リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

音楽を語る(3)

2023年11月27日 20時03分13秒 | 音楽系
ゴーティエの出版物における奏法説明のところにはこんな下りがあります。

「文字の後にカンマがある場合、その弦を左手の指のどれかで引っ張るべきことを示している。すなわち文字の上に八分音符を表すリズムサインがあるときは一度だけ、四分音符なら2回、付点四分なら複数回、そして印のあるカデンツの終わりまでスラーによる装飾(トランブルマン)を行う。しかしそれぞれ作品の旋律とその動きの性質により装飾(アグレマン)の種類を扱ってよいことを心に留めておくべきである」(小川伊作訳をもとに中川が意訳しました)


これもそこそこ具体的には書かれていますが、でも実際はどうするの?というレベルになると、これだけの記述では弾くことができません。きちんと出来る専門家に教えてもらうなり、ちゃんとした演奏家のCDをよく聴くしか方法はありません。

ブサールの論文(VARIETIE OF LUTE-lessonsなどに所収)にも興味深い下りがあります。

「さてこの場をお借りして、皆様方にはリュートで使われる甘美な装飾音、レリッシュとシェイク2に関するルールを知っておく必要があると申し上げたいと思います。とは言うものの残念ながらそれらは口で言ったり書いたりして表すことができないということをご理解頂きたく、一番いい方法としては上手な人の真似をするか、自ら練習を重ねて習得するということになります」(拙訳)


装飾の仕方でさえ、これらの歴史的文献は一番肝心なところには何も答えてはくれません。ましてや音楽全体のことについてことばで表すことは全く不可能です。50年くらい前、リュートに完全に移る頃の短い期間でしたが、師事していたギターの松田晃演先生はこういうふうに仰いました「木というものがどんなものか正確に伝えるには木を見せて触らせるしかない」まさに至言でした。