ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第26回 Mt.Langi Ghiran@「キャッチ The 生産者」

2009-03-01 09:59:04 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2006年9月11日)

第26回  Dan Buckel  <Mt.Langi Ghiran>
 
オーストラリアはヴィクトリア州、グランピアンズ(Grampians)から、ユニークな経歴を持つワインメーカー、ダン・バックルさん が初来日しました。



<Dan Buckle >
元フェンシングの選手。
仕事をしていたワイン・バーでワインに開眼。
その後、醸造学校に進み、オーストラリアやフランス等で修行を重ねる。
1999年にヤラ・イェーリングステーション(ヴィクトリア州)にワインメーカーとして入社。
3年前から同系列のマウント・ランギ・ジランに移り、ワインメーカーとして活躍中。


黄色い尻尾を持った黒いオウム

ランギ・ジランはアボリジニの言葉で“黄色い尻尾を持った黒いオウムのふるさと”の意味。実際、グランピアンズには国立公園に指定されているランギ・ジランという花崗岩の山があり、黒いオウムが山の斜面を飛ぶ姿を見ることができるそうです。

ランギ・ジランのエリアはアボリジニのロックアートをはじめとした文化遺産の重要スポットでもあり、周囲にはブドウ園や農園が広がり、人々を惹き付けて止まない魅力ある土地です。

なお、この黄色い尻尾の黒いオウムは、ワインのエチケットにも鮮やかに描かれています。



Mt. Langi Ghiran
1963年 フラティン兄弟がグランピアンズにブドウを植え始める
1969年 フラティン兄弟によりマウント・ランギ・ジラン設立
1979年 トレヴァー・マスト氏がワインメーカーに就任(彼は現在もダンさんとともにワインメーカーを務める)
1987年 トレヴァー・マスト氏がフラティン兄弟からワイナリーを譲り受ける
2002年 ロスボーン・ファミリーがオーナーとなる



Q.ダンさんがワインメーカーになったキッカケは?
A.1995~96年頃に『ジミー・ワトソンズ・ワイン・バー』という、メルボルンで有名なレストラン&ワイン・バーで働いていた時に、創始者の孫に当たる人と一緒にワインセラーの管理をしていました。
歴史ある店なので古いワインが多く、リコルク作業をする時に古いワインを味見する経験をさせてもらったのですが、
「50年経ってもしっかりしたワインがあるなんてスゴイ!自分もそういうワインをつくってみたい!」と思ったのがワインづくりに興味を持ったキッカケです。

すぐに醸造学校に入り、卒業後はヴィクトリア州ヤラ・ヴァレーにあるコールド・ストリーム・ヒルズで2年間修行し、フランスのボルドーやブルゴーニュでも経験を積みました。

Q.『ジミー・ワトソンズ・ワイン・バー』には面白いエピソードがあるそうですが?
A.1930~40年代、創始者が自分の店で出すためのワインを樽で買い付ける際、できるだけ良い樽を選んでいたことにちなみ、“ジミー・ワトソンズ・トロフィー”というアワードが1962年に誕生しました。メルボルンのワインショーにおいて、樽に入れられて1年目の最高のワインに贈られる名誉ある賞で、オーストラリアでは特別なアワードとなっています。

Q.マウント・ランギ・ジランのあるグランピアンズというのはどのような土地ですか?
A.ここの地層は5億年前の古いグラニット(花崗岩)で、標高は350~650mとオーストラリアにしては高く、また、南から冷たい風が吹き、オーストラリアで最も寒い地域です。

1963年にブドウが植えられ、その後1980年代に樹齢の高いシラーズからのワインが有名になりました。“冷涼気候のシラーズ”として知られ、スパイシーで、潰したコショウの風味がするといわれています。

Q.冷涼というのは、どの程度ですか?
A.夏(1月)の平均気温が18.2℃で、吹く風も冷たく、冬(7~8月)は雪も降ります。
マウント・ランギ・ジランでは西に山があるので午後の日照時間が短くなり、夕方5時には暗くなってしまいます。

