ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

春こそボジョレー【後編】

2012-03-30 20:00:38 | ワイン&酒
ボジョレーワインにおいて、「ヌーヴォーは3割に過ぎず、7割が新酒として飲まない通常のワインであり、その中には10のクリュ・ボジョレーワインがある」、ということを 【前編】 で紹介しました。

【後編】では、ボジョレーワインをさらに深く掘り下げてみましょう。

ボジョレーの気候はフランスの他のワイン生産地と比べると特殊で、1年のうちに3つの気候の影響を受けます。

大陸性気候の影響を受けて寒く、雪も降り、氷点下10度、15度にまで下がることもありますが、それによって虫が死滅し、ブドウ畑の健康状態がよくなります。

大西洋性気候、つまり海の影響を受け、雨が降り、湿度が高くなります。降雨で地下に溜め込まれた水分は、夏の季節に放出されることになります。

地中海性気候の影響で、暑く乾燥します。日照量が多く、ブドウがよく熟します。

地中海性気候の影響が続き、カラッと晴れた温暖な秋が収穫まで続きます。

ボジョレーでは有機栽培やビオの生産者が多く見られますが、特に秋の気候条件がいいため病虫害が出にくい ということが、それを可能にしているといえます。



さて、ボジョレー地区は南北55km、東西25kmの広さがあり、丘陵地から東端のソーヌ川に近い平地まで標高もさまざまで、丘陵地の傾斜もさまざまです。土壌タイプもエリアによって異なってきます。

北部クリュ・ボジョレーと、それを取り囲むようにAOCボジョレー・ヴィラージュの畑が広がる地域ですが、結晶質土壌である変成岩や花崗岩質が多く見られます。とはいえ、例えば、同じ花崗岩でも、ある地域ではピンク色だったり、また別の地域ではブルーだったりという組成の違いが見られ、こうした違いはクリュの違いにつながってきます。
なお、花崗岩のように、ケイ素質を含む硬い岩盤のある畑では、その下にある水を吸い上げるため、ブドウは根をしっかり下にまで伸ばさねばなりません。こうした水分ストレスは、ブドウの成熟においてよい結果をもたらします。

南部AOCボジョレーワインのエリアです。ソーヌ川の西側は広く堆積性土壌が見られ、沖積土、崩積土、粘土石灰質が入り組みながら広がっています。粘土質は湿気を多く含むのが特徴です。

これを見ると、北部の方が良質のブドウが得られそう、というのがわかります。
最上級ワインであるクリュの畑が北部に集中しているのは納得です。



クリュ・ボジョレーは10のAOCがあり、ワインのタイプで大きく3つに分類されます。
それぞれのタイプ内では、北から南の順で並べて見てみましょう。

しなやかで、若々しく、軽いタイプ
シルーブル:標高が高く、最も冷涼ななため、他より収穫が5~10日遅くなる。
レニエ:最も若いAOCで(1989年昇格)、ボジョレーのクリュのプリンスといわれている。
ブルイイ:標高440mの山の地帯。

中間タイプ
サン・タムール:ボジョレー最北に位置し、行政区分ではブルゴーニュに入る。
フルーリー:畑はピンク色の花崗岩土壌。ボジョレーの女王といわれている。
コート・ド・ブルイイ:丘陵地に畑があり、土壌はブルーの花崗岩。

長期熟成タイプ
ジュリエナ:2000年前から栽培が始まった古い産地。根の張った古い木が残る。
シェナス:ボジョレー最小のAOC。ルイ13世がこよなく愛したワインとして知られている。
ムーラン・ナ・ヴァン:別名“ボジョレーの王”。土壌はマンガン混じりの花崗岩。
モルゴン:6つの区画があり、さまざまなタイプのワインができる。

10もあると、なかなか覚えられませんが、それぞれのタイプの中で気になる名前だけ覚えておくのも手です。
例えば、プリンス(レニエ)、女王(フルーリー)、王(ムーラン・ナ・ヴァン)セット(笑)、
冷涼系なら、シルーブル(最も冷涼)、サン・タムール(最北)、ジュリエナ(タイプ内最北)。


Moulin-a-Vent 2009 Henry Fessy (輸入元:株式会社アルカン)

名前の響きが好きなものをチョイスしても楽しいですね。
サン・タムールは“愛の聖人”と訳され、2割のワインがバレンタインの時期に売れるそうですが、アモールという兵士が逃げ込んできたことがその名の由来だったという、実は色気のない話があったりします。


Fleurie Yvon Metras (輸入元:株式会社ラシーヌ)
花を連想させるフルーリーがローマ時代の将軍の名前だなんて、かなりガッカリ?(笑)


Julienas Jean Marc Monnet (輸入元:カーヴかない屋)
バブル世代には、ジュリエナが懐かしい?

