「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。
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(更新日:2007年4月11日)
第33回 Sonia de la Giraudiere <Champagne Bollinger>
シャンパーニュ訪問記第4弾は、アイ村のボランジェ です。
瀟洒な外観が美しいボランジェ社で 笑顔のソニアさんが 出迎えてくれました。
<Sonia de la Giraudiere> (ソニア・ド・ラ・ジロディエール)
今回、案内をしてくれたボランジェ社スタッフのソニアさんは、知的な雰囲気漂う素敵な大人の女性です。
でも、「“アイ(愛)”(Ay村と同じ発音)は日本語では“ラブ(love)”という意味よ」と私が言うと、「本当?どういう綴り?」と嬉しそうに目を輝かせ、まるで少女のような表情を見せてくれました。
“アイ村は愛の村”という話は、もしかしたら村中に広がっているかもしれません。
フィロキセラ以前のブドウ樹
私がボランジェ社を訪問したいと思ったきっかけのひとつが、古い仕立てのブドウ畑の存在でした。
現在のブドウ樹は、クローン選別したものを培養したり、取り木した枝を挿し木するなどして増やしていきます。
ところが、昔々の方法は違いました。ブドウはツル性植物ですから、成長期にはどんどんツルを伸ばします。そのツルの一部を土に埋めると、そこから根が生え、新しい株ができます。この方法を“provignage”(プロヴィニャージュ)といいます。
今では見られない手法ですが、フィロキセラ禍(19世紀後半)以前からのプロヴィニャージュのブドウ畑がボランジェにあるのです。これはぜひとも拝見せねば!
『007』とボランジェ
ジェームス・ボンドが活躍するハードボイルド映画『007』にはシャンパーニュが登場しますが、そのシャンパーニュは実はボランジェ社のものです。
2006年に公開された最新シリーズ『007/カジノ・ロワイヤル』にも出演しています。
ボランジェとジェームス・ボンドとの共演は『007/ムーン・レイカー(1979年)』から始まりました。
“ジェームス・ボンドの非の打ち所のない嗜好と洗練されたパーソナリティにマッチするシャンパーニュ”ということで、彼の愛飲するブランドとしてボランジェが選ばれたといわれています。
ボランジェの“スペシャル・キュヴェ”は、イギリスでは“ボリー”と呼ばれて親しまれているので、イギリス秘密情報部に勤務するジェームス・ボンドの目に留まったのかもしれませんね。
映画館でシャンパンボトルを抱えながら、というのはちょっと厳しいですが、部屋でお気に入りの『007』をDVDで楽しみながらボランジェのグラスを傾ける、っていうのは手軽にできそうです。
Bollinger
1829年、ドイツからやってきたジャック・ポランジェが、1750年からアイ村を拠点にいくつもの畑を所有するアタナス・エヌカン・ド・ヴィレルモンと出会い、シャンパーニュメゾン“ボランジェ”をアイ村に創立しました。
その後、メゾンはボランジェのファミリーに受け継がれてきましたが、1941年からはマダム・ジャック・ボランジェ(リリー)が取り仕切り、彼女の死後は2人の甥に、そして現在はその子供たちに引き継がれています。
アイは、第30回(ゴセ・ブラバン)でも紹介しましたが、グラン・クリュ格付けの村であり、ピノ・ノワールで名を馳せている村です。実はゴセ・ブラバンとは狭い道を挟んで向かい合っています。
「うちはボランジェ社にブドウを売っていたんだ」と、ゴセ・ブラバンのクリスチャンは言っていました。両社は縁の深いお向かいさんなのです。
まず「プロヴィニャージュの畑が見たい」 とお願いしたところ、建物の裏手に案内されました。家庭菜園風の小さな畑です。
「ほら、これを見て(下の写真)。この畑のブドウの樹の配置図を点で表したものなんだけど、左は点々が不規則でしょう?ツルを埋めて増やしているから、こんなふうにバラバラな配置になっているのよ。根元も畝を高くしているの。
右は“en foule”(アン・フル)(密集させるという意味)という植え方で、きれいに整列しているでしょ?」とソニアさん。
たしかに、樹はてんでバラバラに植えられ、ネギ畑のように畝が高くなっています。なるほど、伸びたツルを埋めるために盛り土をしているんですね。
Q.このブドウ品種は?これでワインをつくっているのですか?
