写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

新型車発表

2013年02月28日 | 岩国時遊塾

 先日、針金自転車作りの教室を開いて以降、このところ私自身が針金細工にちょっとはまっている。針金で家の表札と「工房木馬」という家業の看板を作り玄関入口の外壁に取り付けた。なかなかおしゃれでよく出来たと自己満足している。

 世の人々は、針金でどんなものを作っているのかをインターネットで調べてみた。いかにも素人ぽいものから玄人はだし、まさに芸術品とも言えそうな作品までいろいろな出来栄えのものがある。その中で、今まで作ったことのないチャーミングな構造をした自転車を見つけた。やっぱり一筆書きの手法で作られたものだ。それを参考にして、私なりにアレンジした新しい自転車を作ってみた。

 今まで作っていたものに比べると、難度は80%くらいだが見た目は遜色ない。アルミで作ったあと、くだんの真鍮で、出来る限り小さいものを目ざして作ってみた。出来上がってみると、思っていたものよりはやや大きめのものになった。洋服ダンスから紺のブレザーを取り出し、左の襟にある飾りのボタン穴を利用してぶら下げてみた。

 デパートの紳士用小物売り場を歩くと、スーツの襟もとを飾るいろいろな小道具が売られている。それを意識しての針金自転車を作って取り付けてみたが、ひいき目に見るからだろうか、なかなかいい。色も金色、純金製に見えなくもない。早速、同好会にこのブレザーを着て出かけた。

 もうひとつ評価が芳しくない。襟飾りにしてはやや大きすぎるとの声が上がった。夕食後、私の腕で作ることが出来る最小のものに挑戦した。車輪の大きさは1円玉の7割方か。これ以上小さくは作れないという限界のものである。出来上がったものは形がややいびつなところはあるが、小さい分だけ愛らしい。

 ブレザーにつけてみた。大きさとしては、まあ満足。針金自転車作りは、究極のこの一品が出来たところで再び小休止に入る。いつかまた時遊塾に針金自転車教室の申込みがあれば、またぞろ針金を取り出すことになる。針金細工でもいいから、何かしていないと、毎日がどうもハリガネェもんです。


出会えたよろこび

2013年02月26日 | エッセイ・本・映画・音楽・絵画

 26日の毎日新聞のコラムに随筆家の山本ふみこさんが「出会えたよろこび」と題して、いいことを書いていた。1年に1度でさえ、会いたいと思っている人にもなかなか会えなくなってきた。縁を強固にしたいと気負ってみることもあった。近年、この世で一度でも会うことの出来た縁を、奇跡のように考えるまでになっているという。

 そう思うようになったきっかけは、台所である。1年に1度しか出会わぬ相手が少なくない。今の季節ならフキノトウ。じきに菜の花、小カブ、新キャベツにタケノコ。1年に1度出てきたら、すぐ通り過ぎてゆく。台所には、移ろうことの意味を教えてくれる相手が沢山ある。季節にも人にも、通い合うものがあると書いている。

 出会えるよろこびをエッセイとして表現している。若いころはめったに会うことのできない友とでも、別れぎわは「じゃあ、また」と軽く片手をあげる程度の軽い別れですませることが多かった。この頃は少しそれが変化してきた。1年に1度、会えるかどうか分からない人とは、丁寧なあいさつで別れるようになっている。今度会える確かさが少し気になり始めたからだろう。

 「出会えたよろこび」があるということは、反面「嬉しくない出会い」もある。顔も見たくないと思う人もいる。ほんの些細な行き違いや、感情のもつれなどでどちらからともなく疎遠になった。どこかでばったり出会ったとしても、話しかけることはないだろう。この年になって、そんなことでいいのか。

 いいことではないことはよく分っている。気の遠くなるような地球の長い歴史の中の、刹那ともいえるほんの短い一生を、同じような場所で生き、たまたま出会ったということは奇跡でもある。毎年、目の前に現れてくるフキノトウやタケノコなど自然のものとは違って、人は毎年決まったように眼の前に現れてはくれない。能動的に接触を試みない限り、疎い人に出会うことはない。

 これからは、親しい人とだけ出会うのではなく、そうでない人とも出会わなければ、地球上で同じ時期を生きたことにならないように感じ始めている。過去1度でも出会った人は、すべてが縁あって知り合った仲間なのだから。春を予感させる小雨の降る午後、新聞の随筆を読みながら、坊様が説教するようなこんなことを考えてみた。


ヘッドライト

2013年02月22日 | 生活・ニュース

 天気の良い日の午後、用事があって奥さんと2人で広島に出かけた。帰り道、宮島口を過ぎ海が見えるところを走っていると、私が好きなイタリアンレストラン「Miya」が見えてきた。その時、ぐう~、急に腹が減ってきた。久しぶりに海を眺めながら食事をすることにした。

 先客が1組いる部屋で、海の見晴らしのいい窓際の席に案内された。カキいかだの向こうに宮島が、視線を少し上げると岩国・大竹のコンビナート群が、はるか遠くに目をやると周防大島の山並みがはっきりと見える。冷たい空気が山の端をくっきりと見せてくれる。

 店員からメニューの説明を聞きながら注文を済ませた後、窓ガラスを通して夕凪の海を見ているとき、遠く真南の低空で、こちらに向かって小さくきらきらと光を放つものを見つけた。じっと目を凝らして見ていると、光は徐々に大きくなりながらゆっくりと下がっている。

