駒子の備忘録

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杉山俊彦『競馬の終わり』(集英社文庫)

2017年12月04日 | 乱読記/書名か行
 22世紀。ロシアの占領下にある近未来の日本では競走馬のサイボーグ化が決定。ロシア高官イリッチは生身の馬体で行われる最後のダービーを勝つために、零細牧場主・笹田の最高傑作「ポグロム」を購入する。立ちはだかるのは最大手牧場が禁断の交配により生み出した「エピメテウス」。勝つのは悪魔的な強さか、病的な速さか。第10回日本SF新人賞受賞作。時代が埋もれることを許さなかった問題作。

 著者はこれがデビュー作だったようで、筆致はちょっと素人っぽいです。視点がころころ変わるというか、神の視点にもなっていないので、どの人物の内面にも入ってしまうようでかえって読み手の視点が混乱するし、描写が足りないので個々のキャラクターの個性もつかみきれずどこにも感情移入しづらいのです。
 ただ設定がとにかくスリリングなので、「それで結局何を描きたい話なの? 何がどうなる話なの?」という興味だけでけっこう読まされてしまいます。少なくとも私はそれで最後まで辛抱できました。
 ただ、それでこのラストかい、というのはあったかな…というかサラブレッドっていくらなんでもこんなに頻繁には骨折しないと思うしな…
 まあでもそういうのもひっくるめて、ドン詰まっているこの世界そのものを描きたかったのでしょう。競馬小説というよりはサイバーパンク小説なのかな、それはそれでちょっと物足りないけれど。もう少しキャラを立てて、人生哲学なんかも描いちゃうような文芸作品に仕立ててくれた方が私は好みなんですけれど(そして一般的にももっとウケが良くなると思うけれど)、そうはしたくなかったんでしょうしね。だったらもうちょっとハードボイルドっぽくしてもよかったかも…
 でも解説の北上次郎がこういう形で興奮する気持ちもわかります。おもしろい一冊でした。

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