とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

「アラスカ 垂直と水平の旅」講演

2009-06-20 19:17:43 | 社会人大学
第3回目の社会人大学の講師は、「山の旅人」と自らを称す栗秋正寿さんだった。栗秋さんは1972年 福岡県生まれ。仲村トオルと後藤久美子主演の映画「ラブストーリィを君に」を観て感動して、高校山岳部に入り、大学在学中にマッキンリーに登頂。1998年3月には2度目の挑戦で冬のマッキンリーに単独登頂する(冬季単独は世界で4人目、史上最年少)。下山後、リヤカーを引いてアラスカ徒歩縦断1400キロを旅する。1999年4月と2001年3月 マッキンリーに連なるフォレイカー(5,304m)に単独登頂するが春分の日を過ぎていたので冬季登頂の記録は逃す。2002年1月フォレイカーに、2003年2月、2004年2月、2005年2月ハンター(4,442m)に、2006年2月マッキンリーに挑戦したが、いずれも悪天候のため断念。オーロラなどを撮影する。2007年3月 通算4度目となる挑戦で冬のフォレイカーに登頂(冬季単独は世界初)。

栗秋さんは、ヒマラヤのエベレストよりも冬のアラスカの自然に魅せられ、一番厳しい冬を一人で満喫するために毎冬アラスカの単独行に挑むのだそうだ。特にマッキンリー、フォレイカー、ハンターは、三山連なっており、アラスカ原住民の言葉では、マッキンリーはデナリ(王者)、フォレイカーはスルタナ(女性・妻)、ハンターはベグナ(子供)の意味を持ち親子を意味する。子供ができ家族を大事にする栗秋さんは、あえてこの三山を冬季に単独登頂することを目標にしているのかもしれない。厳冬期のアラスカ山脈は気温-50度、風速50mにもなる過酷な世界。北極圏特有の猛烈なブリザードが登頂を困難にさせ、世界中で最も危険な冬山の一つとされている。そんな山の一つであるハンターだけは、まだ単独登頂ができておらず、これからも挑戦し続けるそうである。

このような経歴から、ごつい山男を想像してしまうがスーツ姿で現れた栗秋さんはごく普通のサラリーマンのように見えた。体重は60キロほどというし、このような過酷な登山をするようにはとても見えない。話し方も実直で優しい語り口であった。外見で判断してはいけないのである。スーツの下に隠された体は、トレーニングで鍛えら頑強な精神に包まれていたのだ。ハーフマラソンは1時間20分、フルマラソンならサブスリーで走れるくらいの脚力はあるそうである。これだけでも驚嘆に値する体力の持ち主であることがわかる。

さて、まずは「垂直の旅」の話である。旅は頂上で終わりではなく出発点にまで戻って完結するというのが基本である。だから、決して焦らず、引き返すかどうかを決断する勇気を必要とする。家族が待っていることを忘れてはいけないのである。そんな思いのなか、垂直移動は慎重かつ綿密に行われる。100キロ以上の荷物をベースキャンプから、次のキャンプ地まで運ぶのは全て一人で行わなければならない。1日で何往復もするそうだ。雪をラッセルして道を作り何度も往復して少しずつあがって行く。まさに気が遠くなるほどの時間をかけて標高を稼いで行く。山では装備が充実していないと生死に係わる。生きて帰るには時間がかかっても装備を揚げるしかない。慎重で綿密な準備が成功の鍵なのかもしれない。荷物を揚げた後は、その日のねぐらの確保だ。テントは強風で吹っ飛んでしまうので、雪洞を3~4時間かけて掘る。2畳くらいの空間ができると、コンロのガスの換気のための、入り口と煙突をつくる。あとは雪を溶かして、お湯を沸かしたり食事したりして翌日のために体を休めるのである。だが、雪洞の外は極寒の世界。風速50m、瞬間最大風速は100mくらいあるとのことだ。天気が悪ければ、何日も同じ場所で停滞せざるを得ない。まさに我慢の極致。忍耐力もなければ前に進めないという。そして、もう一つ気をつけなければいけないのが、凍傷である。栗秋さんは、雪焼けがほとんどない。山男というと雪焼けしているのだが、凍傷を防ぐためにフェイスマスクやゴーグルで完全予防、毛皮も被り凍傷予防も万全にしているそうだ。「自分の身は自分で守る」ということが全てにおいて優先しているのであろう。そんな状況下で、何日もかけて、山頂に到達した気持ちは忘れがたいものであろう。だが、うれしいという気持ちだけではなく、目標が半分達成できて寂しいような気持ちもあるという。このあたりはよくわかるような気がする。これで旅は終わりではなく、折り返しに着いただけなのだと思えば、寂しいなんて言ってられない。結局は、待ちわびる家族や友人に無事な顔を見せることが旅の終わりになるのだろう。自分もアラスカの山には程遠いが、国内の山の登山でも無事に帰るまでは息が抜けない。そんな気持ちは忘れずにいたいと思った。

