写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

折畳み傘

2006年04月30日 | 生活・ニュース
 新聞の”お役立ちグッズ"というコラムに、「折り畳み傘・ワンタッチで自動開閉」という記事が出ていた。

 握り手についているボタンを押すと、パシャッという音と共に2段階に柄が伸び、傘が開く。もう1度ボタンを押すと、柄はそのままで傘の部分だけが閉じるというものだ。

 片手がふさがっている時には便利で、色もサイズもいろいろあり、憂鬱な雨の日を、少し楽しくしてくれるお役立ちグッズだと書いてある。

 この記事のものとはメーカーは異なるが、私はもう5年も前に、この種の傘を車のディーラーで手に入れていた。

 車検の予約をするために店に行った。ショウルームを眺めているとき、車メーカーの小粋な小物が並べられている棚を見つけた。

 その小物のひとつが、このワンタッチで自動開閉する折り畳み傘である。気に入って、すぐに買い求めた。3000円くらいだったと記憶している。

 滅多に使うことはないが、雨の日、片手に荷物を持って外に出る時に、ずいぶん便利なものだと感心した。

 しかし、新聞に書いてあるように、いいこと尽くめの話ばかりではなかった。強い雨の降るある日、こんなことがあった。

 人があまり持っていない、ちょっと自慢のこの傘を差して街を歩いていた。私は歩きながら傘をクルックルッと回す癖がある。

 いつものように、傘をクルックルッと回しながら歩いていた。と、その時である。パシャッと、急に傘が閉じて大粒の雨が頭の上に落ちてきた。

 あわてて開こうとしても、いったん柄を押し込まなければ開かない構造となっている。

 理屈は分かっているが、いざとなるとなかなかスムーズに開かない。その間に、雨は容赦なく降りかかり、水のしたたる男になってしまった。

 傘の握り手を持って回している時に、誤ってボタンを押してしまったのだ。

 コラムに紹介してあるように確かに良いものには違いないが、良いものの裏には悪さがあり、便利なものの裏には不便極まりないところがある。

 新聞を読み、あの日のことを思い出して、ひとり苦笑いをした。正直に言うと、あの日のことだけを思い出したのではなく、あの日とこの日と、もうひとつのあの日のことを思い出したからである。

 この傘を買い求めたい人へひと言。この傘は「自動開閉」であって、「自動開閉開」ではないことをよく理解しておいて下さい。
  (写真は、思いがけない時に開くドイツ製「自動開閉傘」) 

小啄木鳥

2006年04月29日 | 季節・自然・植物
 久しぶりに暖かい日だった。妻が出かけていき、自分で淹れたコーヒーをブラックで飲みながら、パソコン越しに満開の花水木を眺めていた。

 と、その時、窓に近い太い幹に、今まで見たこともない小鳥が1羽やって来て止まった。止まったといっても、枝の上にではない。

 垂直に立つ幹に、しがみつくようにして止まった。とがった口ばしで、軽く花水木をつついている。

 よく見ると、黒い羽に小さな白点がある。見たこともない珍しいお客さんであった。動きから見るとキツツキに違いないと思った。

 暇に任せて、ネットで調べてみた。「キツツキという名がついた鳥はいない。木をつついて虫をとったりする鳥の総称である。コゲラは最も小さいキツツキ、最も身近なキツツキである。

 木の幹を忙しく動き回っているのは、餌を探している時だ。キツツキの舌は長く伸ばすことのできる優れもので、それを餌に引っ掛けて引き出すことができる」と書いてある。この鳥はどうもコゲラのようだ。

 漢字で書くと小啄木鳥、なかなか趣のある洒落た字だ。「コタクボクチョウ」とも読める。いい名前をつけてもらっていて、うらやましくも思う。

 我が家の花水木に、虫はいるのだろうか。数本の枝を、ごく短い時間つついたあと、あっという間に飛び去ったまま戻ってはこなかった。

 めじろ、ヒヨ、ジョウビタキは時に訪れてくれたが、コゲラが来たのは初めてであった。赤い花水木を見に来てくれたのだろうか。

 動きの面白いキツツキが本職のコゲラが来てくれるのは嬉しいが、キヅツキよごれた花水木だけは見たくないと、窓越に願うばかりである。

 天気の良い午後コーヒーを片手に、東海の小島の磯の白砂ではないが、小啄木とたわむるひと時であった。
   (写真は、初めての珍客「コゲラ・小啄木鳥」)

新会員デビュー

2006年04月28日 | エッセイ・本・映画・音楽・絵画
 満開が過ぎた桜が、風もないのに、ちらりほらりと花びらを落とし始める頃であった。

 ブログでお付き合いのある、岩国のYさんのブログをいつものように開いてみた。

 雨の朝、バイクで出勤する途中、桜の花びらがヘルメットにまといついたさまを、300字余りの字数で感情豊かに表現していた。

 おっ、これは素晴らしい。時宜を得たいいエッセイだと直感した。それを読んだ朝も小雨が降っていた。

 その中を、Yさん経営の店に出かけていき、「これを250字にまとめて、是非毎日新聞『はがき随筆』に投稿しませんか」と薦めてみた。

 「やってみましょう」と快く、挑戦された。掲載されるかどうか、毎日心待ちしながら新聞を広げていた。

 1週間が経った日の朝、Yさんのエッセイが掲載されているのを見つけた。我がことのように嬉しく、すぐにお祝いの電話を入れた。

 原文にさらに磨きがかかり、見事なエッセイとなっていた。新聞掲載という実績を引っさげて「岩国エッセイサロン」に、またひとり若い新会員が加わった。

 Yさんの投稿エッセイ読んでください。Yさんのブログは以下のとおりです。
       http://blog.livedoor.jp/iwakuniyouth/
  (写真は、Yさんのブログにあった「ヘルメット」)
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         「心の天気予報」

