駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『El Japon/アクアヴィーテ!!』

2020年02月05日 | 観劇記/タイトルあ行
 宝塚大劇場、2019年11月21日13時、12月3日18時(新公)。
 東京宝塚劇場、2020年1月16日18時半、28日18時半。

 慶長18年(1613年)、仙台藩が派遣した慶長遣欧使節団の中に、夢想願流剣術の名手・蒲田治道(真風涼帆)の姿があった。使節団は約一年の航海を経て目的であるイスパニア(スペイン)に到着するが、国王フェリペ3世(星吹彩翔)との通商交渉が膠着し、郊外の修道院で無為な日々を過ごすことになる。ある夜、治道はコリオ・デル・リオの町で、追手から逃げてきた日本人少女に助けを求められるが…
 作・演出/大野拓史、作曲・編曲/玉麻尚一、高橋恵。

 私がマカロニ・ウェスタンなるものをよくわかっていないせいかもしれませんが、また私がことさらに大野先生のものすごくディープなファンというほどでもないけどどちらかといえばこだわりの強いちゃんとした演出家だとは評価してきたつもりだったせいかもしれませんが、なんかちょっと私には大野先生らしからぬ作品に思え、かつ出来も今ひとつに感じられて、ぐっと観劇数が少なくなった宙組公演でしたがしかし「なんだかなあ…」と毎回やや退屈して観てしまった演目となりました。
 キャラクターやドラマ、ストーリーといった骨格はいいと思うんですよね。スペインにハポン姓の人々が今もいるという事実や遣欧使節の史実から、想い人を不本意に失った武士がスペインに渡り、新婚の夫を失って間もない宿屋の女主人(ところで無粋なつっこみなのでしょうが、カタリナの夫が殺されたのが結婚式前夜だったという設定は必要なのでしょうか…その後ずっと喪服姿で過ごしているカタリナ、には『はいからさんが通る』で紅緒さんが白無垢になって髪を切ったときのようなロマンを感じないではないですが、要するにカタリナを処女だとしたかったということなら余計なお世話だから!という気がしなくもありませんでした)に出会う…というのは、いい。心の傷を抱えたふたりがそれを乗り越えて心を寄り添わせていくドラマが期待できますし、実際にちゃんとそう展開します。また、その宿屋に目をつけている悪役がいて…というのもわかりやすく、ヒロインの苦境にヒーローが手を差し伸べる流れなのだなと期待できるし、ちゃんとそう展開します。2番手演じる謎の男が、実は悪役の悪事を暴くために潜入していた国王の手の捜査官で…という仕掛け、オチもいい。
 …なんだけれど、まず悪役の悪事がわかりづらく感じました。もっとスッキリ単純に、カタリナに横恋慕していて宿屋の土地が金になるので欲しくて、でいいと思うんですけれど、なんか法律がどうのとかなんとか説明が入るじゃないですか。それが回りくどいと思うんですよね。門を開けておかなければならないとか軍隊に便宜を図らなくちゃいけないとか、だけど法律が守ってくれるとか、なんかちょっとまどろっこしくてうろんでした。守るったって軍隊が常駐しているわけではないし、実際にドン・フェルディナンド(英真なおき)の手下に簡単に踏み込まれていて誰も何も守ってくれていません。あとで訴え出たら保障が出るということなのかもしれませんが、そんなのなんにもならないし、何がどう誰に損だか得だかわかりづらいのです。こういうタイプのエンタメ作品の場合は、誰が何を狙っていて誰とどう利害が衝突していてどう争いになっているのか、ということは、もっとわかりやすくシンプルに設定した方がいいのです。
