久しぶりに朝から薄日が差し、気温もそれほど低くもない日、長い間懸案にしていた、納屋の大蔵ざらいをすることにした。大蔵ざらいといっても、長年使っていない物や不用品ばかりで、売りに出すようなものは全くない。
その昔、父が建てた納屋である。父母が菜園に使っていた農機具、機械いじりが好きだった父の工具や木工の道具に加え、うちの奥さんが菜園に使うシートやネットに肥料類、それに私が木工に使う木材などが、乱雑に置いてある。
ストーブに火をつけて暖を取りながら、納屋のものをすべて運び出した。出るわ出るわ、こんなにたくさん入っていたのかと思うほどいろいろなものが出てくるが、お宝のようなものは全く見つからない。
祖母が嫁入りのときに持ってきたタンスの上半分があるが、腐食し始めているので、分解してストーブに入れた。私が高校の時に使っていた机も同じく腐食が進んでいる。懐かしいものではあるがこれもストーブの燃料とした。
道具箱の入った引き出しを開けた時、懐かしいものを見つけた。三股の電気ソケットである。ほこりを払って刻印を読んでみた。ナショナルのマークの反対側に「3A 250V」と書いてある。
電球のソケットが2個と、プラグ用のソケットが1個、合計3個のソケットが一体となったものである。一仕事を終え、部屋に入り「三股ソケット」と入れて検索してみた。
「家庭内に電気の供給口が電灯用のソケット一つしかなかった時代に、電灯と電化製品を同時に使用できるようにした二股ソケットは、松下電気器具製作所創業当初のヒット製品の一つで、松下幸之助の代名詞である。亀の子タワシ、地下足袋とならび大正期の三大ヒット商品の一つ」と書いてある。
そんな二股ソケットに続き三股ソケットは、1970年に、1個970円で発売されたものであるが、2010年に製造中止となっている。ひもを引っ張るとまず、大きい電灯が、もう一度引っ張ると小さい電灯が点き、もう一度引っ張ると消灯するという、当時としては画期的なソケットとして好評を博したものであったという。
お宝鑑定団に出すようなものは何もなかったが、三股ソケットを見ながら、一灯の白熱電灯の下で家族5人で団欒していた昔を懐かしく思い出した大蔵ざらいであった。