはフランスのシャンパーニュ地方でつくられ、かつフランスのワインの法律に規定された条件を満たしたもののみ名乗ることができるスパークリングワインの名称」と書いてある。

 なーんだ、シャンパンはスパークリングワインの一種なんだ。そんな知識もなく飲んでいたが、シャンパンはきっと高価なものだろうから、今まで飲んでいたものはすべてスパークリングワインに違いない。今宵買ってきたスパークリングワインはスペイン製のもの。飲み残したボトルに買ったばかりの「シャンパン ストッパー」で栓をした。我が家では「スパークリングワイン ストッパー」と言うべきだろうが、人様の前では見栄を張って商品名通りの「シャンパーストッパーを使っている」で通したい。


クモを散らす

2016年10月26日 | 季節・自然・植物

 3連休を使って次男が帰省してきた。私が柄の長い箒を持ち出して門灯の周りに張りめぐらしているクモの巣を払っているのを見て「クモハンターといって、スプレーを吹きかけるとクモが巣を張らないものをホームセンタへ行けばが売っているよ」と言う。

 道路に面した鉄製の門の頂点に門灯を取り付けている。数日間見ない間に、いつの間にかクモが巣を張っている。家の顔である表門にクモが巣を張っているようでは見苦しい。週に1、2度、箒を持って巣を取り除いているが、翌日にはまた巣が張られている。これこそまさに、「いたちごっこ」の状況がずっと続いていた。

 ホームセンターに行ってみると、「瞬撃!強力ジェット クモ用ハンター クモの巣防止!」と書いたスプレー缶が販売されている。買って帰り、説明書に書いてある成分を調べてみると「ピレスロイド」と表示してある。何のことか分からないのでネット調べてみると、除虫菊に含まれる有効成分の総称で、昆虫類への神経毒で、人への作用は極めて弱いので比較的安全性の高い殺虫剤であるようだ。

その日、門灯の周辺にスプレーしておき翌朝見たが、それまでとは違ってクモの巣は張られていない。「クモの巣防止作戦」は大成功であった。これで、箒を振りかざしてクモの巣の除去に奮闘しなくてよくなったが、この場所で生活の糧を得ていたクモは、これからはどこで生きて行くのだろうかと少し心配になる。

 蚊の季節が来れば昔から蚊取り線香であったが、最近ではスプレーや化学薬品の煙、ゴキブリが出てくれば「瞬間凍殺」と名の付いたスプレー、部屋の臭い消しには消臭のスプレーというように、この頃は一般家庭でも色々な化学薬品を使ったスプレーを使うようになってきた。

 即効性があり人間にとって直ちに害が出るわけではなかろうが、完全に無害とはいえない。出来るだけ化学薬品は使いたくないとは思いながら、毎日箒を振り回す生活に比べると、やっぱり月に1度程度のクモハンターのスプレー缶に頼るという安易な生き方をしている。今日のブログは、クモを寄せつけない話であるが、クモつかむような全く要領を得ない話になってしまった。

  


バスター

2016年10月24日 | スポーツ・山登り・釣り・遊び

 日本シリーズ第2戦、緊迫した試合展開であったが広島が2連勝した。2回に広島が1点を先取したが、4回にはあの名手菊池がバウンドの難しいゴロではあったが、記録としてはエラーで同点とされ、1対1のまま膠着した投手戦となっていた。

 ところが6回の裏、日本ハムにとって想定外だった広島の攻撃が始まった。先頭の田中が2塁打で無死二塁。2番・菊池は3球目までバントの構えからバットを引き、2ボール1ストライク。4球目、日ハム増井投手が高めの139キロ直球を投じたとき、遊撃手が走者の牽制のためか二塁に寄ったのを見て、ヒッティングに切り替える。振り抜くと、打球は遊撃手の逆を突いて左中間へと抜けた。

 これをみて、俊足の田中は迷わず三塁を回ってホームへ向かった。浅いゴロを取った左翼手はノーバウンドの高いボールを捕手へ返球する。身をかがめて捕手の追いタッチをかいくぐってホームベースにタッチしたが、判定はアウト。

 その瞬間、緒方監督がベンチを飛び出してきて主審に何かを言った。審判団は集まった後ビデオ判定をするためバックネット裏に入っていく。直後、テレビではいろいろな角度からのビデオが流されたが、どの映像を見ても捕手のタッチはされていない。しばらくして主審が出てきて「田中選手の手が先にベースにタッチされていましたのでセーフと判定します」と宣告した。

 結果的にはこれが決勝点となり、この回、気落ちした増井投手は動揺して更に2点を献上して試合を決められた。それにしても、菊池の絶妙ともいえるバスターであった。エラーの汚名を何とか返上したい一心であったろう。それを難しい型破りの策・バスターでものの見事に名誉挽回を果たした。

 「バスター」とは、打者がバントの構えで打席に立ち、投手が投球動作に入ってからヒッティングに切り替える打法のことをいいい、「bastard bunt」
を略した和製英語だという。bastardとは「偽の」という意味なので「偽バント」、すなわちバントするふりをしてヒッティングに変えることである。

 「言うは易く行うは難し」とはこのバスターのこと。成功するのを滅多に見たことがない。菊池はこともなげにこの大舞台でやってのけた。日替わりヒーロー、菊池涼介、面目躍如のプレーであった。