 主人公側と悪役側の争点にもうひとつ、日本人奴隷の少女たちの問題がありましたが、これもわかりづらかったと思いました。まず奴隷、というのがピンときづらいんだと思うんですよね。ひどい扱いを受けそうになっていたことが台詞では語られるのですが、実際の描写はないし、少女たちはドン・フェルディナンドの農場を脱出してカタリナの宿屋に匿われるとすぐ同じように働き出すので、そして働かなければ生きていけないのはあたりまえのことのように思えるので、そりゃこき使われすぎるのは問題だろうけれどほぼ同じことで、じゃあ何が問題だったの?という気がしてしまうのです。単純に、じゅっちゃん始め出番のない娘役たちに役を振るためだけのネタだったかなという気がしちゃいましたし、クライマックスにはアレハンドロの指令で動いているので仕事はしているんだけれど、やはりちょっと中途半端な存在、扱いのモチーフになっちゃっていた気がしました。あれじゃきゃのんもりおくんも働きようがなくてもったいなかったし、宿屋の場面はいつも間が抜けていて私は退屈しました…
 あとは、プログラムによれば大野先生の着想はそもそもここから始まったものなのかもしれませんが、治道さんたちの剣の流派の秘技奥義云々ね。ぶっちゃけそーいうの女子興味ないから!と言いたくなってしまうのです。またすぐ主語を大きくしてすみません、しかし一体に男性がロマンを感じがちな一方、多くの女性がノー興味の分野のひとつだと私は思う。剣でも銃でもいいけれど、所詮ただの武器だし凶器だし暴力の道具にすぎません。守るための剣とかなんとかちゃんちゃらおかしいし、恐れを捨てれば勝てるとかなんとかいうのも嘘くさくて、とにかく聞いていて私は気恥ずかしかったです。ああ恥ずかしい、早く終わんないかなこのターン…と天を仰いでしまう。その尺の分、もっと作れるエピソードやキャラクターもあったろう、と思うと残念なのでした。
 そのあたりがもうちょっとちゃんとしていれば、オチが謎の男(笑)の大活躍によるちゃんちゃん、でも全然いいし、治道がカタリナの夫の名義でこの地で生きていけばいいじゃん!ってのもイージーだなんて全然思いません。てかおたおたする治道と、さっさと彼の手を取ってみんなから見えないところに行き、ぱっと頬にキスするカタリナ、ってのがいかにもでたまりませんよね。で、ちゃんと銀橋センターでちゃんとキスして終わる。大団円ハッピーエンド、大満足です。まかまどにも合っているカップルの形だと思うし、藤九郎(和希そら)の不法滞在についてはノー・フォローなのかよ!とか、はる(天彩峰里)たちに帰国意志はないの?とかのスルーにも喜んで目をつぶれる、いいラストシーンでした。だからこそ、中盤が、中身が、惜しかったのです。キャラと設定と構造とオチがいいのに、中身が伴っていない…そこにがっかりでした。
 お芝居として最もよかったのは、タブラオで治道とカタリナが踊るくだりでした。パメラ(花宮沙羅)がごく短い出番ながらすごく味があってよかったというのもあるし、主役ふたりが言葉少ないながらも心通わせていく様を雄弁に演じていて、出色でした。踊るうちに気分が盛り上がっちゃって…なんてベタの局地なんだけれど、カタリナが教え治道が合わせ、やがて治道がリードしてカタリナがすっかり楽しくなり、ふたりして見つめ合い、今にも唇が合いそうになり…ときめきました。その後、治道につい抱き寄っちゃうカタリナもいいし、ためらいながらも受け止め、カタリナに優しく腕を回す治道もいい。心情がよく伝わる、とても素敵な場面でした。物語って、ストーリーって、結局こういう場面のためにあるのです。きゅんきゅんしました。こういうことがちゃんとできる演出家なのになあ、おかしいなあ。やはり大野先生は前回のショーで宙組でやりたいことはひととおりやっちゃったのでしょう、それがよくなかったんでしょうね…ホント人材不足がすぎますよ劇団?