ボジョレー・ヴィラージュを何杯か味わった後、クリュ・ボジョレーに移ると、色調はほとんど変わらないのに、飲むと、酸、アルコール、タンニン、余韻のレベルが格段に上がるのがよくわかります。
質感が緻密で、ボディに安定感があり、味わいに複雑さがあり、フィネスを感じます。
こうなるともう、ボジョレー・ヌーヴォーとは似ても似つかない別物。
ヌーヴォーのように早飲みするのではなく、何年かかけてじっくり開いていくワインです。特に長熟タイプとなると、若いうちは歯が立たず、5年、10年経ってようやく飲み頃になるものもあります。



ヌーヴォーは気取らない料理とともに楽しむことが多いですが、AOCボジョレー、AOCボジョレー・ヴィラージュ、クリュ・ボージョレーと ワインの格が上がるににつれ、料理の格も上げたい ところです。

ボジョレーやヴィラージュワインなら、パテ、リエット、ソーセージ、軽めの豚肉料理など(ボジョレーの南に位置するリヨンは豚肉料理が有名)がピッタリですね。



クリュ・ボジョレーワインになると、タイプによってさまざまなマリアージュが考えられます。
鶏肉(プーレ)、豚のロースや三昧肉を使ったボリュームのある料理、仔牛のロースト、赤身肉の短角牛、牛の塊肉のローストなど、ビストロ料理から、レストランで出されるような洗練された料理まで、限りない組み合わせがあります。

特に長熟タイプは、若いうちはタンニンがパワフルで骨格がガッシリしているものが多いので、料理もそれに負けない力のあるものを合わせるのがオススメです。


Morgon Cote du Py Vieille Vignes 2005 Potel Aviron
(3,150円、輸入元:豊通食料株式会社)

長熟タイプのモルゴンの7年熟成。今だに圧倒的なタンニン量!熟成の旨味、濃密さ、複雑味があります。ブルゴーニュのピノ・ノワール的にも感じるのは、あのニコラ・ポテルが関わっているからでしょう。このワインならレストランの手の込んだ料理に合わせてみたいです。



ボジョレーヌーヴォーの解禁に際し、「○年に一度の優秀年!」といったキャッチフレーズがよく出されていますが、実際はどうなの?と思うことがありませんか?
ヌーヴォーには、その年のワインの出来をチェックするという本来の目的がありますが、その時だけスポット的に取り上げられるイので、時が過ぎると忘れてしまいがち。
そこで、ここ3年間のボジョレーのヴィンテージの特徴を紹介します。

2009年
歴史に残る、神秘的で素晴らしい年。太陽をたくさん浴び、しっかり凝縮。赤よりも黒いフルーツの香りが強く現れている。長期熟成に向く年。

2010年
ボジョレーらしさを堪能できるヴィンテージ。アロマの表現が素晴らしく、クラッシックで、フィネスを感じるスタイル。

2011年
2009年と2010年の良さを合わせたヴィンテージ。色合いは濃く深く、味わいはリッチかつフルーティー。


左から、2011年、2010年、2009年 同じ造り手のボジョレー・ヴィラージュで比較

ヴィンテージの特徴を踏まえて比較試飲すると、なるほど~!
この3年間を見ると、やはり2009年の凝縮度が高く、長期熟成向き。
長期熟成タイプのクリュを、セラーでじっくり寝かせてみたいですね。
若くしなやかなタイプなら、2010年が華やかで豊かなアロマが楽しめそうです。



さて、ここまで読んでくださった皆さん、ボジョレーワインが飲みたくなってきましたか?

次はおいしい【おまけ編】をお届けします


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする