駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『Hotel Svizra House』

2021年04月12日 | 観劇記/タイトルは行
 東京建物ブリリアホール、2021年4月10日15時半(初日)、11日11時。

 第二次世界大戦中期、ナチスドイツの脅威が広がるヨーロッパにおいて、中立国であるスイスは様々な国籍、階級、職業の人々が行き来し、連合国と枢軸国側の駆け引きの場となっていた。オランダ貴族の父と、バレエ・リュスのダンサーとの間に私生児として生まれたロベルト・フォン・アムスベルク(真風涼帆)は、母の死後、伯爵家に引き取られ、英国の大学で国際政治を学んだあと、その才能と巧みな社交術を買われ、英国のオランダ大使館に勤務している。外交官として多忙な日々を送るロベルトだが、彼の真の任務は英国情報部のために働くスパイキャッチャーとして、敵国のスパイを摘発することであった。ある日、重要なミッションを受けたロベルトは、スイスの山岳リゾート地サン・モリッツに佇むホテルスヴィッツラハウスにやってくるが…
 作・演出/植田景子、作曲・編曲/瓜生明希葉、植田浩德。宙組新トップコンビのプレお披露目公演、全2幕。

 新作の初日を観るときの期待と不安のワクテカ感って、いいものですね。次にそれを経験するのは『桜嵐記』か、想像するだけで泣いちゃうな…
 それはともかく、事前の印象からは、なんか国際政治とかスパイとかのルポルタージュかノンフィクションでも読んじゃったのかなけーこたん?とやや、イヤかなり心配していたのですが、グランドホテル形式の群像劇みたいでもありながら意外やメインはバックステージもの?といった仕上がりの作品になっていました。ロベルトが追うスパイ、コードネーム「ウィリアム・テル」の正体は?そしてそのさらに奥に潜むらしき謎の真相は?というミステリーの要素と、ロベルトとニーナ(潤花)あるいはその他の様々なカップルのロマンスや人間ドラマの要素が、意外にも(オイ)上手く組み合わさって、スリリングで緊密な芝居に結実していたと思います。ホント、別箱の景子先生ってわりと外さないよね…制約が多いだろう場面転換も、暗転の間のブリッジ音楽が効果的でいいニュアンスを生み出し、綺麗につないでいましたし、映像の使い方も好みはあるかもしれませんが私はいいなと思いました。私はミーハーバレエファンなので、バレエ音楽の使われ方にもニヤニヤ楽しめました。
 ただ、例によって、基本的に理屈っぽくて説教臭い部分は多分にありますね。というかほぼ全体にソレなので、駄目な人はホント駄目でしょうね。私は失笑しつつ認めてしまう域に入りつつあるのですが…お友達が「一から千まで台詞で書いちゃう」みたいなことを言っていて至言だなと思ったのですが、そうなの一から百までどころじゃないの、千まで書いちゃうのがけーこたんなんですよね。もちろんコレ、褒めてません。でも多分こういう性向ってもう直らないんでしょうね…何度も言っていますが、そして本当に僭越なことで何様だよと言われそうですが、私は自分が作家だったらこういうふうに書いちゃいそうと思っているので、この性向がわかる気が勝手にしているし、同族嫌悪を感じながらも景子先生を嫌いになりきれないのです…
