駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『ドリームガールズ』

2023年02月16日 | 観劇記/タイトルた行
 東京国際フォーラム ホールC、2023年2月8日18時、13日18時。

 1960年代、アメリカ。ニューヨーク・ハーレム地区にあるアポロ・シアターでスターを発掘するコンテストが行われている。シカゴでコーラスグループ「ザ・ドリーメッツ」として活動するディーナ・ジョーンズ(望海風斗)、エフィ・メロディ・ホワイト(福原みほ/村川絵梨)、ローレル・ロビンソン(sara)は、ショービジネス界での成功を夢見てこのコンテストに参加しようとしていた。列車の遅延で出番には遅れたが、劇場に出入りする野心家のカーディーラー、カーティス・テイラー・ジュニア(spi)の口利きで最後の出場者として参加できることになり…
 脚本・作詞/トム・アイン、音楽/ヘンリー・クリーガー、オリジナル・ブロードウェイ版演出・振付/マイケネ・ベネット、演出/眞鍋卓嗣、翻訳/徐賀世子、訳詞/福田響志。1981年ブロードウェイ初演、2006年にはビヨンセ主演で映画化もされたトニー賞6部門、グラミー賞2部門を受賞の大ヒット・ミュージカル。日本初演、全2幕。

 来日公演は観られていませんが映画は好きで、映画館でも観たしDVDも愛蔵しています。だいもん主演で上演発表があったときには大喜びし、でもディーナ役で主演なのか、あの物語のキモはエフィでは?と思ったらこちらがダブルキャストだったので、これは両方観ずばなるまい…とお友達を頼ってなんとか算段つけました。だって意外と公演期間が短くて大変で…でも2回観たのは個人的には正解でした。席が上手寄りと下手寄りにいい感じにバラけた、というのもあります。
 先に村川エフィ、次に福原エフィの順で観ました。
 村川さんがこんなに歌えるとは知りませんでした! 主演というタイプではないのかもしれないけれど何度も舞台で観ていて名前ももちろん覚えていて好きな女優さんでしたが、そもそもは歌手としてデビューして、グループで活動していたんだそうですね。知りませんでした…! いやぁパワフルでソウルフルで声量もパンチも申し分ない、圧巻の歌声でした。そしてもちろん芝居も上手い。脚本としてはキャラ立てなどがヌルいな、と感じたのですが、それを村川さんはきっちり埋めていたことがよくわかりました。
 ただ、太ってはいなかった。エフィの体型としてのボリューミーさは全然なかった。背の高さもスタイルもなんなら遠目に見た顔立ちもだいもんと似ていて、ディーナと区別がつきづらかった…私はありがたくもオペラグラスが要らないような前方席で観ましたが、それでもぱっと見わからないことがよくよくありました。そうなるとローレルもわからなくなるんです、順番に凝視していかないと誰が誰か把握できない。それじゃやはりダメですよね…役作りとしてもうちょっとだけでも太るとか、お衣装の工夫をすることにして肉布団をつけるとかは、できなかったのかな…
 それは次に福原さんを観て痛感しました。こちらは逆に歌手の方で今回が初舞台とのことで、正直ダンスと芝居はつたなくてもの足りなかったです。なんなら歌も本当はもっと綺麗なソプラノで高い音域の歌が上手いタイプなのではなかろうか、声量もパンチももの足りない…と私は感じました。ただ、見た目がエフィでした。映画から抜け出してきたようでした、ややふっくらした体つきと丸みのある目鼻立ちが。これならだいもんと同じに見えない、だいもんが逆にやや尖った顔立ちのほっそりした美人に見えて、だからエフィとディーナの違いが際立つし、ここの区別がつくとローレルの背が高いけどおぼこそうなベビーフェイスの末っ子キャラ、という特徴も際だって、三人が三者三様の、でも仲のいいバランスのいいグループに見える。これは強い、と思いました。この一長一短のダブルキャストはなんとももったいなかったですね…ただ歌唱としてもエフィにソロ場面が何度もあるので、負担を考えればここがダブルキャストだったのは正解だったと思います。
 そして見た目含めてだいもんはディーナ役でよかったと思うし、映画もビヨンセがメインとされていたと思うけれど(ちなみに来日公演は圧倒的にエフィが主人公に見えたそうですが、それでもクレジットがどうだったとかは私は知りません)、ならもうちょっと全体にディーナが主人公に見えるように作らないと、なんかちょっと、なあ…ってなりますやん。大人の事情?とか勘ぐっちゃう。そりゃネームバリューも集客力もあるのかもしれないけど、ホントにホントか?とも思っちゃうし…そこが残念でした。
 具体的には、映画と舞台では曲の出し入れがあって片方にあるのにもう片方にはない曲もあるのでいろいろ取捨選択されているということなのでしょうが、ディーナにはソロがない、特に「Listen」がないのがやはり弱いんだと思うのです。ディーナがリードボーカルになってからの華のあるセンターっぷりはさすがだいもんで抜群ですし、そこは舞台としてさすが映えますしカーティスの意向も抜擢も納得の艶やかさ、上手さなんですよ。でも物語全体の主人公に見えるには、ショーのセンター場面とは違う、心情を歌うソロがひとつ必要だったと思うのです。
 あとは脚本かな。全体に映画によく似た、非常にテンポのいい、シームレスな展開のスピーディーな舞台で、それは鮮やかだったし楽しかったんだけれど、でも芝居パートが少なすぎたでしょう。特に前半、なんなら冒頭だけでいい、もっとキャラを立ててから話を進めないと、主人公も何もあったもんじゃないと思いました。
