とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

「明日の子供たち」有川 浩/著

2014-10-23 22:52:35 | 読書
明日の子供たち
クリエーター情報なし
幻冬舎


有川浩の新作「明日の子供たち」を早々に読むことが出来た。幻冬舎創立20周年記念特別書下ろし作品になるそうだ。

内容(「BOOK」データベースより)
三田村慎平・やる気は人一倍の新任職員。和泉和恵・愛想はないが涙もろい3年目。猪俣吉行・理論派の熱血ベテラン。谷村奏子・聞き分けのよい“問題のない子供”16歳。平田久志・大人より大人びている17歳。想いがつらなり響く時、昨日と違う明日が待っている!児童養護施設を舞台に繰り広げられるドラマティック長篇。

この作品の舞台は、児童養護施設である。今まで、ベタな恋愛ものや自衛隊絡みの作品が多かった作者だが、何故、児童養護施設をテーマにしたかというと、ある施設で生活している子から、「先生に児童養護施設をテーマに本を書いてほしい」という手紙が届いたのがきっかけだという。

児童養護施設とは、父母と死別した児童、父母に遺棄された児童、家庭環境不良の児童(父母の行方不明、長期入院、拘禁、離婚、再婚、心身障害など)、保護者がいても児童虐待を受けているといった「保護者の健康上・経済上の理由などで監護を受けられない児童、または保護者の元で生活させるのが不適当(家庭環境が悪く、保護者のもとで生活させるのは無理)」な状況にある」と児童相談所が判断した児童が生活する施設である。

施設で暮らしている子供というと、テレビドラマでも題材に取り上げられたことがあるが、一般的には「かわいそうな子供たち」という認識で取り上げられてしまいがちである。この作品に登場する少女は「かわいそうと言わないで」と主張する。家があっても、育て方を知らない親の元では何の喜びもない。むしろ、施設で規則正しい生活をして、勉学にいそしむことが出来、職員にはいろいろ相談もできるから、本人はかわいそうと思われるのが心外なのだ。施設には、いろいろな問題があるが、「かわいそう」で終わって、物事が正しく理解されないまま、放置されている現状があるという。「施設のことを、世間の人に正確に知ってほしい」というのが、この作品の大きな狙いでもある。

そして、児童養護施設を退所した子供たちのその後についても、重要なテーマとして取り上げられている。児童養護施設が管轄するのは、高校生までの就学児童であり、高卒もしくは中卒で退所した児童はケアの対象になっていないという。施設の目的は、高校または中学まで行かせたらあとは退所させてしまう事で終わりだ。大学に進学したり社会人として就職した児童についての退所後支援をしているところはほとんどないのが実態だという。だが、施設を退所した子供たちは、金銭的な問題や職場でのトラブル等様々な問題について相談できる相手がなくなってしまうのが現実なのである。本作品では、そんな退所後ケア施設の重要性を、丁寧に書き連ねている。17歳の泰子が、観衆の前で施設の現状や問題点を挙げ、最後に「あしたの家の子供たちは、明日の大人です」と語るシーンは、たんたんと綴られたこの作品の中では特にグッとくる。どの子供も、未来の大人なのだ。施設の子であろうとなかろうと、明日の大人を大事にしない社会に未来はないという問題提起だといえる。

そして、もう一ついいなと思ったのは、本を読むことの大切さを織り込んでいることだ。「人生は一人に一つずつだけど、本を読んだら自分以外の人生が疑似体験できる。物語やドキュメンタリーなど、他人の人生を読んで経験することが、自分の人生の訓練になっているんじゃないか」なんて、素晴らしい事が書かれている。とにかくどんな本でもいいから、いろいろ本を読んで人生の訓練をしてみるのは、一番簡単で安上がりだ。さすが、有川さん、本を読むこととこの作品のテーマをうまく絡め合わせているところが上手いとしかいいようがない。