A.ええ、ブドウはピノ・ノワールで、“Vieilles Vignes Francaises”(ヴィエーユ・ヴィーニュ・フランセーズ)(VVF)というシャンパーニュをつくります
収穫の終わった畑で数房のブドウを発見しました・・・・甘い!
Q.VVFはどういうシャンパーニュですか?
A.ピノ・ノワール100%のブラン・ド・ノワールです。畑はここ(Chaudes Terres)の他にもあと2箇所(AyのClos St-JacquesとBouzyのCroix Rouge)あり、それでも全部合わせて0.6haほどです。
だから生産量も少なくて2000~3000本ほどで、毎年つくれるとは限りません。セラーで最低6年寝かせるので、リリースするまでに時間もかかるし、とても手のかかるシャンパーニュです。(現在は1998年のものがリリースされています。2695本)
Q.現在のボランジェについて教えて下さい。
A.マダム・リリーが経営を引き継いで以来、ずっとファミリーで運営するという姿勢を崩していません。外部から干渉を受けることなく、自由にシャンパーニュをつくりたいからです。
畑は70%が自社畑(150ha:ピノ・ノワール95ha、シャルドネ40ha、ピノ・ムニエ20ha)で、30%が契約栽培ですが、すべて長い付き合いのある栽培者です。
Q.ボランジェ社のワインメーキングのこだわりは?
A.ピノ・ノワールをベースにしていること、最初にプレスしたキュヴェしか使わないこと、そして“樽”です。
シャンパーニュでは、第一次発酵の際にオーク樽を使うところは稀ですが、ボランジェのプレスティージ・キュヴェである“ラ・グラン・ダネ”と“R.D.(エル・ディ)”は必ずオーク樽を使いますし、“スペシャル・キュヴェ”(他社でいうノン・ヴィンテージ・シャンパーニュ)も部分的にオーク樽で発酵させます。
Q.なぜオーク樽にこだわるのでしょうか ?
A.ステンレスタンクでは、果汁がダメージを受けることがあると考えるからです。だからといって何でもオーク樽に入れればいいわけではなく、その果汁が充分な資質を持っていることが必要です。当社は熟成期間を長くとっていますので、力のない果汁ではそれに耐えることができません。
また、樽はワインにアロマや独特のキャラクターを与えてくれるからです。ただ、それが過度にならないよう、新樽は使いません。
オーク樽には、村ごと、区画ごと、セパージュごとの単位で小分けにして仕込みますので、それぞれのキャラクターを掴めますし、出所の追跡もできます(トレサビリティ)。
樽にこだわるというだけあって、醸造所内には樽を整備する作業場があり、樽職人(クーパー)の姿もありました。
Q熟成期間が長いということですが、どのくらいでしょうか?
A.スペシャル・キュヴェで最低3年、ラ・グラン・ダネで6年以上、R.D.で8年以上、時に20年になることもあります。
Q.ラ・グラン・ダネとR.D.の違いは?
A.まず、ラ・グラン・ダネをテイスティングし、アロマや酸、ストラクチャーなど、全ての要素でR.D.になれる可能性を持っていると判断されたら、1年後にもう一度テイスティングします。そこで認められたものだけがR.D.への切符を手にすることができるのです。
Q.リザーヴワインはどうしていますか?
A.当社ではリザーヴワインをとても重要視しています。実はヴィンテージ・シャンパーニュよりもノンヴィンテージ・シャンパーニュの方がつくるのが難しいのです。天候が悪い年でもコンスタントにつくっていかなければならないのですから。
そこで、味のベースとなるリザーヴワインが重要になってきます。
リザーヴワインはクリュごとに全てマグナムボトルに詰められ、酵母と糖分を添加して5年から12年寝かされます。その際、ラ・グラン・ダネとR.D.用のものはコルクで、スペシャル・キュヴェ用には金属キャップで栓をします。
なお、当社のリザーヴワインの使用比率は5~10%です。
Q.ルミアージュ(動瓶)は手作業ですか?