 そりゃディーナがお堅くて過保護気味な母親に電話する場面は一応あります。それで親が望む教師になるのではなく歌手として成功したい、それで人々に夢や希望を与え人々のお手本になるなら同じことでしょ?みたく言うんだけれど、そういうお堅い育ちとかそれでちょっと自信や主体性がない人間になっちゃっていること…の表現が弱い。これじゃいかなだいもんでも演技のしようがないよ、と思いました。そういう、いいものを持っていてもちょっとフラフラした女の子だったディーナが、いろいろ経験して成長していくお話、最後には自分で自分の人生をコントロールし羽ばたいていくようになるお話…にもっと仕立てないと、ダメなのでは?と思いました。
 あと、ドリーメッツはあくまでエフィのソウルのある歌声ありきのトリオで、C.C.(内海啓貴)含めてエフィがリーダーのチームなんだ、というような台詞も冒頭にガツンと欲しい。エフィはそこに自信があるから、カーティスに対してもちゃんとものが言えるワケで、恋愛感情もどんどん出していくわけです。だからカーティスも、本当はハナからディーナの美貌と華に目をつけたんだけど、そこを口説くのは難しそうなのでまず搦め手から、とエフィを落とすことにしたんでしょ? 対してディーナは声が軽くて逆に言えばポップス寄りなのでそこは強みで、センターをやらせたら実はめっちゃ花開いた…という流れは2回目を観るとおちついて舞台が観られるのでよくわかったのですが、やはり一度でちゃんとわからせるようもっと脚本がフォローしてしっかり芝居させないと、ただ歌がいいってだけで流れてっちゃあドラマが盛り上がらないんですよ…
 その点、カーティス、C.C.、ジミー(岡田浩暉)、マーティ(駒田一)という男子チームはとてもわかりやすくキャラが立っていました。脚本はそんなにしっかり書き込まれていないんだけれど、キャラ設定の差別化がされているし外見や芝居含めてみんながみんなめっちゃ上手く、差別化されていても実は類型的なキャラ立てだということを差し引いて、すごく説得力があり魅力的でした。てかカーティスはほとんど裏ヒロインだったと思います。ヴィランだけど裏主人公でしたよね、自分の夢のためにガールズを利用し、しかし夢なかばで散った男…最もわかりやすい人物だったと言えます。
 なので舞台としてはそういう脚本の足りなさや演出の緩急のなさ、みたいな弱点は感じつつも、しかし…しかしみんなとにかくめっちゃ歌が上手くてそして楽曲がめちゃくちゃにいいので、もう歌と曲の良さに殴られて気持ちよく揺さぶられ流され浸って満足してしまうという、そんな公演だった気がします。ホント未だ『』のトラウマは引きずるわけで、でも演劇界にはこんなにも歌える人がいるというのに、いくらでも揃えられるだろうというのにホントあれはなんだったの…?と、歌上手揃いのミュージカルを見るたびに思い起こすのです…
 席が前すぎてよく見えなかったのですがおそらく舞台の上にはターンテーブルを模したステージがあって、この回転がまた効果的でした。奥と左右にはパネルみたいなのがあって、ツアー中の街の看板を映し出したりライブハウスの電飾になったり壁の落書きを映したりする(美術/松井るみ)。黒塗りをしていないので彼らが黒人であるとか、まだまだ公民権運動真っ盛りの、逆に言うと人種差別のめっちゃひどい時代に、カーティスがヒット曲に力で風穴を開けのし上がろうとした物語なんだ…というのも、注意深く観ていないとわからなくてもったいない気もしましたが、まあブロードウェイと同じ温度感でこうした作品を日本で日本人で上演することには限界があるのでしょう。でも、熱い気持ちで音楽をがんばる若者たちの群像劇だってことはビンビン伝わる。恋愛含めて上手くいかないことも壁にぶつかることもある、それでも…という情熱の物語に、胸打たれたし、ほろりとさせられました。
 どんどん洗練されていくお洋服もよかったです(衣裳/有村淳)。
 あとはやっぱりsaraちゃんかな! 21年初舞台というフレッシュさですが、次回はきぃちゃんとダブルキャストのクリスティーヌですよね俄然観たくなりました! すらりと背が高くてスタイルが良くてでも童顔気味でいつも目が笑っているタイプで、めーっちゃキュート! 歌える踊れる芝居ができる!! ときめきまくりました。
 内海くんも岡田さんも駒田さんも上手いのは知っていましたが、ホント歌が上手く芝居が上手くダンスが上手くてちょうど良くて気持ちいい! そして私は初spiさんでしたが、これからもいろいろな役が観たくなるスターさんですね! 素晴らしかったです。
 だいもんももちろん素晴らしかったし普通のミュージカル以上にショーアップされたダンス場面が多かったのでそれはとても楽しく観ましたが(どうしても現役のころのようには踊らなくなるので。てかスタートロッコ、サイコー!)、早くもっと芝居と歌とダンスのバランスのいい、座組もいい、脚本と演出のいいこれぞ代表作!というものに当たってほしい気もします。次の『ムーランルージュ!』も楽しみだし素敵だろうけど、サティーンはなんかちょっとだけズレてない? だいもんならもっとできることあるじゃん、だいもんがより輝くにはもうちょっと何かが足りなくない? とか思ってしまうので…これだけできる人が役不足、作品不作に思えるというのは不幸なことです。オリジナルでも和製でもなんでも、なんかもっといいブッキングを頼む…!と勝手に祈っていますが、当人はどのお仕事も楽しくやっていそうだしそれはそれでいいのよすごいことよ、とも思っています。
 東京公演は無事終わり、梅芸、博多座、御園座まで、どうぞご安全に…東京よりみんな音響がマシそうなハコでいいですよね。無事の完走をお祈りしています!



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