明治座、2021年8月18日13時。
大恐慌からようやく落ち着きを取り戻した1930年代なかばのニューヨーク。ナイトクラブの大スター、リノ・スウィーニー(紅ゆずる)はウォール街で働くビジネスマン、ビリー(大野拓朗)に首ったけ。彼女は折からのロンドン行きにビリーを誘うが、つれない返事しか返ってこない。それもそのはず、ビリーは社交界の華、ホープ(愛加あゆ)にぞっこんなのだ。出航の日、ビリーは偶然にもリノと同じ船でロンドンに旅立つホイットニー社長(市川猿弥)を見送るために港にやってくるが、あろうことか母親のハーコート夫人(一路真輝)に連れられて現れたホープが船上で英国紳士のオークリー卿(廣瀬友祐)と結婚式を挙げると知って…
作詞・作曲/コール・ポーター、オリジナル脚本/P・G・ウドハウス&ガイ・ボルトン、ハワード・リンゼイ&ラッセル・クラウス、新脚本/ティモシー・クラウス&ジョン・ワイドマン、潤色・演出/原田諒、翻訳・訳詞/青井陽治。1934年ブロードウェイ初演、1989年日本初演。全2幕。
日本初演は大地真央主演、宮本亜門演出。91年の日生劇場か、96年青山劇場の謝珠栄演出版を観ている気がします。13年の瀬奈じゅん主演、山田和也演出による新版を観たときの記事はこちら。
このとき楽しかった記憶があったので、そしてオールドハッピーミュージカルなんだから中身はそんなにないにしても何も話を思い出せなかったので(笑)、久々に観よう、とチケットを手配しました。ら、緊急事態宣言のアオリか、どうも関係者に陽性が出たからというよりはこんな長丁場で回してたら経費がかかって仕方がない、というような理由で上演期間が短くされて夜公演もなくなって(本当の理由が別にあったらすみません、私にはそう思えたということです)私のチケットが飛び、それでもこりずに取り直したらどセンターに空きがあって無事に確保できて、出かけてきました。ら、今日は関係者に陽性が出たということで休演だとか。まさにどんな公演も日々薄氷を履む思いで興行されていますね、頭が下がります。こちらも引き続き感染対策に気をつけていきたいと思います。
というわけでポツポツ空席はありましたが、しかしだからってセンター寄りの席に勝手に移って、しかも靴脱いで座面に脚上げて座って観ていたカップル、おまえらは許さん。てか行儀悪ッ! 久々に驚いたわ…今どきどんな田舎から出てきた老人だってそんなこたしないだろうよ、まあまあ若そうに見えたのに…イヤだからなのか…? ホント残念でした。
さてしかし、舞台はダンシング・シオタクター(指揮〈東京〉/塩田明弘)によるオーバチュアの裏拍手拍子仕切りから始まって、ガンガン回るセット(美術/松井るみ)も素晴らしく、出てきたベニーが艶やかでキュートで歌がむちゃくちゃ上手く聞こえて(イヤそのホラ、でも現役時代は決して歌の人じゃなかったじゃないですか…)コメディエンヌっぷりも座長っぷりもさすがで、実に楽しく観ました。
タップって音が消えちゃうので私は手拍子したくない派なんですが、でもノッてくると確かにしたくなっちゃうし、でも今回はけっこう入れ方が難しい場面が多くて(テンポがけっこう変わるので)、結局舞台の上でタップ&ダンスしている人たちの方が断然楽しそうなんだなー、とは思っちゃいましたが、でもその分こちらも拍手ガンガンして、楽しく盛り上がりました。
ま、でも全体にはやっぱり鷹揚というよりはスカスカした話に見えるので、もっと巻いてかつ芝居を密にすればいいのに、とは感じましたね。私は今の時代にオーバー3時間の舞台には、本当にそれだけの価値、意義があるのか?とわりと厳しい派です。
そして当時は、あるいは本場の人たちには、この作品の設定や世界観、空気が自明ないしわかりやすいのかもしれないけど、私たちが観る分にはこれがアメリカなのかイギリスなのかも怪しいし、時代も現代なのかちょっと前なのかちょっと前っていつくらいなのか怪しいわけじゃないですか。そこをもっと工夫してわかりやすく見せて、わかりやすく作ってほしい、といつも思います。出てきたリノにしても、やや派手なスーツのおねーちゃんに見えますが、そして明らかにへっぽこな若造のビリーに対してはまあまあおばちゃんに見えますが、この人はなんなのこんなすっとんきょうなOLいるのそれとも舞台だから色が派手なだけなのこのふたりはこれで恋人同士なの?って頭上にはてなマーク浮かばせながら観るのは疲れるわけですよ。もっと上手く説明足して理解させて、とっととキャラと話に取っつかせてほしいんだよなー。そういうお仕事を演出というんじゃないのかなダーハラよ…
