ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第20回 Tenuta San Guido@「キャッチ The 生産者」

2009-01-19 15:30:48 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2006年3月11日)

第20回  Dottore Sebastiano Rosa  <Tenuta San Guido>

20回めのゲストは、イタリアの“スーパータスカンのパイオニア”といわれる"サッシカイア"のワインメーカーを務める、セバスチャーノ・ローザさんです。
テヌータ・サン・グイードの後継者でもあるローザさんに、次世代サッシカイアとして新しく誕生した"グイダルベルト"を中心に、お話を伺いました。



<Sebastiano Rosa>
1966年生まれ。2歳で実父と死別。その後、母がテヌータ・サン・グイードのオーナーであるニコラ・インチザ侯爵と再婚したため、インチザ公を養父として、ボルゲリで育つ。
カリフォルニア大学デイビス校にて、ブドウ栽培および醸造学修士課程を終了後、カリフォルニアのジョーダン・ワイナリーで1年間勤務。その後、フランスはボルドーのシャトー・ラフィット・ロートシルトで2年間勤務。
1990年からトスカーナのアルジャーノへ。ジャコモ・タキス氏とともにスーパータスカン"ソレンゴ"を誕生させている。
2002年からテヌータ・サン・グイードへ。現在は、ワインメーカー兼マーケティングディレクターを務める 。


次世代サッシカイアの担い手

サッシカイア(Sassicaia)といえば、イタリアワインファンならずとも心ときめく、スーパータスカンの代名詞的存在。
キアンティのサンジョヴェーゼ種、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノのブルネッロ種が伝統的なトスカーナ州において、カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・フランで構成されるサッシカイアは、原産地呼称制度上は単なるテーブルワイン(ヴィーノ・ダ・ターヴォラ)に過ぎませんでした。

しかし、1968年ヴィンテージ以降、熟成にフレンチオークを使用し、国際市場へとターゲットを広げていきながら、サッシカイアは、ボルドー1級シャトーと並ぶ評価を得るまでのワインへと成長していきました。 そして、1994年ヴィンテージからは、単独のDO"ボルゲリ・サッシカイア"に昇格しました。

現在は、イタリアを代表する超高品質ワインのひとつとして、その名声をほしいままにしているテヌータ・サン・グイードですが、つくっているのは、このサッシカイアだけでした。

しかし、21世紀を迎えた今、新しいワインと次世代のリーダーが誕生しました。



Q.なぜ、カリフォルニア大学デイビス校へ?
A.私が進学をしようとしていた1980年代は、ワインの勉強をする学校としては、フランスのボルドー大学かデイビス校しか選択の余地がなかったのです。私はイタリア人ですから、陽気な土地がいいと思い(笑)、カリフォルニアに渡りました。もちろん、カリキュラムが充実していたこともありました。入るのは簡単でしたが、入ってからが大変!勉強はかなり努力を必要としました。

Q.サッシカイアが"スーパータスカン"といわれるまでになった経緯を教えてください。
A.私の養父ニコロの父マリオ・インチザは、ボルドーワインの大ファンでした。第二次大戦後の1946年、シャトー・ラフィットのカベルネの苗木を購入し、ボルゲリの地に植えました(2ha)。マリオはピエモンテ出身ですが、イタリアで高貴なワインをつくることを学生時代から夢見ていたようです。

畑は海から近くに位置しているので気候は安定し、東向きで日照も充分だったので、成熟したワインができると考えたようです。
最初は家族消費用としてつくっていたのですが、そのワインは硬く、あまり評判が良くなかったため、しばらく寝かせていたところ、非常に良くなったので、1960年代に畑を拡大することにしたそうです。
その後、アンティノリで働いていたエノロゴ、ジャコモ・タキス氏の影響もあり、それまで大樽で行っていた発酵をステンレスタンクに変え、熟成にフレンチオークの新樽を使い、また、マーケティングターゲットを国際市場に広げたところ、サッシカイアは非常に高い評価を得るようになりました。それが1968年ヴィンテージです。

Q.ということは、醸造方法の変更とマーケティングが成功の秘訣ですか?
A.いえ、それだけではなく、ボルゲリの土地にも秘訣があります。
先に述べたように、ここは海から近く、最初に祖父が植えた2haの畑は海から5kmのところにありましたが、60年代に広げた畑は、海から2kmの近さにあります。そのため、春は早くから暖かくなり、トスカーナの内陸部とは1ヶ月も違います。
夏は海の影響で涼しく、穏やかな天気となり、雲が出にくく、降水量も少ないのです。こうしたマイクロクライメット(微気候)は、海からの偉大な財産です。

また、土壌にはがたくさん含まれ、ボルドーのグラーヴと同じ土壌構成です。つまり、カベルネに適した土地なのです。
"サッシカイア"という名前は、「小石がいっぱい」という意味なんですよ。

