prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「永遠の眠りと復活」

2018年01月10日 | 小説
―ここはどこだ? 
 何も見えない。何も聞こえない。いや、何か音がする。人の声か。俺は何をしていたんだ?
 何か節々が痛むな。そうだ。俺は病気だったんだ。感染症だった。何という名前のウィルスだったか、ややこしくて覚えていない。
 それで余命一週間と宣告されて。
 なんてことだ、余命一週間だと。
 いや、それで決めたんだ。俺には、幸い金があった。事業で忙しく世界中とびまわって、それでどこかで感染したんだが、とにかく仕事は順調で金はあった。
 それで決めたんだ。いったん、冷凍睡眠(コールド・スリープ)しておいて未来でこの病気を治す方法が見つかるのを待とうと。
 決めたら早かった。俺は決断は早いんだ。だから商売でも成功した。
 そうか。治療法が見つかったんだ。それで冷凍睡眠中の俺を覚醒させた。どれくらい眠っていたのだろう。知っている人間たちは生きているだろうか。
 しかしみんな死んでいたとしても、どうってことはない。俺はいつだって自分の力で自分の運を切り拓いてきた。生き返ったら、またやってやるぞ。
 何かチクッとしたな。そうか、特効薬を注射してくれたのか。

―そんなに貴重なんですか、そのウィルスが。
―そうとも。正確に言うと、ウィルスの原種がな。今流行っている何度となく変異してきた型に対抗するに、原種から遡ってDNAの型を見ていく必要があるんだ。
―この患者の体内にウィルスが患者と一緒に冷凍保存されている。
―そういうことだ。
―患者は助かるのかな。
―難しいな。とうに手遅れだ。
―未来になったら、助かると期待をつないだらしいけれど。
―ムリなものはムリだよ。
―ウィルスは生き続けて、ヒトは死ぬ、か。
―代わりに大勢の命が助かる。
―血液は採取したな。
―はい。
―あとは厳重に隔離しろ。

―おかしいな。だんだん痛みがひどくなってきた。そうだ、意識がなくなる前、頭痛に、吐き気に、関節の痛みに、そうだ、全身の毛細血管がボロボロになって目からも出血していたんだ。
 痛、いたたたた。
 おい、いつ治してくれるんだ。何を注射したんだ。
 動けない。
 見えない。いやかろうじて見える。視界が真っ赤だ。目玉から出血している。網膜の毛細血管が破け続けているのか。
 金なら出す。いくらでも出す。
 助けてくれえっ。


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