あと、前回のときの方が配役がいい気がしました。今回、ビリーとオークリー、ホープとアーマ(平野綾)は入れ替わりのダブルキャストができてしまう気がしました。でもそれじゃダメなんじゃないかなあ。キャラにはもっと特徴をつけて、そしてその特徴に合う身体を持った役者を当てるべきなんじゃないかなあ。どうしても役者さんって美男美女が揃うんだけど、でもたとえばアーマってもっとおへちゃでなんならおデブちゃんでもいい気がするし、ビリーとオークリーはことにタイプを変えるべきだと思うのですよ。ビリーはいわゆるジャニーズ枠でもいいくらいなのでは? とにかくなんか多様性がないんだよなあ、ちょっと残念でした。
そして前回も引っかかった、中国人の扱いはこれでいいのか?は、いよいよ今回はまずかったと思います。当時はこれでフツーだったとか今もブロードウェイはこれで上演してるとかあるのかもしれないけれど、要するに人種差別でしょう。英国紳士が駐在先のアジアで若い娘を犯して捨てた歴史は変えられなくても、今なおネタとしておもしろおかしく扱うのは問題外です。まして日本で上演しているんですよ? 我々はリノが扮装してみせた、よっていないことにされた、その中国の少女の側の存在なんですよ? ダメでしょうこれは…
このあたりの刷新をこそ、望みたかったです。
それに目をつぶれば、入れ替わりもの・なりすましもののよくあるコメディとはいえ、最後に三組カップルができあがってハッピーウェディングで幕を閉じる「なんでもあり」のハッピーミュージカルは、そりゃ楽しいです。役者もみんな達者でした。あちくんがリノのエンジェルスにいて、生腹も拝めましたしキレッキレのダンスがまた観られて、嬉しかったです。お衣装(衣裳/有村淳)もどれもとても素敵でした。
生の犬を出す必要はあるのか、ちょっとハラハラしましたが…
しかしリノというヒロインは、よく言えばオトナの、要するに中年に片足つっこんだ、でも美人で気立てのいいショーガールというキャラクターなので、男役OGにぴったりの、しかも退団後すぐとかにぴったりのお役なんですね。三代目リノのベニー、ホント生き生きしていてのびのびしていてでも悪い暴走はしていなくて、ほっそり美しく、とてもよかったです。イチロさんはおっとり、あゆっちはチャーミングで、まあどちらも役不作な感じはしましたが、楽しく観ました。
有名なナンバー揃いですが、訳詞がいいのも印象的でした。
東京公演は月末まで。なんとか無事に再開されて、御園座、新歌舞伎座、博多座と完走できますように…!
大恐慌からようやく落ち着きを取り戻した1930年代なかばのニューヨーク。ナイトクラブの大スター、リノ・スウィーニー(紅ゆずる)はウォール街で働くビジネスマン、ビリー(大野拓朗)に首ったけ。彼女は折からのロンドン行きにビリーを誘うが、つれない返事しか返ってこない。それもそのはず、ビリーは社交界の華、ホープ(愛加あゆ)にぞっこんなのだ。出航の日、ビリーは偶然にもリノと同じ船でロンドンに旅立つホイットニー社長(市川猿弥)を見送るために港にやってくるが、あろうことか母親のハーコート夫人(一路真輝)に連れられて現れたホープが船上で英国紳士のオークリー卿(廣瀬友祐)と結婚式を挙げると知って…
作詞・作曲/コール・ポーター、オリジナル脚本/P・G・ウドハウス&ガイ・ボルトン、ハワード・リンゼイ&ラッセル・クラウス、新脚本/ティモシー・クラウス&ジョン・ワイドマン、潤色・演出/原田諒、翻訳・訳詞/青井陽治。1934年ブロードウェイ初演、1989年日本初演。全2幕。
日本初演は大地真央主演、宮本亜門演出。91年の日生劇場か、96年青山劇場の謝珠栄演出版を観ている気がします。13年の瀬奈じゅん主演、山田和也演出による新版を観たときの記事はこちら。
このとき楽しかった記憶があったので、そしてオールドハッピーミュージカルなんだから中身はそんなにないにしても何も話を思い出せなかったので(笑)、久々に観よう、とチケットを手配しました。ら、緊急事態宣言のアオリか、どうも関係者に陽性が出たからというよりはこんな長丁場で回してたら経費がかかって仕方がない、というような理由で上演期間が短くされて夜公演もなくなって(本当の理由が別にあったらすみません、私にはそう思えたということです)私のチケットが飛び、それでもこりずに取り直したらどセンターに空きがあって無事に確保できて、出かけてきました。ら、今日は関係者に陽性が出たということで休演だとか。まさにどんな公演も日々薄氷を履む思いで興行されていますね、頭が下がります。こちらも引き続き感染対策に気をつけていきたいと思います。
というわけでポツポツ空席はありましたが、しかしだからってセンター寄りの席に勝手に移って、しかも靴脱いで座面に脚上げて座って観ていたカップル、おまえらは許さん。てか行儀悪ッ! 久々に驚いたわ…今どきどんな田舎から出てきた老人だってそんなこたしないだろうよ、まあまあ若そうに見えたのに…イヤだからなのか…? ホント残念でした。