Q.1994年にボルゲリ・サッシカイアがDOCに昇格した背景は?
A.今まで偉大なワインが存在しなかったボルゲリの地に偉大なワインを誕生させ、エノロジーと栽培学への貢献が認められたことによるといわれています。マリオがカベルネを植えた畑は、イタリアのカベルネの生誕地とされています 。




Q.次はいよいよ、新ワイン"グイダルベルト"の登場ですね?
A.グイダルベルトは2000年ヴィンテージからリリースしています。サッシカイアの個性はそのままに残しつつ、若いうちから楽しめるものを、ということから生まれました。 また、若い世代の、新しい飲み手に飲んでもらいたいため、手軽な価格設定にしました。
品種については、ボルゲリの土地にはメルロが合うと考えていたので、メルロブレンドのワインにしてみました。

ちなみに、"グイダルベルト"の名は、インチザ侯爵家の祖先であり、18世紀初頭のボルゲリでブドウ栽培の改良に貢献した"グイド・アルベルト・デッラ・ゲラルデスカ侯爵"から取っています 。

Q.グイダルベルトとサッシカイアの具体的な相違点は?
A.サッシカイアは、カベルネ・ソーヴィニヨン85%とカベルネ・フラン15%のブレンドですが、グイダルベルトは、メルロ45%、カベルネ・ソーヴィニヨン45%、サンジョヴェーゼ10%のブレンドで、メルロが入っています。
当初、メルロの比率は30%でしたが、現在は45%です。サンジョヴェーゼは、イタリアらしいスタイルを与えるために加えています。
どちらのワインも同じ栽培&醸造チームで手がけています。

Q.栽培方法や醸造方法は全く同じですか?
A.栽培に関しては全く同じように手をかけています。よって、サッシカイア用のカベルネのブドウが、その年の出来によっては、グイダルベルトに回されることもあります。

一方、醸造では、樽の使い方が違います。サッシカイアの熟成はフレンチオーク樽のみですが、グイダルベルトにはフレンチオークとアメリカンオーク樽の両方を使います。アメリカンオークは樽のニュアンスがダイレクトに出るため、樽熟成24ヶ月のサッシカイアよりも短い樽熟成期間(12ヶ月)のグイダルベルトのバランスがうまく取れるよう、メルロだけに使います。

Q.あなたは世界各国でのワインづくりの経験がありますが、その土地を意識したワインメーキングをしているのですか?
A.私は国によって自分のスタイルを変えることはありません。ワインメーカーがどういうワインをつくりたいか?ということが、まず最優先すべき点です。
例えば、カベルネ・ソーヴィニヨンのワインは世界中にありますが、たとえ1km先の畑であっても、その土地の個性がワインに現れます。
ボルゲリでボルドーのようなカベルネのワインにしたいと思っても、同じワインにはなってくれません。私が土地に合わせるのではなく、ワインが自然にその土地の個性を引き出してくれます。

Q.では、あなたのスタイルとは?
A.私は、つまり、テヌータ・サン・グイードでは、パワフルさではなく、ボルドーのようなエレガントさを求めています。過剰な凝縮は行わず、樽の香りを前面に出すことも嫌います。フィルターもかけず、自然のままの、飲んで心地よいワインを目指しています。 また、他の生産者では、悪い年にはワインを生産しないことがありますが、
我々は、1968年以来、毎年サッシカイアをつくり続けています。畑で密度が高い仕事をすれば、きちんとしたワインができると信じているからです。そのため、収穫は全て手摘みで行い、選別もテーブルで厳しく行っています。
その結果、難しいといわれた年(92年、96年、02年など)でも良い評価を得ています。92年などは確かにリリース当初はかなり批判を受けましたが、今はきれいに熟成しておいしいワインになっています。

Q.他のブドウ品種でワインをつくる予定はありますか?
A.10年ほど前、南の方の品種を試してみたことがありますが、よく成熟せず、アルコール度数も低く、グリーンな香りのするブドウしか得られませんでした。
我々はボルゲリでNo.1のワインをつくりたいと思っているので、この土地に合ったブドウで勝負していきたいと思います。ここではカベルネ・ソーヴィニヨンとメルロがベストで、パフォーマンスの良いブドウが得られます。

Q.現在、興味を持っていることは?
A.オーク樽の研究です。現在は、セガン・モロー製などのフレンチオークを使っています。フレンチオークはどこでも使われて需要が多いのに、2001年の寒波でフランスの森林に被害が及び、供給の方が危うくなってきています。そこで、フランス産だけでなく、のスラボニアオーク樽なども試験的に使用しています。また、スクリューキャップにも興味を持っています。