 景子作品は、お芝居なんだから、舞台作品なんだから、もっと全体で観客に伝わればいいのであって、なんでもかんでも全部言葉にして台詞で言わせなくてもいいのになあ、と観客としては観ていてちょっと辟易としますよね。でも私個人はどちらかというと足りないくらいよりは書きすぎなくらいの方がまだいいんじゃね?と思ってしまうタイプなので、やはり嫌いになりきれないというか、評価が甘いところがあるのかもしれません、すみません…
 イヤでも、芸術は人を癒やすし生かすよ!とか、人生は生きるに値するものだよ!とか、だから人が殺し合う戦争は良くないよ!とかは、多分今日比谷で雪組がやっている作品と訴えているテーマとしては似ていると思うのですが、その在り方のあまりの違いよな…とちょっと目眩がしましたよね。要するにけーこたんのくーみんの違いってことなんですけどね。間違ったことは何ひとつ言っていないし、コロナ禍の今だからこそ、そして右傾化が怪しい今のこの国に生きている作家だからこそ書くこの作品、というのもわかるんです。でも、景子先生のそれはあまりにもそのまんますぎる…そういうのは十分わかっているから、舞台ではそんなことはやってくれなくてけっこう、と拒否反応を示す層もけっこう多いよ?と大きなお世話でしょうが心配になりました。一方で、今だからこそ響いた、感動した!って素直に泣いて激賞する層ももちろんある程度いるだろう、とも思いました。なので、まあ、評価はトントン、なのかなー。少なくともとっちらかりすぎたり話が崩壊していたり中身がスカスカだったり何がやりたいのかわからなかったり虚無の風が吹いたり…はしていなかったと思うので、まずは佳作、と言っていいかと私は思います。奥歯にものが挟まったような言い方ですみませんが。私からは、とにかく、いかにも、景子先生作品だなー…というのが一番です。
 でも、もっと暴走するかと心配していたバレエ・リュスネタも、ちょっと無理やり感はあったかもしれないけれど、そして興味がない層にはほとんどぽかーんだったかもしれませんけれど、私はいい感じにお話に入れ込めたなと思いましたし、作家の世界や人間への愛をすごく感じたので、そこがすごくよかったなーと思いました。そろそろ薄味になったり枯れてきたり老いて駄目になったりしてきちゃうかもしれないお年頃じゃないですか…イヤ重ね重ね失礼発言は申し訳ありませんが、そういう作家をたくさん見てきたので、なんなら今もまだそういう作家はこの劇団にもいるわけで。でも、景子先生は若い、青いと言っていいくらいの怒りを今の世のいろいろに感じていて、怒るのは愛あればこそであって、それをまっすぐ作品に仕立てる熱さがまだまだある人なんだな、と思うと、嬉しいやら頼もしいやら微笑ましいやらで、そういう意味で「景子www」ってなっちゃったんですよね。そんな、清々しい観劇になりました。
 でも歌詞のサビにちょいちょい英語を置くのはマジで「景子www」なのでちょっと再考してほしいです…(笑)
 ちなみにブリリア恒例客席ガチャは、初日は上手かなり前方のかなり端で歌手のせとぅーがギリギリ見切れないくらいで、あとは視界や音響には特に問題ナシ。2度目はそれよりちょっと後ろでちょっと真ん中に寄ったお席で、かなり快適に観ました。悪評高き2階席や3階席のサイドは1列おきとかで売っていたようなので、不愉快な思いをしている人は減っているよう…なのかな? 1階でも後方はけっこう観づらいと聞きますが、どうなんでしょう…ビルに入るときの変な階段といいそのあとの導線といい、新しいハコのわりにはあまり感じが良くない作りなのは本当に残念です。次にどこかで新たに作られる劇場は、もっといろいろちゃんと考えられていてほしいです…

