駒子の備忘録

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宝塚歌劇雪組『ドン・カルロス/Shining Rhythm!』

2012年05月23日 | 観劇記/タイトルた行
 東京宝塚劇場、2012年5月18日マチネ、22日ソワレ。

 時は16世紀後半、スペインの王子ドン・カルロス(音月桂)は多くの臣下や民衆たちから慕われ、王国の後継者としての期待を一身に受けていた。ある日ね森のはずれで物思いにふける彼の前に、王妃イサベル(沙月愛奈)が女官レオノール(舞羽美海)を伴って現れる。イサベルはかつて彼の婚約者だったが、国同士の取り決めが代わり、彼の父である国王フェリペ2世(未涼亜希)の後妻となったのだった…
 脚本・演出/木村信司、作曲・編曲/長谷川雄大、手島恭子。シラー作『スペインの太子 ドン・カルロス』を原作としたグランド・ロマンス。

 ヴェルディの『ドン・カルロス』はDVDで持っているのですが(1996年パリ・シャトレ座、フランス語5幕版)、あれはイサベル(エリザベート・ド・ヴァロワ)がヒロインですよね。王妃とは主従関係にあるエボリ公女がメゾで、フィリップ王の愛人ながらカルロスに横恋慕している…となっていたような…
 まあ、史実との兼ね合いもあり、どこをどう切り出して、かつ宝塚歌劇らしいロマンスに仕立て上げていくか、興味津々だったのですが、大劇場公演時からショーとセットで評判が良く、楽しみにしていました。
 結果的には、とても楽しく観ました。私は雪組に一番疎いのですが、だからこそ誰が好みとか苦手とかがなくてフラットに無責任に観られて(^^;)、ストレスがなかったせいもあるかもしれません。
 でも良くできていましたよね、ビギナーを誘うにもいい公演だったと思いますし、ファンがリピートするのも楽しい公演なのではないでしょうか。私ももう一回くらい行きたかったかな。

 私が宝塚歌劇らしい、と最も思う要素がすべて入ったお芝居だったかなーと思いました。もちろん宝塚ってとてもカバー範囲が広いし、好みだけで言ったらもっと違ったものも求めているのですが、「らしい」と言ったらこういうものかな、と。
 すなわちコスチューム・プレイ、グランド・ロマン、愛と嫉妬と友情と家族と責務と政治と世界と理想と希望、といったモチーフ、です。
 音楽的には『バラの国の王子』とかほど退屈しませんでしたが、やっぱりもうちょっとメリハリのある楽曲が作れないものかねえ、とは音楽に疎い私でも思いますし、仮面舞踏会の場面があるくらいでダンスナンバーに見るべきものはないからミュージカルとしてはまったく貧相です。
 でもとにかくロマンが、ロマンスがあるから、宝塚歌劇はそれでいいのだと私は思う。というかまずはそれがないことには始まらないのだ、ということです。
 現代劇とかもっと泥臭い愛憎劇だってもちろん好きだけれど、外部で観られるものは外部で観ればいいので、たとえ歌入り絵芝居っぽく見えたとしても今回の観劇は私は楽しかったし、満足でした。
 ハンドダンスもおもしろかった。ちょっと長いかな、とかは思いましたが、フランクな王子と彼を慕う民衆、というものを表現する手段としてもとても適格だったと思いました。

 というワケでタイトル・ロールのキムですが、当然ですがよかったです。人間味あふれる正統派の王子様をきっちり演じてくれて揺るがない、素晴らしい。
 生まれてすぐに母親を亡くし、父親からは遠ざけられて、ちょっとさびしんぼうの、でもとても明るくまっすぐで温かい人柄の王子様。
 伯母フアナ(涼花リサ)のもとで一緒に養育され、今は王妃の女官となっているレオノールを幼い日からずっと愛しているけれど、自分が王国の後継者であり、国のためにいずれ政略結婚をしなければならない義務もきちんとわきまえていて、恋心を簡単に表に出したりしない、この世では結ばれないのだとわきまえている思慮深さもちゃんとある青年です。
 狩りの一行から離れてちょっとアンニュイになっての登場は「ロミオ?」って感じでしたが、物語にありがちなああいうカーッとなる若者ではなくて、自分にまつわるいろいろなことをちゃんとわきまえているキャラクターなことが、私はとても好感を持ちました。キムはそれをきっちり見せてくれていました。歌もいいし。
 ツイッターで見ていた「カルリートだよ」も、わかっていてもきゅんとしました。

