写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

立ち話

2021年04月19日 | 生活・ニュース

 家の前に立って、今を盛りに咲いているハナミズキを眺めているとき、裏の団地に住んでいる同年配のMさんが自転車で通りかかった。目が合って挨拶をすると、自転車にまたがったまま止めて話しかけてきた。

 奥さんの認知機能が少し衰えていることは以前から聞いていた。「近くのグループホームに入所している。コロナ禍で会いに行っても面会はできない」とこぼす。奥さんと2人だけの生活であったが、1人の生活になっている。

 「朝早くから、どちらにお出かけですか?」と聞くと「門前にあるスーパーまで買い物に行こうと思っている」と答える。「そんなに遠くまで行くのですか」に、「あそこは、アナゴの巻きずしが1本120円と安くておいしく、女房が好きだったのでよく買いに行く。ミカンも便秘にいいので、買って持っていってやろうと思って」と話す。

 短い会話であったが、離れて生活をしている奥さんのことを思いやる話ばかりである。数年前まではよく2人で買い物に出かける姿を見ていた。仲の良い夫婦であったが、今はそれもかなわない状態のようである。

 「遠くまでの買い物、気をつけて行ってらっしゃい」「ありがとう」と言って別れた。いつ出会っても自転車を止めてMさんの方から話しかけてくれる。話題は、奥さんの様子とホテルでのパート中の出来事と、スーパーのお買い得品の話をしてくれる。

 ある時、お買い得品のミカンを「お宅の奥さんにも一つ」と言って2個もらったこともある。誰に対しても優しいMさんは、つい先日までスーパーカブのバイクに乗っていたが、どうしたのだろう。自転車で4㎞も先にあるスーパーに買い物に行く後ろ姿は、まだまだ元気そうに見えた。