駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇花組『銀ちゃんの恋』

2021年08月22日 | 観劇記/タイトルか行
 KAAT狩野川芸術劇場、2021年8月20日13時。

 ここは京都撮影所。折しも、映画『新選組血風録』の撮影たけなわ。土方歳三に扮するのは「銀ちゃん」こと倉丘銀四郎(水美舞斗)。銀ちゃんは自分が主役じゃないとダメな性格で、役者としての華もあり人情もあるが感情の落差が激しいのが玉に瑕。恋人の小夏(星空美咲)や、銀ちゃんに憧れ慕っているヤス(飛龍つかさ)は気の休まる暇がない。そんなとき、小夏が妊娠。自分を大スターだと思い込んでいる銀ちゃんは、スキャンダルを恐れて、ヤスと小夏を無理やり結婚させようとするが…
 原作/つかこうへい、潤色・演出/石田昌也、作曲・編曲/高橋城、甲斐正人、高橋恵。80年初演、82年直木賞受賞、83年の映画版も有名な『蒲田行進曲』の宝塚歌劇版。96年月組初演、08年花組、10年宙組で再演されて4度目の上演。全2幕。

 私は初演も観ていますが、前回の宙組版のときの記事はこちら
 …結論から言いましょう、私は全然いい観客になれませんでした。
 再演のニュースを聞いたときには、「お、いいんじゃない?」と思ったんですよね。ただ、だいぶ昔の話だけどな、そもそも前回の公演いつだっけ? じゅ、十年前…?? い、今この内容って通じるのかな…とは、心配になりましたけど。
 ヤスはつかさっちかな、ほってぃーも上手いと思うけどな、なみけーってのもあるかな、小夏は音くりちゃんに任せたいところだけれど、都姫ちゃんってのもアリかもしれないな…とか、いろいろ楽しみにしていました。
 実際の配役は、ヤスはつかさっちで、これは任せて安心。ただ星空ちゃんが小夏というのは…『POR』はがんばっていたけれど、あれはああいうお姫さま役だからなんとかなっていただけなのではあるまいか…そりゃ花組の頃のスミカも似たような学年だったけど、キャリアというか場数が全然違ったし、何よりニンが違うじゃん。スミカはお姫さまってより北島マヤ、芝居の鬼ってタイプだったからハマったんであってさ…だいたい星空ちゃんをどういう娘役に育てる気でいるの? もちろん花組の下級生路線娘役が全然育っていないって問題はあるんだけど、華ちゃんの後任にまどかが来たんだからしばらくはそれでつなぐんじゃん、だからそんなに急ごしらえしなくてよくない? 小夏の「営業年齢」25歳に全然届いていないだろう下級生に、あまりに酷では…と、私はかなりどんよりしました。
 KAATってのも出かけるには億劫なんだけれど、『ほん魔法』『マノン』と来ていて多少慣れたのでよいしょっと出かけて、会場でプログラム買って、開いて、またどよよんとなりました。
 マイティーのスチール、なんか笑顔が優しすぎません…? コレ、銀ちゃんか…? つかさっちはちゃんとヤスなのに…そして星空ちゃんの硬直した笑顔に絶句しました。舞台では緊張してこういう表情しか作れないのだとしても、スチールなんだからウソでも偶然でももっと笑った顔が撮れるでしょう? てか小夏は変わらず「売れない女優」という説明になっていましたが、正しくは「売れなくなった女優」で「かつては売れっ子だった女優」の役なんですよ。だからもっと艶然と笑うべきだし、素の、意外と純真な小夏って方でいくならもっとニッコリ可愛く笑うべきなのでは…? なのにこの、まったく笑っていない目、引きつって上がっただけの口角…
 しかも私、頬骨大好きで、たとえば珠城さんの顔でも一番好きなのは頬骨なんですけど、娘役の顔には求めていないんだな、ということに気づかされました。そもそもちゃぴに似ていると話題になった娘役ちゃんだと思いますが、ちゃぴはそんなに頬骨が目立つタイプじゃないしなあ…
 そんな感じでだいぶどよよよんな気分で席につきました。ただ、前方通路側のとても観やすいお席で、みんなが歌う蒲田行進曲と中山(美風舞良)ちゃんのあおいちゃんの開演前アナウンスにアガり、ちょっと気を取り直したところで開演。専務(航琉ひびき)と中山ちゃんの会話から始まりますが、すでにアレコレ変更されていて、ほほう手を入れたのねと見守っているうちに銀ちゃん登場。あとは前回ママの撮影シーンで、ここはまあまあだったかな。てからいとの助監督がほぼモブで悲しいわ…
 銀ちゃんにお弁当を持ってきた小夏は、一応ちょっとやつれた大人の雰囲気が出せていたと思いました。そのまま橘(帆純まひろ)とのダンス場面、橘のポジションが上がっていたのでそうキタかとちょっと苦笑い。プログラムでも扱いが小さかったもんね小夏…でもちゃんとヒロイン扱いしてもらわないと、この話の構造としてしんどくなるんだけどな、とまた心配に。
「主役は俺だ!」でダンスパートが増えていたのにはさすがマイティー銀ちゃんだよコレはいい改訂だわと笑い、そのままヤスのアパートの場面へ…やはりヤスの芝居はよかったです。