 さて、では以下生徒さんの感想を。というかやっぱホームなんだな、半分だってのもあるけどみんなわかるしわからない下級生さんチェックも楽しいわ、とルンルンでした。おそらく全員に台詞がありましたよね、そういう配慮も嬉しかったです。

 まずはゆりかちゃん。プログラムのイケメンスーツコレクション写真集みたいな仕上がりっぷりに震撼しましたが、舞台ではさらにもっと映えていた! さらにハット! コート! シガレットケース! 煙草、紫煙! キュー、フルートグラス、新聞、ベスト姿! いやー麗しいことカッコいいこと!!
 さらに設定盛りすぎやろってこのロベルトってキャラがまた、ね…オランダ貴族がバレエダンサーに生ませた子供で、母親が亡くなってやっと父に引き取られて、そこから英才教育が…ってのもアレだし、家同士が決めた婚約者がいてでもきちんと好きになれないままに戦争で死なせてしまったことを悔やんでいて…みたいなのもアレだし(若きロベルトの影と婚約者の影のダンスがバックで展開されそうなターンだったのに、ありませんでしたね)、なんかもうホント無敵のハーレクイン・ヒーロー感、ドリーム炸裂な役をさらりと体現してみせるゆりかちゃんにホントもうメロメロですよ! 冒頭、情報収集のためとはいえ流れるようにヒロインをディナーに誘う伊達男っぷりにクラクラしましたし、それが話が進むと仕事と感情が上手く割り切れなくなっちゃって悩む様まで見せてくれちゃって、ホント景子オトコの趣味いいね!?ってなりました(笑)。実際、生家が貴族だから社交界に慣れていて…って、外交官としてもスパイとしても強いだろうなー。イヤ本当のところは何も知りませんが。よくよく考えるとロベルトってそんなにたいしたことしてないようでもあるんだけれど、でもたとえばゆりかちゃんで国際スパイもの、という企画として起きたんだとしても、変なドンパチアクションになったり、任務のためなら女も抱くし人も殺すみたいなワイルドマッチョスーパーヒーローになったりしなかったのがまずよかったです。あと、男は大義優先で色恋にはややクールなのに女の方はすべてを捨ててもいいくらいに男に惚れちゃって…みたいなのがわりとありがちだと思うのですが、今回はバランスがとても良かったと思いました。ロベルトは上司や任務や国家に忠実すぎたりすることがなく、自らの正義や信念、真に人間と世界と平和のために大事な真実のために行動できる人でした。だから恋愛もちゃんと大事にするし、だけど彼女がキャリアを選んだときにちゃんと送り出せる人でもある。こういうキャラってなかなか描けないよなー、とホント感心しましたし、それをホントさらりと演じちゃうゆりかちゃんがすごく素敵でした。またひとつ、スターとしての階段を上がったのではないかしらん。
 あいかわらずの「~だぁ」な語尾はご愛敬。『アナスタシア』ですごく歌唱が鍛えられていて、なんだったかなわりとみんなで歌う歌でのロングトーンが素晴らしかったです。
 そしてそう言えば『アナスタシア』では本当に健全でただのベッドだったベッドが今回は活躍していましたね…!(笑)いやーアレちょっと観ていてみんな孕むでしょ!! 片脚上げて、ネクタイ緩めて、ニーナのカーディガン脱がせて、リボンタイを外して…ごちそうさまでした。

