写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

散歩閑話

2012年09月26日 | 生活・ニュース

 夕方の散歩中の閑話を4題。

その1.
 散歩中、いつもすれ違う2人連れのご婦人が、その日は1人で歩いている。「今日はお連れはどうされました?」と聞くと、「遠くの病院へ行って帰ってきたところなので、お疲れのようです」という。「あの人は何という名前ですか」「Mさんといいます。字はこういう字です」と言って、字まで教えてくれた。Mさんの名前を教えてくれたこのご婦人の名前は、以前教えてもらったことがあるが忘れてしまった。今度は、Mさん1人が散歩しているときに、このご婦人の名前を教えてもらおう。

その2.
 土手沿いの小道を歩いていたとき、川を挟んだ向こうの道を、男子高校生が2人が自転車に乗ってやってきた。通り過ぎるとき、2人の会話の一部が聞こえた。「おい、俺は最近こんな所にニキビが出来始めたよ」「……」。見ると、話しかけた子が、ニキビが出来た所を指差している。鼻の下、上唇の上あたりだ。確かにこの辺りにニキビが出来るのは珍しいか。まあ、青春の悩みとしては大したことではないようだ。もう少しましな話題はないものか。

その3.
 2.5kmの散歩のコースを、私は右回りで歩いている。一方、左回りで歩いている人もいる。出会う人ごとに「こんにちは」と会釈をしながらすれ違う。中には帽子を目深にかぶり、かたくなに下を向き、挨拶を拒絶しているように見える女性もいる。そんな人と出会ったときには、そっとしておくことにしている。コースを1周していると、帰り道でもう一度、往く道で出会い挨拶やちょっとした会話をした人と又出会う。お互い、ただにこにこ顔で「じゃ~」くらいの挨拶ですれ違う。ちょっとぎこちない再会が、帰り道にある。

その4.
 いつも出会う3人組のおばちゃん達がいる。私が1人で散歩しているときには「今日は1人ですか?」、奥さんと2人で散歩をしているときには「今日はお2人ですね」と話しかけられる。毎回決まった会話を、散歩のたびにずっとしているが、大した意味のないこんな会話をコミュニケーションというのだろう。


千秋楽

2012年09月25日 | 生活・ニュース

 このところ殆んど見ない大相撲ではあるが、秋場所千秋楽の結びの一番だけはテレビで観戦した。大関日馬富士が1分46秒という大相撲の末、渾身の下手投げで横綱白鵬を破り、大関2場所連続15戦全勝で優勝した。久々に見応えのある大相撲を見せてもらった。

 翌日の新聞記事を読むと「日馬富士は、前ミツをとれば俵に押し込み、残されれば下手投げで畳みかけ、横綱はたたらを踏んで横転した」と表現している。テレビで見ているとき、確かに横綱は右足1本でとっとっとっとっと、3回たたらを踏んだ後の4回目のたたらを踏んでひっくり返った。

 歌舞伎以外でこんなにきれいにたたらを踏む所作は初めて見たような気がする。ところで「たたら」とは一体何か? 調べてみると「たたらとは、金属の精錬・加工に必要な空気を送り込む大型のふいごのことで、足で踏んで空気を吹き送る。たたらを勢いよく踏む様が、空足を踏む姿と似ていることから、勢い余って踏みとどまれず数歩あゆむことを『たたらを踏む』というようになった」と書いてある。

 たたらを踏むと表現するあの所作は、要は空足のことで、足踏み式のふいごを踏む動作に似ているからということが分かった。家の中でも、ちょっとした段差などでとっとっとっと、2~3度たたらを踏むようなことは時にあるが、横綱のようにきれいに4回もたたらを踏むようなことはない。 

 その後の表彰式の様子はニュースでしか見なかったが、野田総理が内閣総理大臣杯を手渡した。その時「本当に久しぶりに、死力を尽くした鳥肌の立つような相撲を見ることができた」と結びの一番を称賛していた。「鳥肌が立つ」とは、急激な寒さ、恐怖などが原因で、立毛筋という筋肉が反射的に収縮しておこる現象をいう。

 感動や興奮など肯定的な意味で「鳥肌が立つ」を用いるのは正確にいえば間違いであるというが、言葉は生き物、時代が変われば間違った使い方でも、間違いとは言わなくなる。「鳥肌が立つ」の表現も、総理大臣が土俵の上で堂々と言えば、もはや市民権を得たということになるのだろうか。相撲の中身もさることながら、言葉の勉強もさせてもらった千秋楽の大一番であった。


夢 想

2012年09月24日 | 生活・ニュース

 5時半に出かける夕方の散歩も、めっきりと涼しくなり汗もかかなくなってきた。ついこの間までは、散歩から帰って来ると汗が出て、シャワーを浴びるとすぐに冷えたビールが飲みたくなったものだ。

 ところが9月も末のこの季節になると、350ccといっても缶ビールを1缶飲むのは私にとっては荷が重い。9月に入ってからウイスキーのボトルを買っておいた。ウイスキーであれば、ボトルから適量をカップに注ぎ、氷を落として水割りにすれば、その日の気温や体調見合いの量を飲むことが出来る。

 今日初めて、サントリーの角瓶の封を切った。グラスに注ぐとき、ドクドクッと気持ちよい音がする。氷を入れてかき混ぜていたとき、テレビからコマーシャルの歌が流れてきた。
 ♪ ウイスキーが お好きでしょ もう少し しゃべりましょ 
   ありふれーた 話でしょ    それでいいの 今は