 王子の幼なじみで、今は王妃に使えているレオノールのミミちゃんは、お衣装がいつも女官姿であまり派手でないことが残念でしたが、演技がぐっと良くなってきた気がしました。
 彼女ももちろん王子を愛している。望めば愛人の座に収まることは簡単だったことでしょう。でもそんなことも望まない。自分の思いは胸にしまって、ただひたすら王妃のために働いている女性。賢くて、健気で、いじらしい。素晴らしかったです。
 石垣をよじ登ってまで獄中の王子を訪ねちゃう勇気、元気もいい。すべて黙って引き受けて死ぬことで事を荒立てず決着をつけようとする王子に、
「男の人は勝手です!」「生きて! 死なないで!!」
 と言い募れる強さも素晴らしい。てかキムシンがこんな台詞を書くなんて…! イヤこの人反戦思想はけっこうあるけどね、でも女性側からのこういう視点を導入できるとは正直驚きでした。
 ミミちゃんは今やお姫様役ももちろん上手くこなすでしょうがね若くて現代的なんだし、普通の女の子をやると一番輝くのかもしれません。キムに添い遂げたりしないでね、ぜひ残ってね!

 お話の二番手格は明らかにまっつだよね。というか本当はフェリペ2世を主人公にしたお話をやりたかったのかもしれないね。
 だとしたらこれを父と息子の話ではなく兄王と弟王子の話にして、いつかの時代のどこかの国の架空の物語にして、トップ娘役が演じる王妃をヒロインに、トップスターと二番手男役でやればよかったんじゃないのかなあ、と思わなくはないです。チギがキムの父親ってのは無理があるからこういう配役になったんだろうし、お話上の役の比重も考えられていますが、いかにもつらい…
 さてしかしまっつはいいのですよ。第一声からどういう王様かとてもよくわかる。
 つまるところこれは「家族の会話は家でやれ」という話なのですが、そうはいかないのが王室というところなのでしょうし、ちょっとした家族喧嘩が国際紛争につながりかねないところがドラマチックでもありおもしろいところでもあるわけです。
 王は王子の出産で命を落とした最初の妻を愛していた。気を取り直して再婚したものの、これも病気か何かで死に別れたのでしょうか? それで彼はすっかり臆病になってしまったのですね。愛してもいずれ失われる、そうすれば傷つく。だから三番目の妻は愛さないようにした…
 三番目の王妃イサベルはフランス王家の出身で、政略的に王子カルロスの婚約者とされていました。歳もひとつ違いで似合いだったことでしょう。でも状況が変わり、イサベルはフェリペと結婚した。娘ふたりにも恵まれ、表面上はうまくやっている。でもそれはあくまで表面上にすぎないことだったのです…
 傷つきたくないから愛さない、でも完全に忘れ去ったり手放したりできない、冷酷になりきれない気弱な王様…情けないギリギリの四十男を好演するまっつ、萌えずにおられましょうか!!
 いやあよかった。

 王妃イサベルは…でも、よくわからなかった…申し訳ないけれどあゆみちゃんには役が大きすぎたのではあるまいか…
 設定や立場はあたりまえですがよくわかるのです。親子ほど歳の離れた男に国の貯めに嫁がされ、でも懸命に仕えて愛して、なのに相手は亡き妻との思い出に浸ってばかりで自分をきちんと見てくれない…
 それが王子に相談しようとするわけですが、そんな立場や状況の彼女が、どんな人間なのか、どういう性格のキャラクターとして演じられているのかが、私には見えなかったのです。
 どうも王子との会話には実際にはなかった気がするのですが、異端審問では自殺を考えたことも語っていますよね。だったらそれくらい、つまり「愛されないなら、必要とされないなら、こんな私なんかいらない!」とか言っちゃえるような情熱的な女、とかの強い性格付けをしてしまった方があゆみちゃんには演じやすかったかもしれませんね。
 あるいはもっと、言いたいことも言えなくてなんでもかんでも我慢しちゃうような、弱々しい女にするとか、とにかくなんかもっと特徴的な色付けが欲しかったのです。
 それがあって彼女が魅力的に見えて共感しやすくなったほうが、ドラマの求心力が増しますよね…ううむ、残念。