Q.ワインづくりで心がけていることは?
A.オーストラリアでは、ワインの85%が購入後24時間以内に飲まれてしまいます。ワインを熟成させて飲むことが少ないので、すぐに楽しめるようなワインをつくろうと心がけています。

オーストラリアのワインといっても、山地のワイン、崖のワイン、小川のワインetc…と、さまざまな場所でつくられています。オーストラリアにもテロワールが存在します。ブドウの育つ土壌や場所をぜひ見てください。
ワインメーカーはその土地のブドウを生かしたワインづくりをすべきで、自分の色を強く出すべきでないと考えています。

Q.今後どのようなワインをつくっていきたいですか?
A.2001年にブルゴーニュのドメーヌ・コンフュロン・コトティドに研修に行ったのですが、そこでは14haの畑から16のAOCワインをつくっていました。
小さい畑から異なる個性を持つワインができるのは面白く、マウント・ランギ・ジランでも、そんなワインをつくってみたいと思っています。小さいシングル・ヴィンヤードのワインは、近々実現できるかもしれません。

Q.日本の印象は?
A.日本に来るのは初めてですが、外国に来てみると面白いですね。我々のワインは冷涼な気候でつくられているためにエレガントですから、特に日本人に、また日本の料理に向くと感じました。

世界的に、ここ数年でヘビーなものからデリケートで食事に合うワインに人気が移ってきました。そうしたこともあり、涼しい気候でつくられたワインは、今後の人々の嗜好に合うといえるのではないでしょうか



<テイスティングしたワイン> 

White Wine

1)Billi Billi White 2004
2)Riesling 2004

思わず笑ってしまいそうな「ビリ・ビリ」という楽しい音を持つ名前は、ランギ・ジラン山に棲んでいたというアボリジニの王様の名前だそうです。植民地支配をしていたイギリス権力と戦ったとても強い王で、彼の名は川の名として残っています(ビリ・ビリ川)。

どちらも、冷涼な気候ならではの、酸がキリッとした心地良い白ワインで、
1)はセミヨンとリースリングのブレンド、2)のリースリングはミネラル感がたっぷりとしています。  

*いずれもスクリューキャップ使用




Red Wine

3)Billi Billi Red 2002
4)Cliff Edge Shiraz 2002
5)Shiraz 2003
6)Cabernet Merlot 1999

3)~5)はシラーズで、3)にはグルナッシュとムールヴェドルがブレンドされています。

2002年はとても良い年で、ペッパーの香りが特にエレガントに出ているのが特徴。
2003年は暑かった年なので、ペッパーの感じは弱めな代わりにナツメグぽい感じが出ています。

4)のクリフ・エッジはその名の通り(クリフは“崖”でエッジは“縁”の意味)、急な崖っぷちにある畑です。風が非常に強いため、1993年からは畑の70%をネットで覆っていますが、このネットはカンガルーからもブドウを守ってくれます。

5)はワイナリーのトップとなるシラーズで、古い花崗岩土壌の畑からブドウを選別し、100%フレンチオークを使用しています。

どの樽会社を使うかも非常に大事で、4つの会社を選び、緊密な連絡を取り合っています」とダンさんは言います。

6)はだいぶ熟成されつつあり、ユーカリっぽいスパイシーさも味わえます。




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インタビューを終えて


古いワインとの出会いでワインの虜になってしまったダンさんですが、その行動力とバイタリティはフェンシング仕込みの“攻め”の精神から来ているのかも?

どっしりとした体格と少年のような笑顔がとても親しみを感じさせますが、彼のつくるワインは、その容姿に似合わず(失礼!)、とてもデリケートでエレガント。

ダンさん自身も、アグレッシブなタンニンを持つワインは苦手で、エレガントなタイプが好きと言っていました。



オーストラリアのシラーズというと、濃厚でパワフルでスパイシー、というのがかつての印象でした。
しかし、オーストラリアで最も南に位置するヴィクトリア州は冷涼で、その中でもグランピアンズは夏の平均気温が18.2℃という涼しい地域ですから(日本じゃ考えられません!)、マウント・ランギ・ジランのシラーズに涼しげな上品さが感じられるのは、当然といえば当然なのかもしれません。