 …ま、でも以後も全体にこの調子で私はどうしても記憶と比べて観てしまい、キャラクターや物語に没頭できなかったのでした。また申し訳ありませんが私はマイティーが、別に好きでも嫌いでもないんですよねえ…そしてどうしても銀ちゃんにしてははっちゃけっぷりが足りなく見えて、本人がいい人なのがにじみ出ているような気がしたので、「おお、これがこのスターの魅力だったか! 開眼したよ今まですまんかった!!」みたいな発見には私は至らなかったのです。てか華ちゃんやあきらご卒業後の新生花組のおそらく正二番手に就任するんだと思うんだけど、劇団はどういうスターとして売っていくつもりなのでしょうね? どうもプログラムの石田先生のコメントからすると(私がアンチすぎるせいかもしれませんが、毎度ホント意味不明の文章だと思う)マイティー主演で台詞劇をやらせる意図があって、それで今回の演目セレクトになったようですが…うーん、別にものっすごく口跡がいいとかいうタイプではなくない? それともそこを鍛えたいということ? でもそれよりもっといいところを伸ばした方がいいスターなのでは…?
 で、キャラクターに感情移入なり共感なり、せめて愛嬌を感じて親身になれないと、このお話ってかなりきついですよね。恋愛というよりは共依存みたいな、女性を潤滑油にしたホモソみたいな、嫉妬と愛憎みたいな、でもやっぱり純愛と義理人情のお話なんだけど(この純愛というのはプラトニックという意味ではなく、純粋なとか真実の、という意味で、です。ちなみに原作にあるのかもしれませんが「恋はやっぱりプラトニックがいいなあ」という台詞は、私はどうにも引っかかります)、やはりかなり特殊な関係性のドラマなので…それはセクハラパワハラDVめいた台詞や動きを多少手直ししたからってどうにかなるものではないと思うので。それを、こういうことってあるよね人間だもの、という説得力を持たせて泣かせる…ってのはかなり力業のいることだと思うのです。ま、結果的にはメタなんだけどさ。
 なので…とにかく私はちょっと、ダメでした。多分舞台や出演者のせいではないと思うんですけれど…ホントすみません。
 今回初めてこの作品を観て、こういう作品だったのか、いいなおもしろいなってなっている方々の好評なんかも聞きますし、そうやって四十年前の作品でも受け継がれていくならそれはいいことだと思うので、ちゃんと愛されているならよかったです。以前も観たけど今回もいい、と言っている方も多いようですしね。近い昔の話って難しいんだけれど、続けていけばチェーホフやシェイクスピアになるのかもしれませんしね。なのでホント私がいいお客になれなかっただけです、すんません。
 それにしてもダーイシはホントろくなこと書かないよね…「ご助言」ってなんだよ、このカギカッコはなんだっつーんだよ。なのであれこれ細かく論評する気が失せた、というのもあります。そうそう、「現金」発言で客電点けるの、私は以前から嫌いだったなー…「え? ナニ? 操作ミス?」ってきょとんとする観客ももちろん多いんだろうけどさ。
 あ、糸月雪羽の玉美がよかったです。慣れないハイヒールのカクカク歩きが上手かったというのもあるし、要するにブスキャラなのでおてもやんメイクなんだけど、それでも元の顔がうっすらわかるし可愛く見えないこともなくて、絶妙な愛嬌がありました。ダンちゃん同様ここからハネますように! スカステニュースもカワイイよ!!
 ここまで三作連続登板だったヤス母の邦なつきは京三紗に替わってしまったんですよね、これは残念でした。
 あとは愛蘭みこちゃんチェックとかしたかったんですけれど、ちょっと気が回りませんでした。
 フィナーレはないバージョンでしたね、そして電飾は大空さんのより派手になっていた気がしました(笑)。セットの奥の映像も精緻になっていて、進化を感じました。しかし『卒業』パロディってホントもう通じないんじゃないのかなー…
 ポスターやプログラムの公演期間の、初日と楽の間のマークがカチンコになっているのがカワイイ。DC大楽まで無事の上演を祈っています。


 



コメント (4)
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