寒柝や 長き手紙の 封をせり 岡田史乃
「柝(き)」とは、歌舞伎では楽屋内の合図、幕の開閉などに用いる拍子木のことをいうが、特に寒い冬の夜に打ち鳴らされる拍子木のことを俳句の世界では「寒柝」といい、冬の季語であることを知った。
「火の用心」と声を上げながらの寒柝の音は、どこか物悲しさを感じさせる。長い手紙を書き終えてほっと安堵した作者の耳に、遠くの方から寒柝が聞こえてきた。書き終えて、ふと我に帰った状態を巧みに捉えた句である、と解説してある。
寒柝ともいう拍子木の音を、今年も家にいて聞くことができた。毎年のことであるが、年の瀬の28、29、30日の3日間、地区の消防団が「夜回り」をしてくれている。特に冬の夜、火の始末の注意喚起のために拍子木を打ちながら見回ることから、「夜回り」も冬の季語となっている。
昨日も、夜も更けた11時ころ、カッチ、カッチと冴えた冷気を裂くように拍子木の音が聞こえてきた。窓のカーテンの隙間からそっと覗いてみると、法被姿をした2人の男が、拍子木を鳴らしながら足早に去っていくのが見えた。
今どき、こんな夜回りをしてくれる地区は非常に少ないと思うが、古くからの習慣を残してくれていることを嬉しく思うとともに、その労に感謝しながら、年末の風物詩として楽しんでいる。こんな人のお蔭で、地域の安全が保たれている。(写真は、2007年12月30日のもの)