家を作るわけではないが、棒状水準器を持っている。使い道といえば、壁に掛ける絵の傾きをみたり棚を取り付けるとき、木工でウッドデッキや塀を作るとき、バラ園にアーチを据え付けるときなどに使ってきた。長さは30㎝、高さが5cmの大きさのものである。水平を見るだけでなく、垂直も45度の傾斜も見られるよう3か所に、気泡の入った長さ2.5cmのガラス管がはめ込まれている。
先日、トイレの中に小さな棚を作った。買いだめて置きどころに悩んでいるトイレットペーパーを、積み重ねておくために取り付けた。その時に使った水準器を、しまわないままテレビ台の上に置きっ放しにしていた。
昨晩それを見たとき、ふと単純な疑問がわいてきた。水準器で水平を見るとき、大きく傾いた所に置くと気泡はガラス管の端っこまで上って止まるが、ほんの少ししか傾いていない所では、気泡はわずかに移動するだけで止まる。端っこまで行くことなく途中でぴたりと止まる。なぜだろう。
今まで何度となく水準器を使ってきたが、何ら疑問を感じることなく、気泡をガラス管の真ん中に持っていくようにして水平を出してきた。この単純な測定器の原理はなんだろう。そう思いながら手にとって、真横からガラス管をじっと眺めてみても直ぐには答えが出てこない。
もう一度目を凝らして見たとき、ガラス管の中央部が、ごくわずかだがビア樽状の曲面となっているように見えた。「なるほど、そうか、そうに違いない」。やっと合点がいった。
調べてみると「目盛りを刻んだガラスの内面は正確な円を描いており、その半径が大きければ大きいほど正確な測定が可能となる。精度の高い水準器をつくるために最も必要な技術は、超精密な硝子加工技術である」と書いてある。
たった2.5cmの真っすぐに見えたガラス管は、実は直径が1mもある大きな円管の一部分であった。これなら傾きに応じて管の途中で気泡が止まることは納得がいく。
使いこなしてきたと思っていた水準器の神髄に「円」が潜んでいることを、恥ずかしながらこの年になって初めて認識した。
水準器と掛けて結婚と解きます。その心は、どちらにも「えん」が必要です。