駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『カサブランカ』その4(完)

2010年03月02日 | 観劇記/タイトルか行
 イルザが誠実で真剣だからこそ、ここでそのままリックを撃ってしまいそうに見えた、という観客は多いのではないでしょうか。
 というか、イルザの真意がよくわからなかった、という人は多いのでは?
 少なくとも私は、イルザはかつてリックを愛していたことは確かだとしても、ラズロとの関係は最初は尊敬から始まったものだとしても、今は情もわいているし、今イルザが愛しているのはラズロなのだ…と思っていたのです。
 だからイルザが
「あなたを愛していた…そして、今でも…(と脚本はなっているけど、こんなタメがあったことはなかったが…)」
 と言い出したときに仰天したのです。

 そもそもここでのリックはおちつきすぎているのではないでしょうか。イルザが自分を撃つはずないと思っているように見えます。
 でも、彼にはもっと動揺させた方がいいと思うんですよね。私なら、
「君はラズロのためならなんだってできるんだな! それなら俺を撃て、その方が俺も楽になる」
 として、もっと悲痛に叫ばせる。もうホント死にたいよ、どうなってもいいよ、おまえがそんなんだったら俺の人生になんかなんの意味もないよ…そうやさぐれて、それをぶつけさせたい。それが響くからこそ、それこそ自分でも今は自分はラズロを愛しているんだと思いこんでいたイルザの心を揺さぶり、本当の愛に気づかせるのでは?

 ちなみにここの
「あなたがパリを去った後、どんな思いをしたか…」
 の主語は誰なの? この曖昧さも、ここの理屈をわかりにくくさせている原因だと思うのですが…
 「あなたがどんなつらい思いをしたかと思うと、私もつらくて申し訳なくて」という意味なのか? でもそれは余計なお世話って感じもする。
 「私がどんなつらい思いをしたと思うの?」ってこと? それならまだわかるけれど、ここに言葉をもっと尽くしてほしいと思うのですよね…

 ともあれイルザの愛情を確信したリックは、彼女を抱き寄せるのでした。
 ここでタバコを持ったままの手でイルザを抱き寄せるのが、危なくて冷や冷やするんですけれどね…どうせ明かりと煙だけの電気煙草ですよね? 床に投げ捨ててから抱き寄せにいってもいいと思うんだけれど。暗転の間に拾えばいいんだし…

 で、集会のシーンを挟んでラブシーンは続きます。ヒドい演出だ(^^;)。
 映画でも、コトがあったかどうかはなんともいえない感じのつなぎになっていますが、こちらでも舞台が再びカフェに戻ると、リックはスーツの上着を脱いでいて、ワイシャツの第一ボタンは開いている(^^)。でもそれだけと言えばそれだけです。ああ、そそられるなー。
 「世界の果てまでも」のあと、ただ酒を継ぐ後ろ姿がとてもとても素敵でほとんど卑怯。
 ただここも、
「これからどうする?」
 なんてきちんとした現実的な台詞、こういうときの男は意外にしないんじゃないかなーとか思うとやや違和感を感じるんですよね…

 そのあとラズロとカール(寿つかさ)が警察から逃れて店に駆け込んでくるわけですが、リックが
「どうやら真夜中の運動会の帰りらしいな」
 と冷やかすのには、「あんた(たち)こそ!」とつっこみたくなるワタシ…
 そして二階でイルザを見つけるカールはちょっと驚きすぎなんじゃないかといつも思う。リックがイルザをゴミ扱いで呼ぶのもちょっと嫌。
「それほどまでにイルザを好きか?」
 も、ちょっと軽く聞こえるんだよなー。「愛しているのか?」じゃダメなのかな?

 警察に連行されるとき、乱暴に手錠をかけるのに抗議する意味でも、手首の痛みに顔をしかめてみせるラズロが素敵。
 のちにルノーが踏み込むときもそうですが、「手を挙げろ」と言われて腰くらいの高さまでしか上げないリックが素敵。

 「本当の俺」の入り方、素敵です。上着を取ってつかつかと舞台前面に歩き出して見得を切って、音楽が入る。よっ、千両役者、と言いたいです。

 フェラーリとの店の売買、脚本にはないですが
「手打ちでいいさ」
 の前に入れる「あぁーあ」ってのが好き。
 ラズロが金を出そうとするのに
「取っておいた方がいい」
 と言うときにもアタマに「あぁーあ」と入るのも好き。

 踏み込むルノーに
「ドイツ特使殺害容疑だ」
 と言わせるのはよくないと思います。これまで「ドイツの外交官」としか呼ばれていないのだし、「特使」というのは発音しづらい音なので、気に障るのです。

 第17場、飛行場。
「結論は、君がヴィクターとあの飛行機に乗る。それがベストだ」
 いつのまにファースト・ネームで呼ぶ仲に!と思ってしまうので、「ラズロ」でいいんじゃないでしょうかね…呼び方フェチなもんで、イルザが他人行儀にラズロを名字で呼んだり、いろいろと気にかかる点が多いのですよ…