 そしてかのちゃんのニーナですよ! ヒロインに冷たいことで有名な景子先生が、こんな素敵なヒロインを描くなんて…!? いや、ヒロインとしてはいたってフツーなんですよ、でも景子ヒロインでは破格だと思いました。それをかのちゃんが、緊張しつつも丁寧に演じ、生き生きと血肉を通わせ、実直にそして艶やかに生きて見せてくれました。
 バレエという共通の話題があるということもあって、もちろんロベルトの方には情報収集という下心があるんだけれど、それでも話が合って心が通っていろいろ語り合っていくうちに恋心が生まれて…というのを、ベタなんだけれどきっちり見せてくれたのがまずよかった。戯れで踊るうちに恋が…って展開も100万回観てきましたが(ゆりかちゃんも最近だと『El Japon』でやりましたよね。『アナスタシア』もある種そうだ)、景子先生がこんなふうにテレもせず真正面からそんな場面を作るなんて…と震えましたよね私。またまどかにゃんほどは背がないのか、かのちゃんがトウで立ってもゆりかちゃんはまだ背が高くて、並んだバランスのいいことよ!
 ニーナの嫉妬とか迷いとかは都合よく手紙で展開されすぎたきらいはありましたが、そんなニーナがロベルトとキスしたり一夜を共にしたりしてもそれでも一番なのはまずバレエで、だからキャリアを選んで海外に行くという選択をするところもとてもいいなと思いました。こういうヒロインってなかなかいないんですよ、男は愛より大義に生きて女だけが男にヨロメロすがりついちゃう話の方が圧倒的に多い。でもニーナはちゃんと自立した、地に足着けて生きている、大人の、そしてごく普通の女性なのです。そもそもオーディションのことを「仕事の面接」って言うところがいいし、その前のことを「失業していた」って言うのもいい。バレリーナになりたいの!みたいに夢見る夢子ちゃんじゃなくて、すでにバレエで食べている立派な社会人なんですよね。とても新鮮でした。
(真犯人捜し、という点では『幽霊刑事』と同じなのに百万倍おもしろいな、ダーイシとけーこたんの差か?とか考えていたのですが、『カンパニー』でのバレエの扱いよりこれまた百万倍よかったです。ニーナがダンサーとして踊れる時間をちゃんと考えているあたりとかの台詞も、断然ちゃんとしていた…)
 ごく庶民の職業ダンサーということでお洋服が地味めなのが残念でしたが、ゾベイダでは生腹も見せてくれて思わずガン見しました。難点を言えば、お芝居のラストの白いコートドレスみたいなのとフィナーレの白のドレスの印象が似ていてもったいなかったので、もっとシルエットの違うドレスを着せてほしかったなーというところでしょうか。あと鬘はこれからかなー。
 プレお披露目なんだからハッピーエンドにするってちょっと考えたらわかりそうなものですが、私は初日の『シェエラザード』場面でニーナが怪我してロベルトの腕の中で死ぬ(オイオイ)悲劇展開になったらどうしよう、とマジでハラハラしましたすんません。で、そこからの、確かに恋だったでもお互いそれぞれやることがあるから別れよう展開はすがすがしいし美しい、と感心していたらさらにまだそこからの「数年後」の再会とプロポーズ展開までついてきて、ホントどうした景子この過剰サービスは!?と動揺しつつも、ありがたく美味しくいただいちゃいました…よかった!
 しかし劇団からの強い要請があったのか、はたまた景子先生が大人になったのか…? 「必要とあればベタベタな少女漫画展開も書けるんですのよワタクシ」という景子先生のドヤ声が聞こえた気がしましたよ…イヤでも良きかな。宝塚歌劇のトップコンビを結婚や夫婦にたとえることの是非、は私もフェミニストなので思うところはもちろんあります。でもこれはあくまでも概念としての婚姻、理想のカップル、コンビの在り方としてのたとえ、なんだと思うんですよね。それでも例のないめぐり合わせで新コンビを組むことになったこのふたりの船出に、ここまでお膳立てしてあげる優しさを、配慮を、私は寿ぎたいと思いました。しかしそれで言うともしや、ロベルトが愛せなかった親が決めた婚約者のことをまどかの暗喩だと思う人はまさかいまいな…?と思うけれどもしかしたらもしかするかも、なので、ここは景子先生がやりすぎたかもしれません。私はロベルトの萌え設定のひとつとしてとてもいいなと思いましたし、今の今までこう考えることはなかったのですが。
 私は、花組をさっさと観てきていて、華ちゃんもよかったけどれいまども観るから!と思い、まどかMSもタカホで観て成仏しておいて、ホントよかったです。私はまどかもかのちゃんも好きなのでどちらの新トップコンビも応援する気満々でしたが、このベタなお披露目っぷりはまだまどかを引きずっていたらつらかったろう…とは思ったので。
 でもこの作品は新トップコンビお披露目公演でもありますが、まずはかのちゃんのトップ娘役お披露目公演なんですよね。ニーナがロベルトに「あなたのことを考えない日はなかった」みたいなことを言う台詞があるのですが、娘役たるもの、いつか自分がトップ娘役になる日を考えないことはないだろうしそのときの相手役が誰だろうと考えないことはないだろう、とか考えちゃってもう(私だったら絶対に考える)、この台詞に被らせてうるうるしちゃいました。そしてそんな相手を「これからはずっと一緒だ」と言って抱きしめてくれるゆりかちゃんね…! もうもう、末永くお幸せに! かのちゃんが馴染んだらキキにスライド…とかちょっと考えてごめん、まだまだこのふたりでいろいろやってくれていいよだって素敵だしお似合いだしまだまだいろいろ引き出しありそうだもん!と泣きました。フィナーレではリフトまでしてくれて、ホントありがとうゆりかちゃん!ってどこ立ち位置かわかりませんが、またうるうるした私なのでした…
 ホント言えば、ずっとクリスマスカード以外音信不通なんて、もうお互い別に恋人がいるかもしれないし、この数年で人が変わったかもしれないのに、即結婚とか大丈夫?ロベルトはスパイはやめたのただの外交官になったの危ない真似はもうやめて?とかいろいろつっこみたくはなるんですけれど、そこはお話なのでラブラブハッピーエンドでいいのです。本当は真紅の薔薇50本とかの方が似合いそうだけれどあえての小さなエーデルワイスの花束、それもまたいい。はー、幸せでした。『シャーロック・ホームズ』もおもしろいといいなあ…!

