prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ドッグヴィル」

2004年03月12日 | 映画
床に見取り図を描いただけの舞台装置のような抽象的なセットで撮っているのにも関わらず、個々のメイクや服装・小道具の類や、光の当て方がリアルという以上に、奇妙なくらいアメリカの<>の生な臭いがした。というより、東京が大いなる田舎というような意味で世界の田舎であるアメリカを描いているようだ、と思っていると、エンドタイトルのバックが貧しいアメリカを撮った写真の連続になっていた。

「ダンサー・イン・ザ・ダーク」はアメリカを舞台にしながらアメリカではまったく撮っていないというが、ワンクッションおきながら、本物よりそれらしい、というか今の世界の構造の中心に迫るような作り。
ワンセットドラマの閉塞感とともに、壁という壁が全部ないのだから、村

人が全員互いに見てみぬふりをしながら、見張っている図になる。いくら抽象化した描き方とはいえ、子供を皆殺しにするのをまともに描くのはこの監督くらいだろう。カメラがかなりぐらぐらしているが、監督自身がオペレートしているため。
(☆☆☆★★)


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「大脱走」

2004年03月12日 | 映画
痛快娯楽巨編、には違いないのだけれど、意外と“戦争の臭い”がする。最初に宣言される脱走の目的自体が後方撹乱という戦争上の任務にあるのだから。そして撹乱自体は成功したわけだが、犠牲者もずいぶん出ているという意味で、通常の戦闘上の作戦と本質的な違いはないと思う。仇役である収容所所長の脚が悪くて、また単純な悪役ではなくドイツ武人としてのプライドを見せるあたりもいい。

見事なくらい女っ気のないキャスティング。女の姿は脱走してから背景に辛うじて写る程度。男ばかりなだけに、見事に脱走という目的一つに人物全員がシステマティックに動く機能美が際立つ。あまりグランドホテル式の人物描写はなく、“ビッグX”“調達屋”“クーラー・キング”など脱獄における役割イコール役全体になっている。

後半、ほとんど台詞がなくなってしまい、ときどき英語以外の台詞があってもいちいち字幕が出ないし、出なくても困らない。それでいて脱走に成功したコバーンを迎えたレジスタンスが、ここはスペインかと聞かれてエスパニョールだとちらっと答えるあたり、芸が細かい。

撃たれて転倒し金網にひっかかったマックイーンが、穴のあいたバイクを撫でてやると、ガソリンがこぼれる音がする。ちょうど、馬が撃たれて出血しているような感覚。風景の切り取り方と空間感覚は、さすがに西部劇仕込みの演出。
(☆☆☆★★)


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