 時計を見ると5時半だ。岩国錦帯橋空港に降りてくる全日空機のヘッドライトだと直ぐに分かった。5時半に着陸する便があることは知っている。機は東京から真西に向かって飛んで来て、周防大島の上空で大きく右に旋回し、真南から滑走路に向かって降下してくることも、一度見て知っていた。

 機体は確認できないが、着陸する様子が30kmも離れたこのレストランから何の邪魔物もなく眺められた。真正面から見ているとダイアモンドがゆっくりと空から海に降っているようにも見える。こちらに向かって近づいてくる感じは全くない。もちろん爆音も聞こえない。海の上での何か静かなショーを眺めているような感覚になった。

 光を発見して10分後、小さく揺れて無事滑走路に降りたとき、見計らったように注文したパスタがテーブルの上に着陸、いや置かれた。運んできた若いウエートレスに、この10分間の様子を話すと「わあ、わたしもみ見たいですう」と話を合わせてくれた。このレストランを、岩国錦帯橋空港の「展望レストラン」と呼ぶことにした。 


もうけた気分

2013年02月20日 | 生活・ニュース

 毎年この時期、あるものを期待しながらやる作業がある。所得税の確定申告である。毎年、2カ月分の小遣いくらいの額が還付されてきた。この還付金とやらは、源泉徴収されたとき、払い過ぎた税金が手元に帰って来るだけであって、宝くじに当たったように余分な金が突然舞い込んできた訳ではない。還付金の欄がプラスになると、なんとなく得をしたような気分になって、自然と頬が緩んでくることがおもしろい。

 今年は2月18日から申告を受け付ける旨の知らせが税務署から送られてきていた。いつものように手引書を見ながら手書きで欄を埋めていく。収入の項目は毎年変わりはないので前年の申告書の控えを見ながら同じように記入する。大きく数字が変わるのは、医療費の欄である。

 入院をしたような年にはこれが大きく膨らむが、昨年は夫婦お互いがまあ元気に暮らしたので平年並みの30数万円であった。医療費としては、診療費はもちろん薬代、交通費など全てを算入する。計算結果、今年の還付金は数万円となった。これを見ながら、「もし、医療費がゼロだったら還付金はどうなるだろう?」と思い、税務署から帰りそのケースを試算してみた。

 還付金が2万円弱減る計算となった。お~、結構な減額となることが分かった。かといって、還付金を増やすために、病院通いを増やすわけにはいかないが、国は病人に対してこの程度の税金の軽減措置を図ってくれている。

 税務署の中は、確定申告の相談者で超満員であった。相談を受ける体制も大変そうだ。私が訂正個所を直しているとき、隣の席から申告を済ませた男が係の人に質問をしている。「還付金はいつ振り込んでくれるのですか?」「1ヶ月くらいは、かかると思います。はがきで連絡をいたします」。

 申告が終わり還付金があると分かれば、1日でも早く返してもらいたいのだろう。分かるな~分かるよ、その気持ち。もともと自分のお金だもの。一刻も早く手元にと思うのは人情だ。私が聞こうと思っていたことをこの男が尋ねてくれた。外は快晴、春が一足早くやってきたような陽気だ。気持ちも晴れ晴れ。捕らぬ狸の皮算用。早速先行消費にちょい出かけてみたくなった。


黄金自転車

2013年02月19日 | 木工・細工・DIY

 また作ってみるか。椅子から立ち上がって外を見ると、昨夜から止むことなく小雨が降っている。そういえば今日18日は24節気の「雨水」。「空から降るものが雪から雨に変わり、雪が溶け始めるころ」だという。

 「私にも、針金自転車を作ってください」。先週、知り合いの女性から、といってもおばちゃんからだが、針金自転車のリクウェストが来ていた。ついこの間、久しぶりに作る機会があった。針金を一筆書きの要領で曲げていくが、しばらくやっていなかったので満足のいくものは出来なかった。この女性の要望にこたえるため、ちょっと真面目に針金自転車に挑戦してみることにした。今まで使ってきた針金は、曲げやすい材料としてアルミの針金を使ってきた。太さは2mmのものを選んでいた。

 調達先は100円ショップだ。行ってみると、最近はいろいろな材質、太さ、色のものが置いてある。珍しい色が目に入った。黄金色である。「独特の光沢が美しい」と表示してある。太さが1.2mm、長さが5mの真鍮(しんちゅう)製の針金である。手に取ってみるとまさに金に見える。「これだ!」、1巻きを買って帰った。

 線が細い分、小型のものを作ることにした。1mの長さに切って細工を開始する。真鍮はアルミより少し固いが、細いので加工するのは難しくない。初めて使う太さなので、どのくらいの大きさに作ればバランスの良いものが出来あがるのか少し心配しながら曲げていく。

 20分かけてやっと1台が出来上がった。ちゃんと立つように全体の形を整えて、眺めてみた。お~、中々いいじゃないか。アルミと違ってまさに金細工に見える。若干の反省点があったので、続けて2台目を作ってみた。1台目は70点、2台目は90点の出来栄えか。

 それぞれを玄関と居間の飾り棚に置いた。掃きだめの鶴とまでは言えないが、雨空で暗い部屋の中で輝いて見える。これからしばらくは、真鍮を使って「黄金自転車」を作ってみよう。あげた人に「材質は?」と聞かれたら、「金です」と言い張ることにしているが、本当は真鍮を使っているだけに心中は穏やかでない。