グランピアンズのシラーズは、ガツンとしたシラーズは苦手・・・という人にオススメです。

エレガントで酸のしっかりした白ワイン2種も、オーストラリアワインを選ぶときの幅を広げてくれそうです。

現在、単一畑でのワインも準備中ということですから、今後のマウント・ランギ・ジランの動向を見守りたいところです。


取材協力:ヴィレッジ・セラーズ株式会社

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第25回 Vina Cono Sur@「キャッチ The 生産者」

2009-03-01 09:55:39 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2006年8月11日)

第25回  Adolfo Hurtado  <Vina Cono Sur>

チリのコノ・スル社から、チーフワインメーカー兼CEOのアドルフォ・フルタード
さんが来日。 コノ・スル社の新しい取り組みについて語ってくれました。



<Adolfo Hurtado >
1970年生まれ。
チリのカトリック大学農業学校を卒業後、カチャポアル・ヴァレーのVina La Rosa(ヴィーニャ・ラ・ローザ)にワインメーカーとして入社。26歳の時(1997年)にコノ・スルのチーフワインメーカーに就任。
現在はコノ・スル社のCEOでもある。


止まらない快進撃のヒミツとは?

日本市場でチリワインが不調といわれる中、2006年に入って4ヶ月で前年比147%と好調なコノ・スル社。
特にオーガニックワイン では、200%の伸びを見せる絶好調ぶりです。
その秘密はどこにあるのでしょうか?



Cono Sur  VINEYARD & WINERY
1993年 チリのラペル地区コンチャグア・ヴァレーのチェンバロンゴに設立
1998年 オーガニックワインに取り組み始める
1999年 ピノ・ノワール・プロジェクト発足
2006年 スクリューキャップを本格導入



Q.コノ・スルのワインは日本で非常に伸びていますが、どうしてでしょうか?
A.当社が設立された1993年当時のチリでは、伝統的なワインばかりがつくられていました。しかし、我々は新しいコンセプトのワイン、つまり、より品質の高いワインを発信していこうと考え、イノベーションのパイオニアとして、短期間に急激に成長してきました。
このようにして高い品質を保ちながら良いものを安定して供給してきた結果、我々のクオリティが日本の市場で受け入れられたのだと思います。

Q.イノベーションの具体例は?
A.1997年にはチリで初めてシンセティックコルク(プラスティック樹脂コルク)を採用し、その後、いち早くスクリューキャップを導入したのも当社です。2006年から、白ワインとピノ・ノワールの一部でスクリューキャップを本格的に採用することになりました。

Q.なぜスクリューキャップの本格採用に踏み切ったのですか?
A.コルク臭のトラブルをほぼ100%回避し、酸化のリスクを減少させることができるからです。さらに、ワインをよりフレッシュに保ち、よりよい状態で熟成させることもできます。これは実験でも確認できました。

Q.スクリューキャップに対する反応はいかがですか?
A.イギリスや日本では非常に受け入れられています。しかし、チリ国民は保守的ですので、国内での認識はこれからですね。
チリでは海外から他国のワインが入ってくることがほとんどなく、新しいものに目が行くというような環境にありません。国内市場で流通しているのは自国の伝統的なワインで、その大半が天然コルクです。2年前の段階では、スクリューキャップはほぼ拒絶されていました。ところが、ようやく国内でも少しずつスクリューキャップが受け入れられるようになってきました。
その他のワイナリーでもスクリューキャップを導入し始めていますが、まだトライアル的で、当社のように大々的に導入しているところはありません。

Q.オーガニックワインが順調のようですね?
A.1998年からオーガニックに取り組み始めました。ワイナリー内の化学物質をできるだけ排除し、自然のサイクルに従った栽培を行っています。ただし、当社の管理する畑は1000haと広いため、すべてをオーガニックにしようとすると手が回りません。
現在はチェンバロンゴの300haだけがオーガニックですが、そのほかの畑もオーガニック同様に厳しい規制の下、消費者にとってヘルシーなワインづくりを行っています。残りの畑の今後のオーガニックへの切り替えは、段階的に進めたいと考えています。