 というわけで、ゆりかちゃんはダニーとかよりこういうタイプのキャラをやっているときの方が私は好きなので、ニマニマ楽しく観ました。こういうビジュアルも映えるので素敵でした。
 まどかにゃんも可愛いだけより強い女性の方が似合うタイプだと思うので、輝いていてニマニマしました。喪服を脱いだときの水色のドレスは若々しくて可憐で素敵だったなー。夫の死で凝り固まっていたのがほぐれて年相応になった色、なんですよね。いいセンスです大野先生!
 キキちゃんはいろいろやりづらかったろうと思うんだけれど、ちゃんと成立させるのがさすがですよねー。ずんちゃんはこじらせ男子一直線でちょっとおもしろかったけれど、いい役と言えば言えるかと(笑)。そらは役不足だったかもしれませんが、まあきっちり務めていましたよね。
 モンチやゆいちぃにはもう少し仕事させてあげたかったけれどなー。せとぅーとあーちゃんの歌はさすがです、エビちゃんには踊らせるだけというのもすごい。りんきら、まっぷー、さお、かなこもホントはもっと仕事できるんですけど…(><)ゆりかちゃんの先輩役をがんばったもえこには拍手。
 らら、じゅっちゃん、夢白ちゃんたちは仕事しようがなくてかわいそうすぎました、謝ってくれ劇団。まりながホント垢抜けてきましたよねー。あとほまちゃん、りっつ、わんたはホントいい仕事しますよね…
 大劇場新公も観ましたが、初主演のナニーロがなかなかの舞台度胸で、そしてとにかく凜々しく美しく出られていたのが大健闘だと思いました。感心しました。
 沙羅ちゃんカタリナもとてもよかったです。声がいいんだよね、まろやかで艶やかで。
 キョロちゃんはスター・キキちゃんのパワー頼みの役では大変そうでしたが、タッパもあるしいい存在感を出せていたと思いました。
 まなちゃん伊達政宗もがんばっていたなあ、それを言うならなつくん支倉常長もがんばっていたなあ。あられちゃんもなんでも上手いよね。りっつもホントさすがでした。わんたもさすが専科でした(オイ)。
 こってぃは難しい役だぞ?と心配していましたが意外や楽しそうで、一皮剥けた印象でした。きよちゃんは手堅い。藤乃の山吹ひばりちゃんも綺麗でしたね。あと国王夫妻が琥南くん夢白ちゃんで美しすぎて目がつぶれそうでした…
 道化は全ツで歌がない馬だった真白くんと朝木ちゃんで(誤認識でした、YAMATOだったのはナニーロくんでした)、もちろんしっかり歌えていてよかったです。エビちゃんのところはじゅっちゃん、もうちょっと何かさせてあげたいよね…そしてひろこにはいつもっといい役がつくの…?(ToT)