 それでいうとポーザ侯爵(早霧せいな)もキャラクターが見えなかったんですよね、私には。
 王子の親友で、貴婦人たちや女官たちからは「気難しい方」と評されてはいます。でもたとえばまっつの第一声が、ちゃんと国王の峻厳で冷酷そうな性格を漂わせていたのと違って、チギの「午後からお見かけしていません」(だっけ?)の台詞にはそれ以外のなんの情報も含まれていませんでした。
 王子が狩りの一行からはぐれていることを、心配しているのか? 苦々しく思っているのか? 困ったことだと思っているのか? 仕方ないと思っているのか? 全然わからなかった。
 のちにネーデルラントの新教徒弾圧について語るあたりとかも、かわいそうだとか問題だとか思っているのはわかるんです、でもそんなの当たり前だよね。知っている少女が焼身自殺なんかしたら驚くに決まってます。だけど彼はこういう性格のこういう考え方をする人間だから、だからこういう行動に出たのだ…というのが私には見えませんでした。
 本当に心優しくて人道派で、どうしても彼らを救いたかったから、その立場を得るために王の密偵になったのか? それとも単に出世欲に駆られた男で、そういう目的でやっているのか…?
 彼と王子の友情と対立は見所のひとつのはずだし、異端審問後の和解はハイライトシーンのはずですが、そこまでの盛り上がりには欠けていた気がしました…物語の中で王のポジションが重くなってしまっているのを撥ね退けるくらいの輝きを、こういう役でしっかり見せられると、チギも二番手としてしっかりしてきたよ!次期トップスターの座も安泰だね!!と思える…のだけれどなあ…ううーむ…

 ちなみのチギアユ場面はとても楽しく萌えて観ましたが、実は消化不良でもあって…脚本の意図が実はよくわからなかったのです。
 ポーザ侯爵は妻子持ちなんでしょうか? まあ普通はそうですよね、王子の親友だから若いのかもしれませんが、王子は結婚していてもいい歳頃なのに渋っているらしいので、逆にポーザには妻がもういてもいいでしょう。
 でもどちらにせよ、この時代のこの宮廷で婚外子の存在ってそんなに問題じゃないと思うんですよね…というか私はそう思ったのですが、だとするとふたりのやりとりが何を巡ってのものなのか、実はよく追えなかったのです。
 ポーザはネーデルラントでの経験がショックで、一時帰国したときに心が弱っていて、なんとなくエボリ公女(愛加あゆ)と寝ちゃった、ということのようですが、エボリの方は彼のことが好きだった、ということ?
 そして彼の子を産んだ。対外的には夫の子とされているし、彼女は王の愛人でもあるので(と設定されていると聞いた気が…実際にはそういう台詞はなかったかと思いますが)実は王の種だろう、と周りには思われている。
 そして彼女は、ポーザの頼みを聞く代わりに子供の認知を迫った。するはずがないとおもっていたからですよね? 相手にとってやりにくいことを交換条件に出すんじゃないとヘンだもんね? つまり彼はエボリとデキていたことを公にはしたくないと思っていた、ということですよね? それは何故? 王の手前?
 でも彼はあっさり書類にサインしました。それは何故?
 嫌がると思っていた認知をあっさりしてくれたことで、あのときなんとなく流されて自分と寝ただけに見えたポーザが、ある程度は自分にもきちんと愛情を持ってくれていたのだ、と思えたからこそ、エボリは満足し、その書類は破棄し、彼の依頼も引き受けることにしたんですよね。それはわかる。彼女は彼の庇護など必要としてはいなかったからです。かつての愛を確かめたかっただけ、そのプライドが満足させられたから、もう彼には用がないのです。
 でもポーザがやっていることがよくわからないんだよなあ…???
 ともあれあゆっちは素敵でした。史実やスターシステムにくわしくない観客からしたら、ちょっとやりすぎなくらいキャラクターを濃く作ってしまっていたかもしれませんが、こういう仕事もちゃんとできるんだと示せていることは素晴らしいと私は思いました。

 あとは…これで卒業のリサリサがやはりさすがで、情愛あふれ賢くかつ控えめな王妹フアナをきちんと見せていました。
 夫に死に別れたためとはいえ婚家から実家に戻り兄の宮廷のホステス役を務め、父親がかまわない子供たちを養育したしっかり者。でも彼女がちゃんとしてしまっていたからこそ、イサベルには立場がなかったのかもしれませんね。
 そういうドラマも感じさせました。

 キタさんやコマ、せしるは役不足だったかもしれないけれど、まあ仕方ないし、その中で確実にきっちり見せてくれていました。
 きんぐやがおりもさすがにちゃんとしていました。
 さきちゃんよりはナギショの方が使われているのかなあ、とか野次馬根性の見方をしたり…
 あすくんやレオくんは顔を覚えられたかな。
 ナガさんやにわにわもさすがでした。