なお、現在オーガニックワインは1アイテムのみですが(赤ワインブレンド)、ピノ・ノワール、シャルドネでもつくる予定です。

Q.ドイツのオーガニック農産物認定機関“BCSエコ”の認定を受けているそうですが?
A.BCSエコはかなり厳しい認定基準の機関です。我々は、南米ということだけでなく、インターナショナルスタンダードとしてのオーガニックの認定を取得したかったので、評判の高いBCSエコを選びました。

Q.チリ国内でのオーガニックへの意識はいかがですか?
A.現在のチリではまだまだ環境への意識が低い状態ですので、オーガニックワインへの関心もほとんどありません。これからですね。

Q.貴社のアイコンワイン“OSIO”(オシオ)“ピノ・ノワール・プロジェクト”から誕生したということですが?
A.チリNo.1のピノ・ノワールをつくることを目的とし、ブルゴーニュのドメーヌ・ジャック・プリュールのマルタン・プリュール氏の協力の下、1999年にこのプロジェクトを発足させました。
他のワイナリーと違うものをつくりたいと努力した結果、ワインの品質が飛躍的に向上し、オシオが生まれました。
冷涼で良い区画の樹齢の高いブドウを選び、収穫量を抑え、より凝縮した味わいに仕上げています。昨年度はチリのベスト・ピノ・ノワールにも選ばれました。



Q.チリワインの特徴と魅力は?
A.南北に長いチリにはさまざまな気候があるので、各地に最適なブドウ品種があり、多様性のあるワインをつくることができます。当社でも、北はエルキ・ヴァレーから南はビオビオ・ヴァレーまで42の農園に適した品種を栽培し、最終的にはブレンドを行って良いものをつくる努力をしています。

また、チリは四方を自然の要塞に守られているので、他から病原菌の進入がなく、フィロキセラ禍もありませんでした。チリがブドウ栽培の楽園といわれるゆえんです。

Q.地域による特徴には、どんなものがありますか?
A.例えばチェンバロンゴのあるコンチャグア・ヴァレーとカサブランカ・ヴァレーで比較すると、チェンバロンゴの成長期の気温は28~29℃ですが、カサブランカは23~24℃と冷涼で、収穫時期も異なります(チェンバロンゴは3月中旬、カサブランカは4月の第2週頃)。
同じピノ・ノワールでも、チェンバロンゴではカシスやブラックベリーの濃い香りのするワインになりますが、カサブランカでは、フレッシュで花のような華やかな香りを持つワインになります。




<テイスティングしたワイン>   (S)はスクリューキャップ

White Wine

Cono Sur Chardonnay Varietal 2005(S)
冷涼地からのブドウを使用しているため、しっかりとした酸がフレッシュで心地良く、非常にコストパフォーマンスのよいシャルドネ。
バラエタルシリーズには、シンセティックコルクとスクリューキャップが使われています。

Cono Sur Vision Sauvignon Blanc Single Vinyard “Loma Roja” 2005(S)
ソーヴィニヨン・ブランのアロマと味わいが楽しめるワイン。
ヴィジョンシリーズは、シングルヴィンヤード(単一畑)からのブドウを使い、ワインメーカーが自由につくっているワインとのこと。


Red WIne

Cono Sur Organic Cabernet Sauvignon Carmenere 2005
紫の色が鮮やか。スパイシーさとやわらかさ、まろやかさが相俟って、飲み口良好。
チェンバロンゴのオーガニック栽培によるカベルネ60%、カルムネール40%をブレンド。

Cono Sur 20 Barrels Limited Edition Cabernet Sauvignon 2004
タンニンが豊かで、しっかりと凝縮した素晴らしいカベルネ。

20 Barrelsは、1995年にイギリスからのリクエストで品質の高いピノ・ノワールを20樽選んだことに始まるシリーズ。
実は“ピノ・ノワール・プロジェクト”はこのために始まったもので、ブドウを厳しく選別し、収量を落とし、樽熟成の期間も長くしています。
アドルフォさん曰く、「6~7年熟成させて楽しめます」とのこと。