A.ラ・グラン・ダネとR.D.は手で、スペシャル・キュヴェは機械(ジャイロパレット)で行います。前2つは特殊なコルク栓を使っているので、機械にセットできないからです。
その後、デゴルジュマン(澱抜き)をしたら4ヶ月ほど寝かせ、落ち着いたらクリーニングをしてラベルを貼って出荷します。
<テイスティングしたシャンパーニュ>
Special Cuvee
イギリスで“ボリー”と呼ばれているポピュラーな“マルチ・ヴィンテージ・シャンパーニュ”。
他社でいう“ノン・ヴィンテージ・シャンパーニュ”に当たりますが、“マルチ・ヴィンテージ”と呼び、“スペシャル・キュヴェ”と名づけたところにボランジェの誇りとこだわりを感じます。
力強さ、フィネス、深み、バランスを兼ね備えた、ボランジェのスタイルをよく表したシャンパーニュです。プルミエ・クリュとグラン・クリュのブドウが使われ、ピノ・ノワール60%、シャルドネとピノ・ムニエが各15% 。
「アペリティフや、サーモン、白身の魚の料理がおすすめです」(ソニアさん)
La Grande Annee 1999
“偉大な年”という名のプレスティージュ・キュヴェ。非常に良い年で、テロワールをよく反映し、しかもボランジェらしさがよく出た年のみに仕込まれます。丸みのあるストラクチャーと、豊かで複雑な深みのあるアロマを備えたシャンパーニュで、基本セパージュは、ピノ・ノワール70%、シャルドネ30%。1999年はピノ・ノワール63%、シャルドネ37% 。
「サービス温度は10℃くらいで。魚料理などと一緒に楽しんでください」(ソニアさん)
R.D. 1996
先述したように、エイジングのポテンシャルと良いコンディションを持ったラ・グラン・ダネだけが“エル・ディ”になることが許されます。
長い時には20年以上もセラーで寝かされるというから驚きです。長い熟成を経てもなお生き生きとしたフレッシュさが残り、非常にデリケートで複雑なアロマを持っています。1996年はピノ・ノワール70%、シャルドネ30% 。
なお、“R.D.”とは“Recemment Degorge”(レサマン・デゴルジュ)の頭文字をとったもので、“最近デゴルジュマン(澱引き)をした”という意味。そのため、バックラベルにはデゴルジュマンをした日付が明記されています。
「トースティなアロマがあり、ノワゼットのようなナッツの風味があります。シャンパーニュをよく知り尽くした上級者に飲んでいただきたいですね」(ソニアさん)
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■ インタビューを終えて
ボランジェは、いわゆる“通好み”のシャンパーニュとよくいわれます。もちろん、ボランジェが超一流ブランドということもあるでしょうが、めざすスタイルを明確にし、それに向けての最大限の努力をしていることがすべてに現われているからでしょう。
“ボディを与えるピノ・ノワールをベースに選び、樽を使うこと。そして、樽に負けないポテンシャルの高い本物のブドウを手に入れること” がボランジェの真髄といえます。
そして、脈々と受け継がれているプロヴィニャージュの奇跡の畑もまた、ファミリーを大切にするボランジェを象徴するもののひとつ、ということがわかりました。
テイスティングにお付き合いいただいたエチエンヌ・ビゾ氏(1962年生まれ)
マダム・リリーの甥クリスチャン・ビゾ氏の息子で、ゼネラル・ディレクター。
このプロヴィニャージュの畑から生まれる“ヴィエーユ・ヴィーニュ・フランセーズ”は本当に貴重なシャンパーニュで、非常に高価な超高級品です。一生のうちで一度でも口にできたら、天にも昇るような幸せな気持ちになるに違いありません。
あの畑で育ったVVFと、いつかどこかで再会できますように…。
オフィスに飾られていた古いエチケットラベル
取材協力:JFLA 酒類販売株式会社 アルカン事業部
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。
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(更新日:2007年4月11日)
