とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

「錨を上げよ」百田尚樹/著

2014-10-17 23:25:58 | 読書
錨を上げよ(上) (100周年書き下ろし)
クリエーター情報なし
講談社


錨を上げよ(下) (100周年書き下ろし)
クリエーター情報なし
講談社


いやあ~!凄い話だった。百田尚樹というと、やたら長い作品が多いのだが、この作品も上下巻合計1200ページ、原稿枚数2400枚に及ぶ大作である。題名からして、船乗りの話かと思っていたが、内容的には、まるで百田尚樹本人を彷彿させるような主人公のハチャメチャな人生を描いた自叙伝的な内容だった。

主人公の作田又三(さくたまたぞう)は昭和30年に大阪で生まれる。小学生の時から勉強には興味がなく、けんかに明け暮れ、中学時代はさらにエスカレートして不良少年のレッテルを張られる。それでも、創立したばかりの商業高校に最低点で合格する。高校生活は、商業科生徒と体育科生徒との対立に巻き込まれたり、ゴルフ場でのアルバイトで手に入れたオートバイを乗り回すと予想通り警察や暴走族とのトラブルにも巻き込まれる。夏休みに行った長野県へのツーリングでは予想もしない単車盗難にあい、村人に襲われ命からがら東京に逃げて行く。東京では、ヤクザに借金取り立ての手伝いをさせられ、工場のスト破りの助っ人にも駆りだされたが、労働者たちの反撃にあい命からがら大阪まで逃げ戻る。まったく破天荒な成り行きが続き、この主人公は一体何者なんだという思いにさせられる。しかも、この話だけで、全7章のうちの第1章の内容である。

第2章。無事高校に戻った作田だが、悪友に誘われて窃盗に手を貸すが警察にあっけなく捕まってしまい、停学となって落第してしまう。その後も、校長とけんかをして停学を繰り返しなどするが、何とか卒業できる見込みとなった。しかし、一度目の就職試験では面接者と口論して不採用となり、二度目の試験で中堅スーパーマーケットへの就職が決まる。

第3章。スーパーの店長と衝突し就職も長続きしない。周囲の大学生の楽しそうな様子を見て大学へ行きたい気持ちが異常にまでに膨らみ、スーパーを辞めてしまう。そして、あきれる事に医学部の学生と称して家庭教師のアルバイトをしながら受験勉強に没頭し、同志社大学法学部に合格する。しかし、大学生活も、過激派の活動や学園紛争、下宿での生活、左翼思想グループのマドンナである女子大生への憧れとトラブルなどで、次第に失望していく。

第四章。大学を中退し、東京でマージャン店のアルバイトをするようになる。他にもいろんなアルバ
イトをするが長続きしない。赤提灯で声を掛けられた男から誘われ、右翼団体に入らされてしまう。区会議員の補欠選挙で選挙応援だけでなく対立候補の選挙活動妨害や凶器を用いた乱闘があると聞き、襲撃の前夜に逃げてしまう。その後、パチンコ店のアルバイトも長続きせず、次に見つけたレコード店では、クラッシクレコードの関心が深まり、棚の並べ方やジャンルの区分のやり方を工夫すると、レコードの売り上げが増えていった。アルバイトに来ていた女子大生と恋仲になるが、それも長続きせず、女子大生はアメリカにいる婚約者の元に去ってしまう。失恋の痛みを知るとともに、レコード店の社長とも口論の末、退職してしまい元の木阿弥に戻ってしまう。全くこの主人公の生末は、どうなっていくのかまったく先が読めない。

第五章。なんと作田は、北海道の根室に向かう。 オホーツクのテレビ報道番組を観ている時、心の中で誰かが「錨を上げよ!」と叫んだのが聞こえたらしい。根室で始めた事は、ウニの密漁である。北方領土には、ウニが豊富に採れる場所があり、ソ連の監視船の網をかいくぐって密漁に励む。ソ連の警備艇や海上保安庁の巡視船に追い回されることは何度もあったが、コツを覚えた作田公は、大いに水揚げを上げ数百万円ものお金を手に入れてしまう。だが、こんなことがいつまでも続くわけがない。密漁に目を付けたヤクザによる密漁船のグループ化が行われて、その渦に巻き込まれてしまう。

第六章。密漁から足を洗うが、悪い事で儲けたお金は長続きしない。 ビリヤードや賭博ゲーム機、果ては競馬と競輪に凝ってしまい500万円もの金を無くしてしまう。しかし、そんな生活の中、ビリヤード場で働いていた宇野保子と知り合い、半年後に結婚する。妻だけ働かさせるわけにはいかないと仕事を探していた作田はフリーのテレビ放送作家をしている昔の友人の仕事を手伝うようになる。この辺りから、百田尚樹の経歴と重なる部分が見えてくる。放送作家の仕事にも慣れ、次第に収入も増えるようになった。だが、妻の保子は流産をしてしまう。ある日、予定を変更して急に家に帰った作田は、信じられない光景を目にする。それは、寝室に知らない男と一緒にいた妻の姿だった。

最終第七章 。妻保子の裏切りを許すことにできない作田は、妻が泣いて許しを乞うても決心は揺がず離婚してしまう。放送作家の仕事を一切やめ、タイのバンコクに向かっていた。タイでも、波乱万丈な日々を過ごしていくのであった。やがて、大阪に戻った作田は、昔の友人にあったりする。そして、離婚しても忘れることが出来なかった保子にも再開する。ここで、やっと長いお話が終わりを迎えるのだが、最後の『人生の長い航海は、これから始まるのだ』の一文で、やっとタイトルの意味が分かった。

長々とストーリーを並べてみたが、この作品は百田尚樹の自叙伝ではなく、あくまでもフィクションであるそうだ。内容的には、被る部分もあるようだが、ここまで破天荒な人物はめったやたらにいるものではない。ただ、ものすごい文字数は、読む者を圧倒させてしまう。かといって、放り出すこともできない。息継ぐ暇もないくらい次から次へと展開していくお話に、先を知りたくてついつい読み進んでしまった。しかし、これまでの百田作品と比べると読み終えたあとの感動感というものは、あまりなかった。主人公の作田という人物に自分を投影してみても、あまりにも違いすぎる。共感するというよりも、「あなたはどう生きるのか?」と問いただされているような気にさせられた作品だった。