そして、もう一つの「水平の旅」は、リヤカーに50キロの荷物を積んで、北極海目指して1400キロを歩いたお話である。これも、必要な機材や食料をすべて一人で運んでいる。だれの援助も受けずにである。よく走って大陸横断なんて話も聞くが、こちらはサポートがついているし荷物はほとんど持たない。栗秋さんは、自転車でもなくリヤカーを引っ張って最大速度時速5キロくらいのゆっくり旅である。自分の足で、車では見逃してしまうようないろんな景色を見て歩きたいのであろう。この辺りは、山歩きと大いに通じるところがある。山登りが垂直なら、平地を歩くのが水平の旅なのである。水平の旅には、様々な出会いがある。通り過ぎるトラッカーや地元の人たちにも声援され、出会った人たちの家に泊めてもらったり、地元の学校で講演を頼まれたりして、北極海まで歩いていったのである。このような旅でこその出会いは大きな収穫であろう。そして、最後の一日は北極海に出るため石油会社の私有地に入る。本来なら入ることはできないのだが、これまでの旅の経過を知った会社が、社員の護衛つきで許可を簡単に出してくれたそうである。この辺りは野生の熊が出て危険なのでライフルを持った護衛がついたのである。そして無事北極海にもたどり着いたと言う。

美しいスライド写真で垂直の旅と、水平の旅と貴重な話を聞くことができて面白かった。講演終了後は関係者と一緒に栗秋さんと食事しながら直接話をする機会があり、さらに突っ込んだ話も聞かせてもらった。怪我をして以来断酒しているという栗秋さんは、講演が終わっても謙虚だが雄弁であった。誘っていただいたヒロボーさんには、またしてもお世話になった。貴重な時間を作ってもらいありがたかった。さた、垂直の旅はなかなか真似出来るものではないが、水平の旅には、憧れるものがある。テレビでも東海道、山陽道、四国88箇所を歩くなんてのもよくやっている。時期が来たら、時間をかけて長い距離を歩き続けてみたいという思いが強くなった。




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6 コメント

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さすが登山ジャンルは凄い~ (しぞーかお伝)
2009-06-21 20:25:52
 とっちーさん、読み応えがありますよ。私は専門外なのですが、その分勉強になります。
 
 今日の乗鞍天空マラソン…雨にたたられ、ほんとマッキンリー並みの寒さで凍傷にかかるのではないかと思ったほどで、リタイア願望でずっと走ってました!!

 高い山って奥深い…いろいろと教えてくださいまし。
 
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しぞーかお伝さんへ (とっちー)
2009-06-21 21:55:00
乗鞍天空マラソンお疲れさまでした。もう帰ってこられたんですね。やはり寒かったんですかー。凍傷にかかりそうな寒さとは、恐ろしい。高い山は甘く見てはいけませんね。全てにおいて綿密な準備が必要なんですよ。
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Unknown (ヒロボー)
2009-06-22 22:20:13
さすが・・・克明にまとめています。

あの体格で、どこにあんなすごい力がと・・・
やっぱり、志、思いの深さがちがうんだなあ。

アラスカの荒野を生き抜くための留意点、10項目はすごいことばです。とても学ばされます。

社会人大学はスゴイ方との出逢いがあり、話はもとより、直接食事をしながら、一杯飲みながら生の声を聞き学ぶことができるのも、すごい特権です。これからも積極的に学びましょう。
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ヒロボーさんへ (とっちー)
2009-06-23 00:26:10
ヒロボーさんのお誘いで、スゴイ方と面識をもたせていただきました。ありがとうございます。

たしかに、あの体のどこにあんなすごい力があったのかと思いましよね。気持ちの持ち方一つで人間は何でもできるんですね。
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気の遠くなるような・・ (見切り発車)
2009-06-25 10:08:17
この記事 なんどか読ませて頂いているのですが なんど読んでも 気が遠くなる気がします。
こころに 深いロマンをお持ちなのでしょうが ロマンや志だけではなく 強靱な体力や意志や克己心も お持ちなのでしょうね。
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見切り発車さんへ (とっちー)
2009-06-25 23:10:03
この拙い文章を何度も読んでいただいたとは恐縮ですね。

本当に気が遠くなるようなお話です。外見からは想像もできないような体力と意思を持った方でした。
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