第33回 Sonia de la Giraudiere <Champagne Bollinger>
シャンパーニュ訪問記第4弾は、アイ村のボランジェ です。
瀟洒な外観が美しいボランジェ社で 笑顔のソニアさんが 出迎えてくれました。
<Sonia de la Giraudiere> (ソニア・ド・ラ・ジロディエール)
今回、案内をしてくれたボランジェ社スタッフのソニアさんは、知的な雰囲気漂う素敵な大人の女性です。
でも、「“アイ(愛)”(Ay村と同じ発音)は日本語では“ラブ(love)”という意味よ」と私が言うと、「本当?どういう綴り?」と嬉しそうに目を輝かせ、まるで少女のような表情を見せてくれました。
“アイ村は愛の村”という話は、もしかしたら村中に広がっているかもしれません。
フィロキセラ以前のブドウ樹
私がボランジェ社を訪問したいと思ったきっかけのひとつが、古い仕立てのブドウ畑の存在でした。
現在のブドウ樹は、クローン選別したものを培養したり、取り木した枝を挿し木するなどして増やしていきます。
ところが、昔々の方法は違いました。ブドウはツル性植物ですから、成長期にはどんどんツルを伸ばします。そのツルの一部を土に埋めると、そこから根が生え、新しい株ができます。この方法を“provignage”(プロヴィニャージュ)といいます。
今では見られない手法ですが、フィロキセラ禍(19世紀後半)以前からのプロヴィニャージュのブドウ畑がボランジェにあるのです。これはぜひとも拝見せねば!
『007』とボランジェ
ジェームス・ボンドが活躍するハードボイルド映画『007』にはシャンパーニュが登場しますが、そのシャンパーニュは実はボランジェ社のものです。
2006年に公開された最新シリーズ『007/カジノ・ロワイヤル』にも出演しています。
ボランジェとジェームス・ボンドとの共演は『007/ムーン・レイカー(1979年)』から始まりました。
“ジェームス・ボンドの非の打ち所のない嗜好と洗練されたパーソナリティにマッチするシャンパーニュ”ということで、彼の愛飲するブランドとしてボランジェが選ばれたといわれています。
ボランジェの“スペシャル・キュヴェ”は、イギリスでは“ボリー”と呼ばれて親しまれているので、イギリス秘密情報部に勤務するジェームス・ボンドの目に留まったのかもしれませんね。
映画館でシャンパンボトルを抱えながら、というのはちょっと厳しいですが、部屋でお気に入りの『007』をDVDで楽しみながらボランジェのグラスを傾ける、っていうのは手軽にできそうです。
Bollinger
1829年、ドイツからやってきたジャック・ポランジェが、1750年からアイ村を拠点にいくつもの畑を所有するアタナス・エヌカン・ド・ヴィレルモンと出会い、シャンパーニュメゾン“ボランジェ”をアイ村に創立しました。
その後、メゾンはボランジェのファミリーに受け継がれてきましたが、1941年からはマダム・ジャック・ボランジェ(リリー)が取り仕切り、彼女の死後は2人の甥に、そして現在はその子供たちに引き継がれています。
アイは、第30回(ゴセ・ブラバン)でも紹介しましたが、グラン・クリュ格付けの村であり、ピノ・ノワールで名を馳せている村です。実はゴセ・ブラバンとは狭い道を挟んで向かい合っています。
「うちはボランジェ社にブドウを売っていたんだ」と、ゴセ・ブラバンのクリスチャンは言っていました。両社は縁の深いお向かいさんなのです。
まず「プロヴィニャージュの畑が見たい」 とお願いしたところ、建物の裏手に案内されました。家庭菜園風の小さな畑です。
「ほら、これを見て(下の写真)。この畑のブドウの樹の配置図を点で表したものなんだけど、左は点々が不規則でしょう?ツルを埋めて増やしているから、こんなふうにバラバラな配置になっているのよ。根元も畝を高くしているの。
右は“en foule”(アン・フル)(密集させるという意味)という植え方で、きれいに整列しているでしょ?」とソニアさん。
たしかに、樹はてんでバラバラに植えられ、ネギ畑のように畝が高くなっています。なるほど、伸びたツルを埋めるために盛り土をしているんですね。
Q.このブドウ品種は?これでワインをつくっているのですか?