Pinot Noir

Cono Sur Pinot Noir in Transition to Organic 2005
果実味が豊かで、酸味もしっかりとしたチャーミングなピノ・ノワール。
100%チェンバロンゴでオーガニックに転換中の畑からのブドウでつくられています。
08年ヴィンテージから正式にオーガニックワインとしてリリースします。

Cono Sur Reserve Pinot Noir 2005(S)
果実の甘さがありながらも引き締まったアタックで、凝縮感があり、余韻も長め。
リザーヴシリーズは、樽熟成させたキュヴェを高い比率でブレンドした、比較的クラシックなレンジに仕上がっています。

Cono Sur OSIO Pinot Noir 2004
深いガーネット。少しモワモワ感があり、スモークベーコンのような燻したニュアンスと豊かな果実味、濃縮感があります。年間3000本という超限定品。
“OSIO”はスペイン語で“余暇”の意味。「家族や友人と一緒にゆっくり飲んで、リラックスして過ごしてほしいということから名づけました」とアドルフォさん。


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インタビューを終えて

弱冠26歳という若さでチーフワインメーカーに就き、その実力を発揮してきたアドルフォさんは、2005年度のチリのワインメーカー・オブ・ザ・イヤーにも選ばれました。
そのワインメーカーとしての腕もさることながら、経営でも手腕を発揮し、コノ・スル社の業績をどんどん伸ばし続け、スクリューキャップや新プロジェクトにも積極的に着手し、確実に成果を出しているやり手です。

「スクリューキャップはマーケティング的な側面から始めましたが、テクニカル面でも効果があることがわかってきて、今後は非常に期待しています」とアドルフォさんは言います。

ニューワールドと言われながらも、実は古い体質を持っているチリで、さまざまな革新を行ってきたアドルフォさんとコノ・スル社は、クオリティの高いワインをコストパフォーマンス抜群のプライスで提供しています。これはコノ・スル社と彼の努力の賜物で、私たち消費者にとっては大歓迎です。

今後は、どんなことで私たちを驚かせてくれるでしょうか?

まずは、オーガニックに移行中のピノ・ノワールとシャルドネの本格リリースが待たれるところです。



右はアジア担当輸出マネージャーのゴンザロ・マリナさん


取材協力:株式会社スマイル

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第24回 Dominio del Plata@「キャッチ The 生産者」

2009-03-01 09:51:57 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2006年7月11日)

第24回  Susana Balbo  <Dominio del Plata>

今回のゲストは、アルゼンチンのドミニオ・デル・プラタのオーナーであり、チーフワインメーカーであるスザンナ・バルボ さんです。
スザンナさんと夫のペドロさんは、日本で初めて開催されるアルゼンチンワイン試飲会のために来日しました。



<Susana Balbo>
1956年4月9日生まれ。
1981年に醸造学科を卒業後、さまざまなワイナリーのワインメーカーを経て1999年にドミニオ・デル・プラタ設立を決意。
2001年にワイナリー完成。現在はドミニオ・デル・プラタのオーナー兼チーフワインメーカー。
2006年3月、アルゼンチンワイン協会会長に就任。

夫のPedoro Marchevskyさんとは1994年に出会い、1995年に結婚。ペドロさんはドミニオ・デル・プラタのオーナー兼ヴィンヤードマネージャーを務める。


アルゼンチン初の女性ワインメーカー

スザンナさんはアルゼンチン初の女性ワインメーカーとして知られています。
数々のワイナリーで活躍し、また、アルゼンチン人として初めてヨーロッパのワイナリーのコンサルタント を務めてきましたが、ペドロさんというパートナーと出会い、2人のワイナリー、ドミニオ・デル・プラタが誕生しました。

その一方で、スザンナさんは2006年3月からWines of Argentina(アルゼンチンワイン協会)の会長に就任し、アルゼンチンワイン界の発展に努めています。