 ラストはしかし、無罪と有罪は大違いだと思うので、布告はやはり無罪で、でも王子たるものが異端審問にかけられるなんてのがそもそも問題なのでしばらく謹慎させる、とするくらいでいいんじゃないの?という気がしました。
 ともあれ主役カップルが手に手を取って、明日への希望と世界の理想を胸に旅に出る…美しいエンディングでよかったです。
 史実はともあれ、ね…


 グランド・レビューは作・演出/中村一徳、作曲・編曲/西村耕次、甲斐正人。
 正しく中村Bショーでしたがとっても楽しかったです。まだ上半期も終わっていませんが、ラインナップからして今年のマイ・ベストショーはこれになるかもしれません…

 プロローグはやや間延びして見えましたが、そしてお衣装もつい最近別の組で観たばかりな気もしましたが、でも手堅い。楽しい。
 クラブの場面は、未だ舶来信仰がお恥ずかしいですがやはり粋で素敵でした。チギもとても良くてダンスは良くなったなーと思います。でも主にコマを観ていた…(^^;)
 残念なのは背景というかセットがうるさくてダンスの邪魔をしていたように見えたこと。せっかく振りがいいんだからもっとシンプルでいいんじゃないのかなあ。ショーガールたちが現れるところ、もっとシルエットだけでドキドキしたかった。セットや電飾に埋もれちゃってたじゃん、もったいない。
 男役の振りで股間の前に筒状に仕立てを置くのには、つかむものないけどね!と思った私。娘役の振りでバックを誘うようにお尻を突き出すのもわああかなのコードギリギリでは…!と思いましたが楽しく観ました(^^;)。
 あゆっちも素晴らしかったけれど、ナガさんとゆめみ姐さんにいい仕事させているのがまた素晴らしかった!

 続くアンダルシアでは、セリ上がるヒターナのキムの白と金のスパニッシュ衣装の似合いっぷりに震えました。
 故郷に戻るとかつての恋人は別の男と…という定番のドラマ仕立ての場面ですが、キムが今の男(バレーロのまっつ)を実力行使で追い払うというか死に至らしめる…?のがなかなか斬新だなと思いました。普通はヒール側がナイフとかだすもんじゃん…素手で勝つってすごいなキム(^^;)。
 アデーラのミミちゃんが、だからってヒターノをずっと好きだったの、みたくばっと抱きついて終わり、とかキスして終わり、とかじゃなくて、なんかヒターノと睨み合っているようにも見える対峙で暗転、というのがまたなかなかよかったです。
 ここの赤い砂のあゆみちゃんは絶品。カクダン役者(そんなものが!)だよねえ…!
 あとヒメの歌もよかったです。

 そして中詰めへ。
 キタさんが、せしるが、コマが、まっつが、チギとミミちゃんが…とスターたちが歌い踊り継ぐ、いいですねー!
 キムは客席出で沸かせてくれました。

 銀橋にきんぐとあゆっちが残って、ラテンのデュエットというより昭和歌謡な感じがまたよかった…!
 というか全体にあゆっちの確固たる二番手娘役っぷりと、きんぐが鮮やかさを増したことが個人的に目に付いたショーでした。私はアラミスも好きだったし『インフィニティ』で間近に観てきんぐ識別能力が上がったというのもあるとは思うけれど、でも一本筋が通ったというか一皮剥けたというか、色気とオーラが出てきた気がします。

 続く光と影もおもしろかったな。想像していたのとは違う音楽、振り、展開で。
 だからキムの鬘は長髪じゃなくてもよかったんじゃないかな、とかは思いましたが…あんなにベタベタにギリシアの美神ふう、とかにしなくても、さ…

 中詰めで銀橋に出してもらえていなかったコマを歌わせ渡らせ、続いてロケットボーイのナギショにまで歌って渡らせ、銀橋ひとり渡り大判振る舞いに震えました私。宙組だったらありえない…カチャですらやらせてもらえたら快挙なんじゃないの?
 「パダン・パダン」の黒燕尾ねカッコいい!
 ミミちゃんも「踊り明かそう」で銀橋渡り。卒業のスミカがやっていないのに…(ToT)
 さらに「シェルブールの雨傘」でたっぷりのデュエダン。大階段には青空と入道雲、いいですね。ここのカゲコーラスもとても素敵でした。
 エトワールはさらさちゃん、パレードもセンター折りがたくさんいて楽しかったです。
 若いスターがたくさんいてかつ働き場所をもらっていて、にぎやかで楽しいレビューだなあ、と幸せになりました。いい観劇でした。


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