A.ええ、ブドウはピノ・ノワールで、“Vieilles Vignes Francaises”(ヴィエーユ・ヴィーニュ・フランセーズ)(VVF)というシャンパーニュをつくります
収穫の終わった畑で数房のブドウを発見しました・・・・甘い!
Q.VVFはどういうシャンパーニュですか?
A.ピノ・ノワール100%のブラン・ド・ノワールです。畑はここ(Chaudes Terres)の他にもあと2箇所(AyのClos St-JacquesとBouzyのCroix Rouge)あり、それでも全部合わせて0.6haほどです。
だから生産量も少なくて2000~3000本ほどで、毎年つくれるとは限りません。セラーで最低6年寝かせるので、リリースするまでに時間もかかるし、とても手のかかるシャンパーニュです。(現在は1998年のものがリリースされています。2695本)
Q.現在のボランジェについて教えて下さい。
A.マダム・リリーが経営を引き継いで以来、ずっとファミリーで運営するという姿勢を崩していません。外部から干渉を受けることなく、自由にシャンパーニュをつくりたいからです。
畑は70%が自社畑(150ha:ピノ・ノワール95ha、シャルドネ40ha、ピノ・ムニエ20ha)で、30%が契約栽培ですが、すべて長い付き合いのある栽培者です。
Q.ボランジェ社のワインメーキングのこだわりは?
A.ピノ・ノワールをベースにしていること、最初にプレスしたキュヴェしか使わないこと、そして“樽”です。
シャンパーニュでは、第一次発酵の際にオーク樽を使うところは稀ですが、ボランジェのプレスティージ・キュヴェである“ラ・グラン・ダネ”と“R.D.(エル・ディ)”は必ずオーク樽を使いますし、“スペシャル・キュヴェ”(他社でいうノン・ヴィンテージ・シャンパーニュ)も部分的にオーク樽で発酵させます。
Q.なぜオーク樽にこだわるのでしょうか ?
A.ステンレスタンクでは、果汁がダメージを受けることがあると考えるからです。だからといって何でもオーク樽に入れればいいわけではなく、その果汁が充分な資質を持っていることが必要です。当社は熟成期間を長くとっていますので、力のない果汁ではそれに耐えることができません。
また、樽はワインにアロマや独特のキャラクターを与えてくれるからです。ただ、それが過度にならないよう、新樽は使いません。
オーク樽には、村ごと、区画ごと、セパージュごとの単位で小分けにして仕込みますので、それぞれのキャラクターを掴めますし、出所の追跡もできます(トレサビリティ)。
樽にこだわるというだけあって、醸造所内には樽を整備する作業場があり、樽職人(クーパー)の姿もありました。
Q熟成期間が長いということですが、どのくらいでしょうか?
A.スペシャル・キュヴェで最低3年、ラ・グラン・ダネで6年以上、R.D.で8年以上、時に20年になることもあります。
Q.ラ・グラン・ダネとR.D.の違いは?
A.まず、ラ・グラン・ダネをテイスティングし、アロマや酸、ストラクチャーなど、全ての要素でR.D.になれる可能性を持っていると判断されたら、1年後にもう一度テイスティングします。そこで認められたものだけがR.D.への切符を手にすることができるのです。
Q.リザーヴワインはどうしていますか?
A.当社ではリザーヴワインをとても重要視しています。実はヴィンテージ・シャンパーニュよりもノンヴィンテージ・シャンパーニュの方がつくるのが難しいのです。天候が悪い年でもコンスタントにつくっていかなければならないのですから。
そこで、味のベースとなるリザーヴワインが重要になってきます。
リザーヴワインはクリュごとに全てマグナムボトルに詰められ、酵母と糖分を添加して5年から12年寝かされます。その際、ラ・グラン・ダネとR.D.用のものはコルクで、スペシャル・キュヴェ用には金属キャップで栓をします。
なお、当社のリザーヴワインの使用比率は5~10%です。
Q.ルミアージュ(動瓶)は手作業ですか?