スザンナさんは、まさに現在のアルゼンチンワイン界を代表する人物といえます。


Wines of Argentinaについて

Q.Wines of Argentinaはどんな組織?
A.12年ほど前、アルゼンチンワインのブランドを確立するために設立されました。アルゼンチンワインを世界中のみなさんに飲んでいただくこと、品質の高さを知っていただくことを目的として活動しています。

Q.参加しているワイナリー数は?
A.仲の良い10のワイナリーで“Top 10 Association”をつくったのが始まりで、その後のAVA(Argentine Viticulture Association)を経て、Wines of Argentinaになりました。現在は、小さいところから大手まで、さまざまな規模の約100のワイナリーが参加しています。

Q.この3月に会長に着任したということですが?
A.それまでも取締役ではありましたが、前会長の退任により私が会長職を引き継ぎました。取締役会では女性は私一人だけでした。

Q.アルゼンチンでは、ワインづくりにかかわっている女性は少ないのでしょうか?
A.25年前は女性は私1人でした。今は女性のワインメーカーは30人くらいいると思いますが、まだまだ男性社会かもしれませんね。

Q.男性社会のアルゼンチンのワイン業界で、女性であるあなたが協会の会長に選ばれた理由は?
A.私はこの25年、真面目に正しい姿勢でワインづくりに励んできました。もちろん夫の助けがあったからですが。

得た知識や情報は惜しみなく他のワイナリーとシェアしてきましたし、そのオープンな姿勢と偏見を持たない態度、品質の高いワインをつくってきた実績が認められたからではないでしょうか。

アルゼンチンワインには“変革”が必要だといわれています。そのためには、ワイン以外のさまざまな業界を巻き込んで実施する必要があり、それには私が適任だと思われたことも、理由のひとつのようです。

Q.それはどのような変革ですか?
A.アルゼンチンワインを国際市場で受け入れられるような商品スタイルにしたいと考えていますので、そのためには、品質向上を目的とした技術革新が必要です。

Q.現在の輸出の状況は?
A.Wines of Argentina に参加するワイナリーの生産量の90%が輸出向けで、アメリカ、イギリス、ブラジル、カナダ、ロシア、ラテンアメリカ諸国、ヨーロッパ・・・と続き、日本は第9位です。

Q.アジアのマーケットについてはどのように考えていますか?
A.今回、香港と中国と日本で試飲会を行いました。毎年、世界25都市で試飲会を行っていますが、アジアでは初めての試みでした。非常に手ごたえがありましたので、今後アジアでも定期的に開催していけたらと考えています。

Q.国内市場の現状はどうなっていますか?
A.アルゼンチンでは、政治的かつ経済的問題から他国との国際交流がほとんどできなかった時期がありましたので、ワインは国内の嗜好を中心に、昔ながらの、古臭くてちょっと酸化したようなものがつくられてきました。

ですが、7年前くらい前からだいぶ様子が変わってきました。まず、インターナショナルなワインが好まれるようになり、安いワインをガブ飲みするというスタイルから良いワインを少しずつというように、飲み方も変わってきました。

70年代の終わり頃の国民一人当たりのワイン年間消費量は95リットルでしたが、現在は30リットルという数値がそれを物語っています。これは世界的な傾向(量より質)とも一致しています。

Q.ワインの消費量が減ったことについて、なにか対策は?
A.ワインを飲むためのさまざまな機会を提案したいと考えています。例えば、ゆっくり食事をしながら良質のワインを飲むディナータイムとか、考えれば色々ありますものね。

Q.アルゼンチンで人気の品種は?
A.アルゼンチンに昔からあるトロンテスは、かつては低い品質のワインが多かったのですが、現在はクオリティが向上し、再発見されている品種です。

他には、白ではソーヴィニヨン・ブラン、赤ではマルベックはもちろん、メルロが人気です。

Q.確かに、アルゼンチンといえばマルベックですが、その特徴は?
A.非常に恵まれた栽培条件にあるため、ブドウの房を完熟した状態で木に付けておくことができ、タンニンがよく成熟したブドウが得られます。色に深みがあり、ワインになった時点ですでに心地良く飲むことができ、長く熟成させることもできます。