「君に一つ聞いてほしいことがある」
 からのくだりですが、本当にイルザの立場をおもんぱかって説明しているようでもあるし、「ホントは俺のことが好きなんだもんね、俺たち一瞬元サヤに収まっちゃったんだもんね」と言いたげにも聞こえると思います。だってどんなに説明されたって、ラズロからしたらエクスキューズにしか聞こえないと思うんですよね。でも、実際にイルザをつれていけるのは自分だと確定したのだから、そんな話くらいおとなしく聞いてやるよ、という感じのラズロが、本当に大人物だなあと思うのですよ。私はイヤだけどね、そんな男(^^;)。女々しすぎるくらいのリックの方が断然好きですけれどネ。

 ルノーの
「君に通行証をやろう」
 というのは、「ヴィザを出してやろう」とした方がいいですけどね。通行証という言葉はドイツの外交官が持っていたもの、ウガーテが売ろうとしていた物をのみ指す言葉としておいた方がいいからです。
「経費だな、俺たちの。これからの友情のな」
 と言ってリックの背中を叩くルノーの手が、上手からだとリックのお尻にでもやっていそうで、ドキドキしていた私を誰か止めてください。

 「カサブランカの風」B版とも言える歌を歌って、上手から漂い出すスモークに巻かれて舞台を閉めるリックのすばらしさはもう言筆舌に尽くしがたい。
 帽子を取り、顔を見せ、「熱い思いこみあげる」胸に帽子を当て、また帽子をかぶって、最後に帽子の縁をそっと人差し指でなぞる、そのただならぬ色気!
 立てたコートの襟の絶妙さ。広い肩幅、細い腰、長い足、立ち去る後ろ姿の美しさ!

 フィナーレがまたすばらしいんですよねー。
 みー、だい、カチャのトリオによる「As Time Goes By」というベタなところから始まって、ロケットへ。
 おそらく結乃かなりちゃんじゃないかと思うのですが、途中までずっと二列目センターにいる娘役さんの笑顔の作り方が好みで、惚れました(^^)。
 まゆがメインの「モロッコの男」の場面では、若手男役スター候補性たちがバリバリとがんばっています。
 背後には大階段がセットされ、娘役たちがそれぞれ決めポーズを作りながら降りてきている。
 そして、下手から斜めに降りてきて、センターに陣取る「カフェの男S」。シルエットに光が当たり、歌い出す。た・ま・り・ま・せ・ん!!
 アリス、えつと絡んだあとの、おそらく舞姫あゆみちゃんが心臓のあたりに指し伸ばしてくる手をふいっと取っていなす感じがたまらなく素敵。
 ステージに出てきてふわっと笑うところが本当に素敵。
 たいしたダンスはしていないんだけど(爆)、とにかく粋なのが本当に素敵。
 やがて現れる白タキシードのリック候補性たちを迎え入れ、センターで踊る赤いベルベットのタキシード姿が素敵。思えば路線にバリバリのダンサーがいないので、ユウヒの粗が目立たなくて助かるわー。
 ユウヒがはけてからは、まさこがとてもくどく濃く踊り、みっちゃんが端正に美しく踊っているのがとても好対照で見ていて楽しいです。

 そしてデュエットダンス。
 シルエットになって大階段をまっすぐゆっくり降りてくる「デュエットの男」が素敵。
 紫とも葡萄茶ともつかないお衣装の色目が素敵。
 舞台稽古で期せずして拍手がわいたという、恋を語り合っているかのような、愛にあふれたダンスがすばらしい。
 リフトはいつの間にか必須となってしまったようですが、腰に負担がかかりそうでドキドキです。でもとても形が美しい。
 銀橋に出てきてのポーズも素敵。

 エトワールの七瀬りりこもすばらしい。DVDではヨレたところが収録されてしまって残念。また、何度か観た中ではもちろん声がかすれたときもあってドキドキしましたが、「ゆーう、くー」が上手く延びると本当に聴き惚れました。

 ああ、ベタ誉めすぎですね。すみません…

 さて最後に、DVDについて。
 私は映像では舞台は再現できないと考えていて、今までDVDを買ったりTV中継を観たりするのが好きではありませんでした。もっぱら実況CDを買って聴き、頭の中で舞台を思い起こし、再現していました。
 『太王四神記』が好きすぎてついに初めてDVDを買ってしまったわけですが(実はその前にも、『メランコリック・ジゴロ』復刻版が出たときには飛びついて買っちゃいましたけれどネ!)、それからは「ま、これはこれで」といろいろと買い集めるようになってしまい…
 けれど、これだけ通った舞台のDVDを観ると、やはり物足りないわけです。
 たとえば、舞台の照明は撮影するにはかなり暗い。舞台奥に映るカサブランカの街並みと大西洋、パリの夜景、ナチスの影、南駅などなど、みんなほとんど拾えていないと言っていい。
 それから収録が初日から二週間後くらいのことなので、特にフィナーレのあっさりさ加減には仰天しました。このあとこなれてもっとぐっとくどく濃く素敵になっていたのに~と歯噛みしたいくらいです。
 それに演技にはいろいろなバージョンができていき、当然ですがそのすべてを収録することは不可能です。
 要するに、舞台はナマモノで、閉幕してしまったらもう完全に再現することは不可能で、ただもう私たちの心の中に刻みつけるしかないわけです。
 せつないなあ、はかないなあ。だからこそ、ちょっとでもたくさん観ておこう、とファンは通ってしまうものなのかもしれません。
 舞台って本当に魔物だわ。

 そんなあたりまえのことを、今回あらためて考えさせられました。
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