A.ラ・グラン・ダネとR.D.は手で、スペシャル・キュヴェは機械(ジャイロパレット)で行います。前2つは特殊なコルク栓を使っているので、機械にセットできないからです。
その後、デゴルジュマン(澱抜き)をしたら4ヶ月ほど寝かせ、落ち着いたらクリーニングをしてラベルを貼って出荷します。
<テイスティングしたシャンパーニュ>
Special Cuvee
イギリスで“ボリー”と呼ばれているポピュラーな“マルチ・ヴィンテージ・シャンパーニュ”。
他社でいう“ノン・ヴィンテージ・シャンパーニュ”に当たりますが、“マルチ・ヴィンテージ”と呼び、“スペシャル・キュヴェ”と名づけたところにボランジェの誇りとこだわりを感じます。
力強さ、フィネス、深み、バランスを兼ね備えた、ボランジェのスタイルをよく表したシャンパーニュです。プルミエ・クリュとグラン・クリュのブドウが使われ、ピノ・ノワール60%、シャルドネとピノ・ムニエが各15% 。
「アペリティフや、サーモン、白身の魚の料理がおすすめです」(ソニアさん)
La Grande Annee 1999
“偉大な年”という名のプレスティージュ・キュヴェ。非常に良い年で、テロワールをよく反映し、しかもボランジェらしさがよく出た年のみに仕込まれます。丸みのあるストラクチャーと、豊かで複雑な深みのあるアロマを備えたシャンパーニュで、基本セパージュは、ピノ・ノワール70%、シャルドネ30%。1999年はピノ・ノワール63%、シャルドネ37% 。
「サービス温度は10℃くらいで。魚料理などと一緒に楽しんでください」(ソニアさん)
R.D. 1996
先述したように、エイジングのポテンシャルと良いコンディションを持ったラ・グラン・ダネだけが“エル・ディ”になることが許されます。
長い時には20年以上もセラーで寝かされるというから驚きです。長い熟成を経てもなお生き生きとしたフレッシュさが残り、非常にデリケートで複雑なアロマを持っています。1996年はピノ・ノワール70%、シャルドネ30% 。
なお、“R.D.”とは“Recemment Degorge”(レサマン・デゴルジュ)の頭文字をとったもので、“最近デゴルジュマン(澱引き)をした”という意味。そのため、バックラベルにはデゴルジュマンをした日付が明記されています。
「トースティなアロマがあり、ノワゼットのようなナッツの風味があります。シャンパーニュをよく知り尽くした上級者に飲んでいただきたいですね」(ソニアさん)
---------------------------------------
■ インタビューを終えて
ボランジェは、いわゆる“通好み”のシャンパーニュとよくいわれます。もちろん、ボランジェが超一流ブランドということもあるでしょうが、めざすスタイルを明確にし、それに向けての最大限の努力をしていることがすべてに現われているからでしょう。
“ボディを与えるピノ・ノワールをベースに選び、樽を使うこと。そして、樽に負けないポテンシャルの高い本物のブドウを手に入れること” がボランジェの真髄といえます。
そして、脈々と受け継がれているプロヴィニャージュの奇跡の畑もまた、ファミリーを大切にするボランジェを象徴するもののひとつ、ということがわかりました。
テイスティングにお付き合いいただいたエチエンヌ・ビゾ氏(1962年生まれ)
マダム・リリーの甥クリスチャン・ビゾ氏の息子で、ゼネラル・ディレクター。
このプロヴィニャージュの畑から生まれる“ヴィエーユ・ヴィーニュ・フランセーズ”は本当に貴重なシャンパーニュで、非常に高価な超高級品です。一生のうちで一度でも口にできたら、天にも昇るような幸せな気持ちになるに違いありません。
あの畑で育ったVVFと、いつかどこかで再会できますように…。
オフィスに飾られていた古いエチケットラベル
取材協力:JFLA 酒類販売株式会社 アルカン事業部