 さて、キキちゃんはオーストリアの若手実業家でバレエ団のスポンサー、ヘルマン・クラウスナー(芹香斗亜)役。お話としては、「ウィリアム・テル」かも、と目されるひとりという役まわりです。これまたスーツ姿が素敵、紳士らしい物腰の柔らかさと胡散臭そうな素振りが絶妙。歌も上手い。でもなんか『SAPA』でもこんな役まわりだった気がする…うーん、2番手スターの宿命なのかなあ?
 ただ私、ラストは、描かれていないけどアルマ(遥羽らら)と結婚して楽しく優雅に暮らしてるんじゃないかしらん、とは想像したんですよね。アルマのラディック(紫藤りゅう。いい二役でした…!)への想いって恋だったのは本当に過去の話で、今も命とその才能を救いたくて動いていて、でもそれが達成したら意外と気がすんじゃって…って言い方はアレだけれど、ラディックの人となりだって会わなかった間に変わっているかもしれないし、やはりその間ずっと同志として活動しカモフラージュとして愛人関係を演じなんならやるこたやってたんであろう(だってヘルマンはアルマの部屋の壁の絵を知ってるんですよ…!)ヘルマンの優しさ、温かさ、支えや愛情に改めて気づいてやっと素直になって…って展開が、絶対にあったと信じているのです。
 そのららたんアルマ・ミュラー、ポーランドの若く裕福な未亡人役がまた素敵で! もう取っ替え引っ替え素敵お衣装で出てきてくれるし、その着こなしがいちいち美しくてうっとりでした。これまたスパイの正体かもと目されるひとりでもあり、その癖の強さ含めてららたんが的確に演じていて、ホントいい娘役さんになったよねえぇと感動しました。また景子先生は変なところに力の入った女性キャラクターを描いてくることが多いんだけれど、アルマはわりとフツーに2番手娘役格と言っていいキャラだったなと思いました。写真よりファッションより射撃より、そしてヴァイオリンよりもっと大事なのはヘルマンの愛…と気づく日がきっと訪れるはずですよ、そのスピンオフください。フィナーレも可愛かったー!

 ずんちゃんはバレエ団の振付家兼プリンシパルダンサーのユーリー・バシリエフ(桜木みなと)役。なんでもできるこの3番手スターには役不足かなとは思いましたが、黒のシャツとスラックス姿が本当にこういうバレエダンサーいる!っていう細さと男っぽさを兼ね備えて見せていてさすがでしたし、センター分けの髪型の色気ヤバいし、何よりよかったのがさらりとゲイ役だった点です。ここには特にゴタゴタ台詞を書かなかった景子先生、マジGJ! 下手したら気づかないままに見終える観客もいることでしょう。でもそれくらいでもいいんですよね、そんなにたいしたことじゃないんです。でも、あえてやりがちじゃん? 同性愛者だから迫害されて云々、とかさ。それをやらなかったのはすごいことですよ、それはものすごく評価したいよけーこたん! これまたスパイの正体かと目されるひとりであるので、ミステリーとしてのミスリードのためでもある電話のくだりの上手いこと! 定番酔っ払いソングでのラブラブっぷり、よかったなあぁ。そしてこちらもラストの「数年後」にちゃんとまだジョルジュ(泉堂成。成績上位なんだっけ、何かで名前見たけどその後役がつかないなーと思ってたんですよ…デカいとこ来ましたね、綺麗だしスタイルいいし、期待!)と一緒にいるのがいいな、とじんわりしてしまいました。対外的にはきっちりニーナのエスコートを務めている姿勢にも惚れます。フィナーレの歌手もさすがでした。