 ショー・トゥー・クールは作・演出/藤井大介。とてもよかったと思いました!
 ダイスケショーとしては定番な出来かもしれませんが、宙組×ダイスケに心底飽きた(全ツ再演ショーまでナイガイになったときには本当に絶望しましたよ…)と思っている身には意外にもおもしろく目新しく、「やればできるじゃんダイスケ!」と感激したのでした。特に「中村B先生に何か教えを請うたのかダイスケ!?」と驚愕するくらいの銀橋使いに大感動しました。他の組なら普通かもしれませんが、宙組では普通ではないんです! こんなにたくさんの生徒がこんなに銀橋に出させてもらっているのを、我々組ファンはもう久しく観ていませんでした。このことだけでも高く評価したいです。
 幕開きはじゅんこさんから。というか芝居に引き続き八面六臂の大活躍で、ありがたすぎますね。そして周りにエイトモルトとして新進男役を並べる…くらいまではまあ今まででもできてきたと思うのですが、まずその子たちをちゃんと銀橋に出したのが偉い! 渡ったのは半分だったけれどそれでも偉い!! 私はここでもう「おおおおぉ!?」と感動してしまいましたよ…ちなみに私はキョロちゃんにはあまり興味がなくてなつ派で、ナニーロも識別できるようになってきたのでそのあたりを主に愛でていました。
 そして椅子に気だるげに腰掛けたゆりかちゃんのセリ上がり…いいね! バーカウンターのピンスポの下にはにはこれでご卒業のゆいちぃと愛咲まりーあのカップルが…いいねいいね!! そしてそのカウンターからざかざか出てきてフロアに降りていく男役たち、娘役たち…いいねいいねいいね!!!
 全体に金、黒、茶などのシックでスモーキーな色合いのお衣装なのもいい。初出は『ヒートウェーブ』なんでしたっけ? 私なんかだと『ル・ポァゾン』の再演?なんかで見ているあの有名な振りもいい。全員で揃うと数で圧する大迫力なのもいい。
 けれどプロローグで一番褒めたいのは、総踊りと銀橋出と「アクアヴィーテ!」の掛け声でいったんキメ、のあとのワンモアタイムをまどかに任せたことですよ! 銀橋にひとり残ったまどかがイキイキ歌うののカッコいいこと!! 本舞台に残っているのが娘役お姉さんチーム(まあ下ふたりのさくらはともかく)と新進男役エイトモルトのカップル、というのもいいし、そのうちの娘役さんたちだけが銀橋にズラリ出てくる構成なのも素晴らしい!!! そうよそうなのよこういうのが宙組でも観たかったのよ!
 次はキキちゃんセンターのビースト場面。ゆいちぃのダルマとトウシューズ姿が素晴らしいのは世界の常識ですが、ここでも娘役ちゃんたちが髪型に凝っていて目が足りないセクシー楽しい幸せ! そらとせとぅーがガンガン歌うのも気持ちいいです。
 続いてスモーキーナイト、チンピラカジュアル(笑)のゆりかちゃん。両脇にあーちゃんこってぃというのもなかなかなくて、いい組み合わせだと思いました。そしてまどかのミニスカートにガーターベルト、大正解! どのカップルも観たくて目が足りない!!
 そこから中詰め、とっぱしはずんちゃんを囲んでかなことまりなの黒ダルマ。女装メンツが固定なのはダイスケの悪い癖ですが、ここは目をつぶりましょう。ウィッチになったエイトモルトも可愛いぞ!
 そしてジャズに乗って上級生も銀橋を渡る娘役も銀橋を渡る新進スターも路線スターももちろん渡る、と夢のような大盤振る舞い…! あ、「ウィスキーがお好きでしょ」は笑いましたごちそうさまでした。そらのファーストダイナマイトももちろん素晴らしかったですごちそうさまでした。
 そのそらがスッキリ男役に戻って白のベストとパンツで、これでご卒業のモンチとゆみちゃんがガンガン歌う「ウィスキーボンボン」に乗って若手男役がガンガン踊って、これまた楽しい一場面。印象としてはここが中詰めのオマケかな。
 そしてヤンさん振付のタンゴ、スーツのゆりかちゃんの受動喫煙災難場面です(笑)。贔屓が卒業していてよかったよ、いたらきっと出ていて、そうしたら全体を観ることなど一生叶わなかったことでしょう…あきもの女装とダンスも素敵でしたし、ゆりかちゃんは決してダンサーではないけれど、ひとり残って踊るくだりもとてもよかったです。絶妙なセリ下がりといい、こういうのが似合うんだよねえ…!
 次がちょっと和風のお衣装の、麦からお酒になるまでをみんなで踊る場面。神々しくて良き。そのあとはもうフィナーレのとっぱしで、もえこと夢白ちゃんの銀橋渡りからロケットへ。しかし夢白ちゃんはここくらいにしておいて、キキと組むのはららやじゅっちゃんと分け合った方がよかったと思うぞ…?
 大階段に出て歌うきゃのんとせとぅーがマイクを持っているのがいいし、わりとガツガツ踊るブラックローズの男役とピンクローズの娘役もいい。2番手の歌でトップコンビがデュエットダンスを踊るのもいい。エトワールはさよちゃん、ダブルトリオの男役がナニーロとなつで私ウハウハ。楽しくきらびやかで贅沢なショーでした…!


 次の別箱はどちらもまた何やらおもしろそうですね。期待しています!






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2 コメント

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Unknown (通りすがり)
2020-02-08 16:40:42
全ツナイスガイの馬ことYAMATOは真白くんではなくてナニーロでしたよ
ご指摘ありがとうございました! (通りすがりさんへ)
2020-02-08 23:09:15
失礼いたしました、本文修正というか追記いたしました。

●駒子●

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