 「いってきまーす」。花散らしの雨を降らす空を見上げながら玄関を出た。「ふー」と鼻でため息を吐き、スクーターにまたがる。

 シールドのついた、ヘルメットをかぶる。雨の日の通勤は心も雨模様だ。家を出て坂を下る。雨の滴がシールドをぬらし、いつもの景色がぼやける。

 桜並木の道に入る。雨の滴とは違うものが目の前に張り付いた。桜の花びらが一片、「連れてけ」と、しがみつく。小さなお供……。

 「おお、連れてっちゃるけぇの」話し相手の無い、通勤おやじライダーは答えた。心の天気予報が、雨のち晴れに変わった。
   (2006.4.26  毎日新聞「はがき随筆」掲載) 

満開・花水木

2006年04月27日 | 季節・自然・植物
 1週間前から咲き始めた花水木が、私の観測では今日満開となった。昨年の手帳を見ると、やはり今日の日が満開だと書いている。

 温暖化傾向にあると言われながらも、自然の1年の営みは、そう急には大きく変わっていないことを実感し、少し安心をする。

 出窓越に見える、咲き誇った鴇色(ときいろ)の大きな苞を、しばらくの間、口をあんぐりと開けて眺めていた。

 そのうち「ひとつ、ふたつ、みっつ……」と、手前の枝についている花を目で数え始めた。小さな枝だけで50個も花を付けている。

 少し大きな枝には70個。もっと大きな枝では、ざっと150個も付けている。そんなことから推測すると、この木全体では、2000~2500個の花が咲いているのだろうか。

 満開になってからは、日に日に苞が大きく伸びていく。花の大きさとしては数日後が1番華やかなのかもしれないが、何ごとも、早めが良かろうと思い今日アップすることにした。

 18年前、家を新築したときに、2~3年経ったものを妻が買ってきて植えた。その頃、まだ若かった私は、庭木になんか全く無関心であった。

 しかし退職した今、毎日、私が一番向き合っているものは、この花水木である。すぐ隣には、同じ時に植えた、開花時期のやや遅い白い花水木が咲き始めたところだ。

 やや小ぶりの花であるが、数は多い。3000~3500個といったところか。これも満開になったらブログにアップしたい。

 「白い花」と書いたが、純粋な白色ではない。その色の表現は、アップする日までに考えておこう。なかなか趣のある色だ。

 今日のブログは、エッセイというものではなく、庭の季節の切り取り報告となった。

 ということで、落ちがない終わり方になるが、この花水木を見ていただいて、少しでも心が落ち着けば、落ちがついたと言えませんか? 言えないか~。
  (写真は、今が満開の「鴇色・花水木」)

春季県高校野球大会

2006年04月26日 | スポーツ・山登り・釣り・遊び
 
   (マウスオン)
 春の選抜高校野球は、地元の高校が出場しなかったこともあり、関心を持つこともなく幕を閉じた。 

 近くの先輩からの誘いに乗って、開催されている春季県高校野球大会で、母校の岩国高校の試合を見に行った。

 昨年こそは甲子園出場を逃したが、県立高校でありながら1昨年とその前年と、2回連続で甲子園に出て、ベスト8にまでなった野球部である。

 平日とあれば、観客は少ない。他の生徒は学校に行っている間に、選手は野球をやっていることになる。まあ、これも勉強のうちということだろう。

 父母会が20人くらい、おそろいの白い特注ウインドブレーカーを着て声援している。背中に「IWAKUNI」、胸には学校のマークが入っている。

 試合は6対4で勝った。しかし、両チームともこの時期の選手の動きは、まだまだ卵からかえったばかりのひよこだ。

 バントミスあり、走塁・連携プレイミスあり、落球・暴投・トンネル・捕逸と、ミスのオンパレードであった。

 しかし、今はまだ4月。どの学校も新チームを結成したばかりだ。体裁が整ったばかりの時である。

 3ヵ月後の夏の大会に向けて、5月後半にもう一度県大会もある。選手は個人のスキルアップはもちろんのこと、チームワークに磨きをかけるべく精進が始まる。

 試合中、父母会のウインドブレーカーがどうしても気になった。父母ではないがOBのひとりとして私も欲しい。

 デジカメをもって尋ねてみに行った。「どこでかえるのですか?」「いくらですか?」「OBも買うことができますか?」

 3800円で、父母会に申し込めば誰でも買うことができるという。訊いてはみたが、父母でもない私は、買うことを少しためらう。

 勝敗は別として、夏の大会には、心身ともに鍛錬をしたいいプレーを見せてくれるのを楽しみにして、球場を出た。
 
 試合を終えた球児も出てきた。グラウンドの上では、体格も良く立派な大人に見える選手も、近くで見るとまだまだ幼さを残している。

 私は観客席に座り、プロ野球を見るような厳しい評論をしていたことを、少し反省した。野球も勉強であるという高校野球の原点を忘れかけていた。考えてみると、高校野球は、親コウコウの野球でもあった。
    (写真は、柳井球場での「春季県大会」)