 専科から、柚長(もう長じゃないけど)がマーサ・ウェリントン子爵夫人(万里柚美)役でご出演。これまた景子先生にはちょっと珍しい視点のキャラクターで、なかなかに感心しました。しかし冒頭、彼女がいかにヒステリックでエキセントリックだからといって、ニーナやロベルトに「頭がおかしい」とか「いかれてる」とか言わせるのはNGだと思うよ景子先生…実際に彼女が認知症めいた病状を見せていること、それが戦争で息子を失ったショックによるものであることがのちに語られますし、それは同情的に描かれているので、そんな女性を安易に狂人扱いしたことになる主役ふたりの観客からの印象が悪くなっちゃうわけじゃないですか。確かに当時はこうした精神疾患みたいなものにあまり理解が進んでいなかったのだとしても、もっと違う言い回しをさせればいいだけのことな気がします。柚長はこういう身分も気位も高い妙齢女性はお手のもので、とても素敵でした。
 そしてその看護婦役のエヴァ(小春乃さよ)のさよちゃんがまた良くってさあぁ…! 路線じゃないしどちらかというと歌手起用だったけど実は芝居も上手いってずっと知ってた、でも別箱でも今までは全然使われてこなかった、それが何このステキ活躍…!と組ファンとしては感動しました。そして回想としてのエヴァの父親、ロベルトの元上司のネイサン役のしどりゅーがホント上手くてまたダンディで、層厚いよね宙組…!と頼もしさに震えました。ところでエヴァの初恋の相手はきっとロベルトだったことでしょう、罪な男よのぉ…
 すっしーさんはバレエ団の主宰、ロシアからの亡命貴族のミハイロフ侯爵(寿つかさ)役。登場時にバレエ・リュスの思い出をうっとり語るんですけれど、ああディアギレフの愛人だったんでしょ、って色気がヤバかった…なんか素敵柄のジャケットとか着ちゃってて。あと、全体の中での塩梅がよかったです。ときどき組長さんって大きい役をやり過ぎに思うときがあるので。
 まっぷーはホテルの支配人ペーター・シュミット(松風輝)。ロベルトを「坊ちゃん」と呼んじゃう優しい仕事人で、手堅い! リチャード・ホールデン(美月悠)のさおは、『アナスタシア』でもこんな役だったなというのもあるし、組ファンとしては真犯人の推理が立てやすいかなというのもあったんですけど、やはり上手いし手堅いし、いつの間にかこんなにいい髭おじさん役者に…!と感動しました。さらに髭のナチス高官ヴァルター・ケンベルク(春瀬央季)がかなこにぴったりでもう、このあたりの宙組の盤石さが愛しいです。
 まりなは最近役の幅を広げていたので、それからするとちょっと可愛いところに戻った感がありましたが、バレエ団の稽古ピアニストのアンリ・ブーシェ(七生眞希)もまたスパイの正体と目されるひとりであり、やはりその塩梅もとてもよかったです。私はラディックと彼がまとまるんだと思うなー…(笑)
 せとぅーの二役は鬘をもっとバリッと変えてもいいのでは?と思いましたがやはり上手い。わんたの二役もちょっとおもろかったけどまた上手いんだコレが!
 そしてもえこのエーリク・カウフマン(瑠風輝)は、わりと美味しい役だったかもしれませんよね。ロベルトと一緒にいるので出番も多いし。私は彼が「ウィリアム・テル」ってセンもあるんだろうしそうリードする演出もあったと思ったしそこもよかったと思いましたが、その実まだまだ青い青年で色恋のことも世の中のこともまだまだ見方が甘いのだ、ってオチが特によかったなと思いました。あと、エーリクってロベルトに憧れていたんだと思う。彼に無敵のスーパー・ヒーローでいてほしかったんだよね、だからニーナにグラグラしてるのが許せなかったんだよね。はーカワイイ。もえこももっと大きい役ができるスターさんになってきていますが、それでも絶妙にいい感じに演じていたと思います。
 りずちゃん、なっつ、澄風くんの上手さ、知ってる知ってた!ってなりました。そしてびっくりのシルヴィ(春乃さくら)、『天河』でトートツに歌手起用されたあとは特に何も…だった気がしましたがホント可愛いよね歌が上手いよね使っていこうよね!という発見の喜びがありました。『カサブランカ』のイルザの可愛いピンクのワンピースがまた似合う! さらにその相手役のオットーがなんと最下の聖叶亜くん、声が良くて台詞がしっかりしていて、いいじゃないですか! びっくり!! いっぷーといとゆが出来るのは宙組の常識です。
 エビ様以下のバレリーナ3人には、名前を呼ばせるとかキーカラーをつけるとかして識別させやすくしてほしかったです。ホテル客の女なんかをやっていて首が長くて美人で目を惹いたのは愛未サラちゃんでしたね、これも期待!

 別箱なのでまたちょっと別なのでしょうが、ラインナップの下手側が、かのちゃん、ずんちゃん、らら、もえこと並んで、そのあとはまっぷー以下学年順だったので、おおここまでスター枠!とちょっと感動しました。本公演ラインナップとか銀橋渡りとかパレードとか、
宙組ってホントしょっぱいんですよね…でも、気持ち良く拍手できて、良きパレードでした。梅田ではGW後半の上演ですね。まあ東京もだけれど大阪はもっと油断できない状況な気もするので、引き続きご安全に、とお祈りしています…そして今まで日比谷でそれどころじゃなかったろう雪担さんにも早くこの公演を観ていただきたいです。いただいたかのちゃんを大事にしてますからご安心を!と言いたい…
 バウホール、そして次の本公演も楽しみです。やはり二代続けて贔屓がいた組ですからやっぱり私にとってホームだよね、って改めて再確認したのと、ホントいつの間にか最も層が厚い組になってない…?という誇らしさとで、また観に行く回数を増やしてしまいそうで困っちゃいます。どうぞみなさまも、良きスズホテルのご滞在を…!


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