 
<テイスティングしたワイン>

Guidalberto


2002
色がやや薄めで、口当たりはなめらか。果実の凝縮感ある甘さが押し寄せてくる感じもありますが、スムーズでバランスが良く、飲みやすいワインです。
「2002年は悪い年と言われていますが、ボルゲリはトスカーナの他の地域に比べると良好でした。収穫は遅く、10月中旬です。このワインはもうすでに開いているので、今飲むにはちょうどいいでしょう。レストランにもお勧め。クリーンなタイプのワインで、樽はほのかな感じです(新樽20%)。ブラックベリー、カシス、ラズベリーの感じがあり、バランスが良く、フィニッシュも長め」(ローザさん)

2003
色が濃く、深く、黒っぽい外観で、アタックもたっぷりとふくよか。ボリュームがありますが、酸も非常に豊かで、タンニン量も充分です。
「この年のヨーロッパはこの150年で最も暑い夏で、メルロはいつもより1ヶ月早い8/15に収穫を開始しました。暑さに苦しんだワイナリーも多く、トスカーナではブドウが過熟してしまいましたが、ボルゲリは地中海性気候なので、悪くはありませんでした。色は自然に濃くなりました。香りは閉じていますが、キメが整い、奥深さ、複雑さがあります。ポテンシャルが大きく、熟成の可能性を秘めた長熟タイプのワインです」(ローザさん)

2004(Barrel Sample)
まだ紫のニュアンスが残る黒い深い色をしています。まろやかで、果実のボリュームにあふれたアタックがあり、余韻も長く、ツルツルととてもなめらかなのに、キュキュッと引き締まった感じもあります。
「この年は天候も畑の出来も良く、全ての条件が整い、非常にお気に入りの年です。というのも、実は私が結婚した年でもあるからで、気合を入れてつくりました(笑)。これはいくつかの樽からブレンドしたバレルサンプルですが、香りの中にすでに複雑性が出ています。メルロの特徴もよく出ていますね。さまざまなベリーの香りがあり、なめし皮の香りもあります。父とディスカッションしたときに、2004年はサッシカイアよりこっちの方がいいかも?という話まで出ました。年明けのボトリング(2006年1~2月頃)が待ち遠しいです」(ローザさん)


Sassicaia


2003(Barrel Sample)
同じ年のグイダルベルトよりもさらに黒味が深い外観。酸のしっかりとした厚みと、凝縮した果実の甘さを強く感じ、タンニンはすでになめらか。
「モンタルチーノでは40℃を超える日が1ヶ月も続きましたが、ボルゲリは海の影響で、32~34℃くらいに止まりました。サッシカイアのブドウ樹は古いものが多く、根が非常に深く張っているため、猛暑の影響は樹に及びません。2003年はクラシカルなタイプではありませんが、凝縮感があり、ここ10年くらいで1番良い年だと思っているくらいです」(ローザさん)

2002色はやや薄め。香りは最初控えめですが、だんだんと甘い香りが出てきます。酸はきっちりとあるものの、全体のボリュームはやや抑え気味。
「この年から、長い熟成に向かないカベルネのロットを、グイダルベルトに混ぜ始めました。若いうちに楽しむグイダルベルトにとって良いことであり、サッシカイアをより良くするためでもあります。2002年のサッシカイアはすでに香りが開いていて、熟成感もあります。他の年に比べると、ややふくよかさに欠けるところがありますが、酸のレベルが高く、良い質のタンニンがあり、フェノール類も出ています。さらに3~4年すると、もっと良くなるでしょう」(ローザさん)

2001
色はかなり黒っぽく、アタックは強めながらも、口当たりはなめらか。タンニンの性格はクラシカルで、酸もエレガントなワインです。
「とてもクラシックなスタイルの年です。だんだん香りが開きつつあります。樽とフルーツの香りのバランスが良く、気品、複雑性があります。サッシカイアの特徴であるミネラル感、なめらかな舌触り、調和した複雑さがよく出ていて、熟成の可能性も充分秘めています」(ローザさん)

1997
酸とタンニンがしっかりとし、まだまだ若さを感じさせますが、スムーズで、フィネスさえも感じさせる素晴らしいワインです。
「1997年はトスカーナの偉大な年で、もちろんボルゲリも最高です!」(ローザさん)



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インタビューを終えて

超一流のワイナリーのオーナーを父にして育つという恵まれた環境にありながらも、世界各地で長年の修行を積み重ねてきた強い意志。確実に実績を積み重ねてきた堅実さと創造力。ワインメーカーとしての立場だけでなく、経営全体のことも見据えることのできる能力と判断力。ローザさんには、そうしたものがしっかりと備わっていることを実感しました。

かなり期待できます、サッシカイアのプリンス!

ローザさんがサン・グイードに戻ってきたのと時を同じくしてリリースされたグイダルベルトも、これからもますます進化していきそうな勢いです。
さらに、他の土地への進出プロジェクトもあるようですから、ローザさんの動向には目が離せそうにありません。


(取材協力:株式会社スマイル)

(サッシカイアのホームページ) http://www.sassicaia.com





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