駒子の備忘録

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宮部みゆき『過ぎ去りし王国の城』(角川書店)

2015年06月30日 | 乱読記/書名さ行
 早々に進学先も決まった中学三年の二月、ひょんなことからヨーロッパの古城のデッサンを拾った尾垣真は、やがて絵の中にアバター(分身)を描きこむことで自分もその世界に入りこめることを突き止める。友達の少ない真は、同じくハブられ女子で美術部員の珠美にアバターを依頼するが…

 私は宮部みゆきの現代ものや時代ものは大好きでほぼ欠かさず読んでいて、逆にファンタジーやジュヴナイルっぽいものはあまり評価していずほとんど読んでいません。これは…微妙だったかな。雑誌に連載されていたもののようですが、どういう立ち位置の作品だったのでしょう? 単行本化に際しあまり加筆修正されていなさそうというか、編集されていなさそうというか、コントロールされている感じがあまりしませんでした。つまり、せっかくのアイディアとかギミックとかがありながら、とても中途半端に展開されてしぼんで終わってしまったお話に見えました。残念。
 ことに前半は、どんなお話になるんだろう、ととてもスリリングに、楽しく読んだのだけれどなあ…
 思うに、何故真のようなキャラクターを主人公に据えたのでしょうか。それが失敗の原因だったのではないでしょうか。何故珠美にしなかったのでしょうか。
 ふたりとも、いわゆるスクールカーストの上位にいるタイプではありません。しかし真は平凡な8割のボリュームゾーンの中の、中の下くらいにいるような、本当に平凡で凡庸な少年にすぎません。読者の大半はこの層の人間だからこういう主人公にした方が読者の感情移入が誘える、と計算したのでしょうか? でもそれって正しい計算かな?
 珠美はスクールカーストの最下層にいるキャラクターでしょう。ただし本人はそれを真の意味ではなんとも思っていない人間です。自分の技能、自分の特技、自分の世界をすでに持っている、ほぼ自立した少女です。こういうキャラクターを主人公にした方が、読者の憧れや好感を誘導できるのではないでしょうか?
 少なくともそれが、最近までの創作のセオリーだったと思うのだけれどな…超最近ではそれではダメだということなのかな…
 でも私は後半の展開にいたって真の言動にいちいち本当にイライラさせられました。というか真って事態の進展に対して完全にアウトサイダーにさせられちゃってるじゃないですか。凡人だから、凡庸で了見が狭く想像力がない人間だと珠美やパクさんから思われて遠ざけられているからです。こんな主人公ってアリですか? ドラマに全然関与しない、できない主人公なんてダメでしょう。
 真はあまりに平凡すぎて、この物語の最初と最後で何も変わっていません。小さな幸せを発見し感謝するようになった、ということもないし、何かに能動的になってたり勇気を出せるようになったということもない。伊音の運命を変えることになったにもかかわらず。世界を変えてしまったのかもしれないにもかかわらず。
 こんな変化のない、無感動な主人公なんて、イヤだなあ、私は嫌いだなあ。
 もっといいキャラクターの主人公で、もっと心揺さぶられながらこのお話を追いたかったなあ。もったいないなあ。これでよかったと思ってるのかなあ。残念だなあ。せっかくおもしろいのになあ…
 そんなことを感じながらの、不思議な読書となりました。




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