   ウイスキーが お好きでしょ この店が 似合うでしょ
   あなたは 忘れたでしょ   愛し合った ことも ♪

 今は誰が歌っているのか知らないが、1990年から1991年にかけてサントリークレスト12年のCMソングとして石川さゆりが歌っていた楽曲である。2007年から小雪出演のサントリー角瓶のCMソングとしてリバイバル使用されていた。

 グラスを傾けながら、その歌詞を口ずさんでいると、ある情景を夢想した。他の客のいない薄暗いスタンドバーで、カウンターをはさんで小粋なママとたわいない会話をしている。「さあ、もう帰ろうかな」なんて言うと、すかさずママが「もう少し しゃべりましょ」と帰してくれない。「何を話そうか?」って聞くと「ありふれた、何でもない話でいいの」と水割りを作ってくれながら流し眼で見る。

 「昔のことを覚えている?」って聞くので「昔のことは忘れたなあ」って答えると「あなたは 忘れたでしょ 愛し合ったことを」なんて言いながら腕をつねる。苦笑しながらもう一杯水割りを空けたが、飲めない酒で酔いが回り、あとはおぼろ……

 こんなことはついぞなかったが、似たようなことがあったかなかったか。思い出すには時が経ちすぎたようだ。こんなことを夢想させるウイスキーを、秋の夜長に「しずかに飲むべかりけり」か。見上げると、南の夜空に今宵は半月が遊んでいた。 


声別鑑定

2012年09月23日 | 生活・ニュース

 満を持して出版した岩国検定テキスト「いわくに通になろう」は、市内の本屋さんで販売したほか、会員各自が知り合いを通して買ってもらった。発売開始して1週間後には、作った300冊が完売目前となっていた。慌てて100冊追加発注したが、これ以上は都合により増刷できないと印刷屋さんから釘を刺され、欲しい人全員へ届けることは出来なかった。

 そんなとき、我が家に見知らぬ番号からの電話がかかってきた。「いわくに通の本が3冊欲しいのですが……」という。職場から昼休みにかけてきた電話であった。手持ちがないことを説明し、1週間後であれば追加発注のものが入荷するので待ってほしい旨を伝えた。電話を切った後「そうだ、本屋には数冊なら、まだあるかもしれない」と思い、それを伝えるため、すぐに折り返して電話をした。

 「もしもし、そちらに岩国検定の本を買いたいと、今電話された方はおられませんか?」。ややあって「はい私ですが、何でしょうか」と高い澄んだだ女の声がした。「あれっ? 先ほど電話をいただいた者ですが、確か男の方からでしたが……」と言うと、「それは私です。今はよそ行きの高い声を出していますが、普段の声は低くて、よく男性と間違われるんですよ」と笑いながら言う。

 あ~、驚いたというか、失礼なことを言ったというか、とんだ冷や汗をかいてしまった。第1声を聞いた時から、男の人だと確信していた。それにしても第2声であんなに声を変えてくるなんて、器用というかなんというか、ただただ驚かされた。本人も笑って応えてくれたのを見ると、結構いろいろな場面でこんな間違いをされているのかもしれない。

 最近は声ではなくファッションでは、見た目だけでは男女の区別が付きにくい服装をした若者がいる。声を聞いて性別を間違えたことは初めてだ。いやいや、現役時代、2次会3次会のスタンドバーのカウンターに座って話したあのママは、ドレス以外は顔も声も男だったか。それにしても電話のあの声、確かに男の声だったよな~。


先入観

2012年09月22日 | 生活・ニュース

 家での印刷は、3年前に買ったキャノンのプリンターを使っている。最近のプリンターの価格は、こんなに安くていいのかと思うくらい低価格となっている。買う者にとってはうれしいことだが、これには裏がある。

 消耗品であるインキは、プリンターを使えば当たり前のことだが減っていき新品と交換する日はやって来る。ところが、この交換するインキカートリッジが高すぎる。5色全部セットで買うと5千円余りもし、プリンター本体価格の3分の1にもなろうというものだ。メーカーは、高価なカートリッジで元をとっている。

 そこはそこで、世の中考えている人がいる。大手の家電商品店でも、純正品の横に非純正品が堂々と並べてある。純正品の3割方の価格が嬉しい。「本商品を使用してプリンターが故障しても保証はしません」などの表示はしてあるが、この非純正品を買って使っている。

 問題なく使っていたが、インクがなくなったので、買い替えて使っていた。今朝のことである。モノクロの書類を印刷したところ、黒色が灰色となって印刷される。まるで不祝儀の封筒の文字を連想させるような色だ。「おかしいな」。ノズルのクリーニングをやってみたが直らない。黒色のインクの残量は十分あるのにおかしい?

 考えてみると、数日前に印刷したころから、こんな傾向があった。「色が少し薄いな」くらいで見過ごしていたが、 そのころからおかしかったことに気が付く。「う~ん」とうなってプリンターを開けてみたり閉めてみたりの思考タイム。安い非純正品だから、こんなトラブルもあるかもと疑ってかかる。

 ちなみに、黒のインクを新品と取り換えてみることにした。保護フィルムを取り外すと、中にもうひとつ小さな紙シールが貼ってある。使っていたカートリッジを見ると、シールの一部がはがれずに残っている個所を発見した。カートリッジに空気を取り入れるための小さな孔の個所であった。「はは~ん、犯人はこれだ。ここが塞がれていたのでインキが落ちにくかったのだ」と判断。

 この紙を取り除き、印刷すると、いつものようなきれいな文字が出てきた。一件落着だ。いやはや、ちょっとしたインキ交換ミスが、とんだ時間の浪費となったが、非純正品は、私のようにいつも疑い深い目で見られているのだろうか。もの言わぬカートリッジが私の思い込みを咎めているように見えた。