早く飲みたい人にとっては、フルーティで甘さのあるタンニンのワインとして楽しめ、長く熟成させてワインのストラクチャーを楽しむ、ということができる品種です。



Dominio del Plataについて

Q.ドミニオ・デル・プラタのコンセプトは?
A.1)正確なヴィティカルチャー、2)継続可能であること、3)醸造における高い品質、4)愛と情熱です。

1)まず、確実な技術と知識に基づいてブドウを育てることです。畑はヴィンヤードマネージャーである夫のペドロがブドウの成長をフォローしています。自分の目で見て細かくチェックし、プロセスの確認をすることが大事です。

2)子供たちに今のきれいな環境を残したいので、それを守るために長く続けられるプロジェクトが必要です。すべてオーガニックだから良いというわけではなく、不意のアクシデントにも対応できなければなりません、オーガニックよりも幅の広い統合的なコンセプトで継続していければ、と思っています。

3)品質の高いワインをつくるには、まず醸造知識が必要ですが、20数年の経験でそれは実現できるようになってきていますし、最新の技術にも対応したいと思っています。

4)ワインづくりには愛と情熱が欠かせません。自分ひとりだけでなく、家族一丸となって取り組んでいくことが大事だと思っています。

Q.ワイナリーのあるAgrelo(アグレロ)はどのような土地ですか?
A.地域はメンドーサで、標高は1000mあり、湿度20%くらいの半砂漠です。非常に乾燥しています。冬は寒く、夏の日中は暑いですが、夜になると14~18℃くらいまで気温が下がります。1日の気温の差が激しいので、ブドウの色付きが良く、黒ブドウに最適な場所といえます。「アグレロ」は「粘土」の意味で、実際ここの土壌は粘土質です。

Q.ワインづくりで重要な要因はテロワールでしょうか?品種でしょうか?
A.メンドーサでは雹が降ることがあり、場合によってはすべてを失うこともあります。そのため、テロワールも品種も大事ですが、人的な要因も大きな影響を与えます。

例えば隣り合った土地で、手のかけ方の違うブドウからワインがつくられた時、それは同じテロワールを持つワインといえるでしょうか?ワインは人がつくるものです。材料が良いか悪いかはもちろんのこと、生産者のパーソナリティが反映されます。これが“作者のワイン”で、“場所のワイン”という考え方とは対立するでしょう。私は良いパーソナリティを持ったワインを目指しています。

Q.ドミニオ・デル・プラタでは、アルゼンチンでは珍しいプティ・ヴェルドとカベルネ・フランを栽培しているようですが?
A.私のつくるワインにこの2つの品種が必要だったからで、ボルドースタイルの“ブリオーソ”にブレンドしています。カベルネ・フランは2ha、プティ・ヴェルドは1haですが、2001年に自分たちで植えました。植樹率は8000本/haです。

Q.普段はどのようにワインを楽しんでいますか?
A.アルゼンチンの料理はヨーロッパ風や地中海風のものが多いので、白ワインのトロンテスなどはサラダや野菜料理に合わせています。

アルゼンチンの主食は“肉”といっていいほど、1人あたり年間90kgも牛肉を食べます。肉にはマルベックの赤ワインですね。パスタ類もよく食べます。肉、サラダ、シチュー、パンやパスタ、といった組み合わせの食事が多いです。

Q.アルゼンチンワインと日本の食事との相性はいかがですか?
A.私は初めて日本に来ましたが、素材の自然の香りを生かして調理され、また、魚介料理がとてもきれいに作られていたことに感心しました。日本の食事はバラエティ豊かなので、アルゼンチンのワインともピッタリ合うものがあるはずと思いました。

