とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

『天地明察』/冲方丁

2012-12-22 21:27:43 | 読書
天地明察
クリエーター情報なし
角川書店(角川グループパブリッシング)



最近映画化もされた冲方丁による日本の時代小説『天地明察』を借りることができた。何だか江戸時代の天文学者の話らしいということしか知らなかったが、映画館の予告を見たら、面白そうな感じがして興味を持った。しかし、映画のほうはいつの間にか公開が終わってしまい、原作をまず読んでみようと思ったのだ。

この作家の名前自体もなんて読むか判らなかったが、調べてみたら“うぶかた とう”と読むそうだ。この作品では吉川英治文学新人賞、本屋大賞、北東文芸賞を受賞し、第143回直木賞にノミネートされている。

この小説の主人公は、江戸時代前期の囲碁棋士で天文暦学者の渋川春海である。実在の人物で、当初は幕府より禄を受け、御城碁に出仕していたという。その後、数学・暦法や天文暦学を学び21歳の時に中国の授時暦に基づいて各地の緯度を計測する。その結果からかなりの誤差が生じていることがわかり、授時暦改暦を願い出た。ところが、春海が授時暦に基づいて算出した日食予報が失敗したことから、申請は却下される。春海は失敗の原因を研究していくうちに、中国と日本には経度差があり授時暦をそのまま使えないことがわかる。そこで、自己の観測データを元にして授時暦を日本向けに改良を加えて大和暦を作成し、ついには朝廷より認められ改暦を実現させてしまったというわけである。しかし、改暦には長い年月がかかり、その実現までには大変な苦労があった。本作では、その生涯を爽やかで飄々とした文体で描かれている。

江戸時代前期の話で、激動の時代は終わり囲碁とか算術、暦法という何だか難しそうな言葉が並び、堅苦しい話かなと思って読み始めた。たしかに、漢字ばかりで難しい言葉がいくつも出てきてはいるが、それにも増して春海を始めとする登場人物が、みんな素敵な人物として描かれている。春海をはじめ、彼をとりまく人々の謙虚な姿勢と、その能力の非凡さには驚く。約500ページ近くにも及ぶ長編であるが、読みだしたら飽きることがない。春海が、いろんな苦労を乗り越え生涯をかけた改暦事業が結実するまでを読み終えた後は、爽やかな読後感に包まれた。

春海以外の登場人物も、丁寧に描かれている。まずは、春海の妻となる村瀬えんとの出会い、別れ、再会となるまでのエピソードも爽やかだ。江戸時代の男たちはこんな淡い恋をしていたのかと興味深かった。それにしても、この女性は気持ちが良いほどさっぱりしている。春海がもたもたしているうちに、別の男性と結婚してしまうのだが、後半になってえんが再び登場してきて嬉しかった。あとはめでたしめでたしである。

また、当時は算術が今からは想像できないほど民間にまで及んでいたというのも面白い。算額絵馬を奉納してゲーム感覚で数学の問題を出したり解いたりしていたという。間違っていたら誤謬、正解なら明察と出題者は絵馬に書き込んだという。天と地の理を見事解き明かせたことから天地明察という題名がついたのは予想にたがわない。そして、春海を驚嘆せしめた天才的な算術家関孝和の存在も忘れてはならない。和算の功績のほとんどが関孝和の功績だと言われているくらいの重要人物で、日本独特の方程式記号を開発した人物でもあるそうだ。

春海には、改暦に至るまでのいろんな人たちとの繋がりが大きかった。会津藩主・保科正之は彼にとって最大の支援者だった。四代将軍家綱の後見人であり、明暦の大火(1657年)の後に、泰平の世に天守閣は必要ないと、江戸城の天守閣を再建しなかったことや、年金のような制度を日本で初めて作るなど、庶民のことを考えた政治を行った名君だと言われている人物である。また、若い頃は傾奇者(かぶきもの)と言われたように、非常に行動が激烈だったが、学問が好きで、儒学の研究をしたり、書物を集めたり、歴史書を編纂したりしていたという水戸光圀の後押しも大きかった。また、囲碁のライバルともいうべき道策との囲碁対決も熱くならず爽やかに描かれている。

しかし、改暦に至るまでの道のりは簡単ではない。最終的には囲碁のように先の先を読む一手が必要だったのだ。一度や二度負けても最後の勝利を勝ち取るため、幕府や朝廷にも認めさせていく手腕が素晴らしい。暦を変えるということは、国家を揺るがす大事業であるということを改めて思い知った。天と地の理を解き明かし、正しいと思ったことを、一生をかけてやり遂げた渋川春海という人物の生涯がこの本で明らかになった。時代小説はあまり好きではなかったが、この作品は、この時代にも素晴らしき偉人がいたということを知らしめしてくれた。

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2 コメント

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天地明察 (見切り発車)
2012-12-23 11:27:11
この作者名 読めませんでした。

先に夫が読んで 作者名を言ってましたが初めは何の話かもわからなかったです。

これ 面白かったですね、
読者ターゲットを若い人に向けているので 現代的に軽くて気楽な書き方をされているそうです。

原作が面白かったので 映画も見ましたが
映画も面白かったですよ。
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見切り発車さんへ (とっちー)
2012-12-23 23:30:40
やはり読んでましたか!映画も見ていたんですね。

作者自身も若手ですよね。
専門家に言わせると結構誤謬があると言われてるようですが
一般読者にも理解できるような文体で、偉人の生涯を淡々と書いてあり読みやすかったです。
映画もそのうち衛星放送でやるだろうから、その時見るつもりです。
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