奥さんが所管の菜園で、今年は今までに見たこともないような大きな大根が収穫できた。白く大きな足のことを大根足というが、この大根は妙齢の美女の足ではなく、まるで相撲取りのふくらはぎのように大きく立派であった。
おかげでこの冬は、数日おきに大根の煮物やおでんが食卓に上った。体にもいいし、白いご飯にもよくあっておいしく、何の不満もなくせっせと食べていた。奥さんは、そんな毎日に少し疑問を感じていたのかもしれない。ある日「こんな物を買って来たわ」と、目新しいものを私の目の前で吊るして見せた。
「干しかご」である。3段の棚がついた網で作った干しかごである。蛍かごの大きなものと言おうか、野菜や魚の干物を作るために売られている。「これで切り干し大根を作ってみようと思って」という。
買ってきた切り干し大根で作った煮物は食べたことはあるが、我が家で育てた大根で作った切り干し大根を食べたことはない。「おお、やってみよう、やってみよう」。私も同調して支度にかかった。大根を突くための木製の「切り干し器」も買ってきた。
大根の皮をむいて4分割し、面白いようにスッスッと突いていく。3段の網棚にいい按配の量でばらまいた。好天気が3日続いたあと、ずっしりと重たかった干しかごが十分の一くらいにの軽さになった。手作りの干し大根が完成した。
大根は、太陽の光を浴びることで、糖化されて甘味が増し栄養価も増加する。骨や歯を丈夫にするカルシウムは15倍、悪性貧血を予防する作用がある鉄分は32倍、代謝を促進するビタミンB1・B2は10倍と、同量の大根と比べた場合、栄養価は非常に高い。食物繊維も豊富に含まれていて、コレステロールを体外に排出し動脈硬化を予防する作用や、便秘を改善し大腸ガンを予防する作用、美肌にも効果的だという。
日に干しただけで、おいしくなるとともに栄養価も大幅に増すとは不思議だ。夕食のおかずに早速煮しめて食べてみると、確かに甘く歯ごたえもいい。これで体にいいとなれば、もう何本か切り干し大根にして見る気になっている。
最近、私の腋が極端に甘くなっているのも、長年日に干してきたせいだろうか。甘くなるのは、大根だけでもなさそうだ。