北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

作ると守る、どちらが難しいか~貞観政要を読む

2013-04-08 23:45:29 | 本の感想

 先日コーチャンフォーへ行った際に見つけたのが、山本七平さんによる「帝王学~貞観政要の読み方」という本。

 「貞観政要」というのは、中国の唐の時代に太宗が行った、『貞観の治』という平和で非常によく国を治めた時代における、太宗と部下との問答を記録した書のこと。

 太宗は24年間帝位におり、この間に善政を行い唐の基盤を形成したのですが、彼の死後にその後を継いだ高宗は病弱で、皇后が政務を行うこととなりました。
 これが後の則天武后であり、悪政を行ったことから「中国三大悪女」とも言われています。

 この間、唐の元老たちは23年間にわたって忍従を続けながら武后に使え、神竜元(705)年にようやく武后に迫って、帝位を中宗に譲らせることができました。

 そしてこのとき史官の呉兢(ごきょう)が、再び太宗の時代のような立派な政治をしてほしいという願いを込めてこの『貞観政要』を編纂して中宗に献じたのです。

 内容は、太宗と部下たちの問答と書きましたが、太宗からの質問に部下たちが答えるという形が多く、部下たちからの耳の痛い指摘などを素直に受け入れるリーダーの姿がよく描かれています。

 
   ◆   ◆   ◆


 内容で有名な問答は、「貞観十年、太宗、侍臣に言いて曰く、帝王の業、草創と守文といずれが難き、と」というもの。

 つまり、トップリーダーになるのと、なってからそれを維持するのとではどちらが難しいか、という問いでした。

 この問いに対して昔からの腹心の部下である房玄齢は、「群雄が競い合う中、それを次々に攻め討って降伏させる勝ち抜き勝負でこれを平定するのですから、創業の方が困難と言えるでしょう」と答えました。

 それに対して、始めは政敵について後に太宗に見出された魏徴(ぎちょう)は、「新しい王朝は、前代の失政や混乱の後を受けて、それを打倒して誕生します。ですから天下は一応これに従うのであって、それほど困難とは思えません。しかし、一たびそれを得ると、驕りが出て考えが偏り、民の疲弊や困窮に気付かなくなります。国の衰亡は常にこれによって起こるのであって、そう考えると、守文の方が難しいと思います」と答えました。

 この両者の意見を聞いて太宗は、「共に一理あるが、今や創業の困難の時は去った。これからは守文の困難さに、諸君と共に慎重に対処したい」と答えたと言われます。

 
 著者の山本七平氏は、「創業の苦労とは陽性なもので、頂上を目指す登山に似ている。苦労はあるが、山頂へ着いた時の達成感や満足感などは大いなる魅力であろう。しかし事業はそこで終わらない。山頂を極めたと思ったら、それが絶壁の上の台地で、そこから『遠き道を重荷を負うて』歩み続ける状態になるのだ」と書き、「創業的体制」を「守成的体制」に切り替えなくてはならない、と言います。

 
 貞観政要は、まさに帝王学を教える書として傑出した読み物で、日本でも北条政子や徳川家康が愛読した、と言われています。 

 しかしながら案外良い紹介本がないので、山本七平さんのこの本は、読みやすくて実に手軽で良い本なのです。


   ◆   ◆   ◆


 さて、この「創業か守成か」という問いは、現代の日本の社会にも言えることで、人口が減少局面に入り、国民の財産もずいぶん増えた今日、まだ拡大基調で攻めるのか、それともこれまでの財産を適切に守るのか、という大きな選択にも似ているように思います。

 私の今の職場での立場は、「そろそろ守成に回ることを考えるべき」というもので、世の中の多くの施設やインフラの維持管理に対して、もう少し気配りと必要な経費を投入しなくては、適切に守れない時代になるという危機感を感じます。

 人は考えたくないことを考えないようにするもので、いわゆる貞観政要で言うところの諫言を誰がいかにするか、が問題となるわけです。

 人が聞きたくないことをいかに分かりやすく伝えて理解を得るかが、今回の私のテーマになりつつあります。

 どこへ行っても同じようなことをしているものです。


   ◆   ◆   ◆


 さて、そんなことを思っていた時に本屋さんで見つけたのがこの本なので、(これもまた縁があるなあ)と思って嬉しくなって買い求めたのですが、家に帰って本棚を見ると、なんと出版社が別ながら同じ本があるのを見つけました。

 本の中の書き込みを見ると、前回読んだのは2008年のようですが、なんと読んでいたことを忘れるとは情けない…。

 まあ改めて、今の仕事に繋がる本として目の前に表れてくれたものとして、精読してみたいと思います。

 どうぞご一読あれ。

 

コメント (2)
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