アルゼンチンワインは薀蓄を語るためのワインではなく、飲むためのワインですから、色々な料理に合わせて楽しんでほしいと思います(ペドロさん談)。


<テイスティングしたワイン> 

Crios


Crios Trrontes 2005
Crios Malbec 2005

“Crios”は“子供たち”のこと。“Susana Balbo”シリーズのレベルに達しないキュヴェや若木からのワインがCriosになります。

ラベルにはスザンナさんの大きな手と子供たちの小さな手が描かれていますが、

「ラベルの子供たちの手は小さいですが、今では子供たちの身長は私よりはるかに大きく、手も大きくなりました」と笑うスザンナさん。

トロンテスはフレッシュで爽やか、マルベックはやわらかくチャーミングな味わいで、Criosシリーズは全体的にやさしい印象があります。毎日飲みたくなるワインです。


Susana Balbo


Susana Balbo Malbec 2004
Susana Balbo Cabernet Sauvignon 2003
Susana Balbo Brioso 2003

スザンナさんの手がけるシリーズ。その年の最高のブドウを選び、より複雑かつ繊細な味わいとアロマを追求したワインです。

マルベックもカベルネもエレガントなタンニンが素晴らしく、フィネスを感じます。

ブリオーソはカベルネ・ソーヴィニヨンを主体に、マルベック、プティ・ヴェルド、カベルネ・フランをブレンドしたボルドータイプ。ブドウは完熟したものを使っているので、タンニンに丸みが出ていて、飲みやすく心地良いワインです。まだ若いですが、長期熟成が期待できそうです。


Ben Marco


Ben Marco Malbec 2004
Ben Marco Cabernet Sauvignon 2004
Ben Marco Expresivo 2003

ペドロさんの手がけるシリーズで、ブドウ本来の味とアロマをそのままワインに表現することを目指しています。

マルベックはやわらかく、カベルネにはしっかりしたタンニンを感じます。

エクスプレシーボは、マルベック、カベルネ・ソーヴィニヨン、ボナルダ、シラー、タナの5種類のブドウをブレンドしたもの。ボナルダは70年という樹齢の木(ラベルに描かれているもの)のブドウも使われています。まだまだ固いものの、酸味が大変しっかりとしているので、もうしばらく辛抱すると素晴らしい味わいになりそうです。


 ブドウ園とシエスタ
“シエスタ”とはランチ&お昼寝休憩のこと。
ブドウ園では朝の8時から12時まで働き、12時から16時までがシエスタタイム。
その後16時から20時までもうひと働きします。お昼休みが長いのは、日中は暑くて仕事にならないからだそうで、なるほど合理的なシステムです。
休憩時間が4時間とたっぷりあるので、ランチにワインを1杯飲んでも、お昼寝すれば全く問題ありません。
ブドウ園で働く人たちはお昼になるといったん家に帰り、ゆっくりとシエスタをむさぼります。

一方、ワイナリー(ファクトリー)で働く人たちの勤務時間は朝8時から夕方17時までで、お昼休みは1時間。都会のオフィスと全く同じで、これでは昼休みにワインを1杯というわけにはいかないようです。



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インタビューを終えて


スザンナさんと夫のペドロさんはどちらも離婚経験者で、それぞれ2人ずつ子供がいました。1994年に出会い、1995年に結ばれた2人と4人の子供たちは一緒に暮らし始めます。



家族で集まった時の写真を色々と見せてもらいましたが、本当に仲の良い家族で、2人が4人の子供たちに分け隔てない愛情を注いできたことが手に取るように伝わってきます。そうした2人の愛情を一身に受けて成長した子供たちは、ドミニオ・デル・プラタのワインのラベルデザインを手がけたり、農業技術者になったり、醸造学や経営学を大学で勉強中と、両親の志を継ぎつつあります。

スザンナさんがワインづくりで得た知識や情報を惜しみなく他の人に提供してきたことは、4人の子供たちに愛情を注いできたことと通じるものがあります。彼女の母性による深い愛情は、これからのアルゼンチンワイン界の力強い支えとなってくれること間違いなしです。

もちろん、夫と子供たちという家族の愛情に支えられたスザンナさん自身の今後の活躍も期待大ですね。

今回、日本で行われたアルゼンチンワインの試飲会では、かつてのイメージを覆す素晴らしい品質のワインが目白押しでした。

変革を遂げつつあるアルゼンチンワインは、今後要チェックです!

    
取材協力:アルゼンチン大使館


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