さてしかし、舞台はダンシング・シオタクター(指揮〈東京〉/塩田明弘)によるオーバチュアの裏拍手拍子仕切りから始まって、ガンガン回るセット(美術/松井るみ)も素晴らしく、出てきたベニーが艶やかでキュートで歌がむちゃくちゃ上手く聞こえて(イヤそのホラ、でも現役時代は決して歌の人じゃなかったじゃないですか…)コメディエンヌっぷりも座長っぷりもさすがで、実に楽しく観ました。
タップって音が消えちゃうので私は手拍子したくない派なんですが、でもノッてくると確かにしたくなっちゃうし、でも今回はけっこう入れ方が難しい場面が多くて(テンポがけっこう変わるので)、結局舞台の上でタップ&ダンスしている人たちの方が断然楽しそうなんだなー、とは思っちゃいましたが、でもその分こちらも拍手ガンガンして、楽しく盛り上がりました。
ま、でも全体にはやっぱり鷹揚というよりはスカスカした話に見えるので、もっと巻いてかつ芝居を密にすればいいのに、とは感じましたね。私は今の時代にオーバー3時間の舞台には、本当にそれだけの価値、意義があるのか?とわりと厳しい派です。
そして当時は、あるいは本場の人たちには、この作品の設定や世界観、空気が自明ないしわかりやすいのかもしれないけど、私たちが観る分にはこれがアメリカなのかイギリスなのかも怪しいし、時代も現代なのかちょっと前なのかちょっと前っていつくらいなのか怪しいわけじゃないですか。そこをもっと工夫してわかりやすく見せて、わかりやすく作ってほしい、といつも思います。出てきたリノにしても、やや派手なスーツのおねーちゃんに見えますが、そして明らかにへっぽこな若造のビリーに対してはまあまあおばちゃんに見えますが、この人はなんなのこんなすっとんきょうなOLいるのそれとも舞台だから色が派手なだけなのこのふたりはこれで恋人同士なの?って頭上にはてなマーク浮かばせながら観るのは疲れるわけですよ。もっと上手く説明足して理解させて、とっととキャラと話に取っつかせてほしいんだよなー。そういうお仕事を演出というんじゃないのかなダーハラよ…
あと、前回のときの方が配役がいい気がしました。今回、ビリーとオークリー、ホープとアーマ(平野綾)は入れ替わりのダブルキャストができてしまう気がしました。でもそれじゃダメなんじゃないかなあ。キャラにはもっと特徴をつけて、そしてその特徴に合う身体を持った役者を当てるべきなんじゃないかなあ。どうしても役者さんって美男美女が揃うんだけど、でもたとえばアーマってもっとおへちゃでなんならおデブちゃんでもいい気がするし、ビリーとオークリーはことにタイプを変えるべきだと思うのですよ。ビリーはいわゆるジャニーズ枠でもいいくらいなのでは? とにかくなんか多様性がないんだよなあ、ちょっと残念でした。
そして前回も引っかかった、中国人の扱いはこれでいいのか?は、いよいよ今回はまずかったと思います。当時はこれでフツーだったとか今もブロードウェイはこれで上演してるとかあるのかもしれないけれど、要するに人種差別でしょう。英国紳士が駐在先のアジアで若い娘を犯して捨てた歴史は変えられなくても、今なおネタとしておもしろおかしく扱うのは問題外です。まして日本で上演しているんですよ? 我々はリノが扮装してみせた、よっていないことにされた、その中国の少女の側の存在なんですよ? ダメでしょうこれは…
このあたりの刷新をこそ、望みたかったです。
それに目をつぶれば、入れ替わりもの・なりすましもののよくあるコメディとはいえ、最後に三組カップルができあがってハッピーウェディングで幕を閉じる「なんでもあり」のハッピーミュージカルは、そりゃ楽しいです。役者もみんな達者でした。あちくんがリノのエンジェルスにいて、生腹も拝めましたしキレッキレのダンスがまた観られて、嬉しかったです。お衣装(衣裳/有村淳)もどれもとても素敵でした。
生の犬を出す必要はあるのか、ちょっとハラハラしましたが…
しかしリノというヒロインは、よく言えばオトナの、要するに中年に片足つっこんだ、でも美人で気立てのいいショーガールというキャラクターなので、男役OGにぴったりの、しかも退団後すぐとかにぴったりのお役なんですね。三代目リノのベニー、ホント生き生きしていてのびのびしていてでも悪い暴走はしていなくて、ほっそり美しく、とてもよかったです。イチロさんはおっとり、あゆっちはチャーミングで、まあどちらも役不作な感じはしましたが、楽しく観ました。
有名なナンバー揃いですが、訳詞がいいのも印象的でした。
東京公演は月末まで。なんとか無事に再開されて、御園座、新歌舞伎座、博多座と完走できますように…!