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「水濃徃方」の解読 40


(梅雨が始まった西原の方)

朝から雨、午後の西原方面の様子である。上半分は雨に煙ってよく見えない。

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「水濃徃方」の解読を続ける。 今日で「塵世遁(ちょんがれ)法師之篇」を読み終える。

油断めさると、今の間に臨命終時の八ヶ月、八苦(はちく)の海に流れ、買(か)うや、阿防羅刹のばく物屋が手に渡り、おくびはおくび、身ごろは身ごろと、のん/\に解き離し、挟みで挟んだり、針で差したり、様々の責めを受ける段に
は、悔やんでも遅うござる。これを以って、流すな/\と、喚(よ)び醒(さ)ますので御座る。
※ 臨命終時(りんみょうじゅうし)➜ 人の命が尽きようとするとき。臨終。
※ 八苦(はちく)➜ 人間の八つの苦しみ。生・老・病・死の四苦に、愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五陰盛苦を加えたもの。
※ 阿防羅刹(あぼうらせつ)➜ 地獄の獄卒。牛頭で、胴と手は人、脚は牛に似ており、山を抜くほど力が強い。
※ おくび(衽)➜ おくみ。着物の左右の前身頃 (まえみごろ) に縫いつけた、襟から裾までの細長い半幅の布。
※ 身ごろ(裑)➜ 身頃。衣服の、襟・袖・衽 (おくみ) などを除いた、からだの前と後ろを覆う部分の総称。前身頃と後ろ身頃。
※ のんのん ➜ 勢いのよいさまを表わす語。どんどん。
※ 挟み(はさみ)➜ 物をはさむこと。また、はさむもの。

十九とは「十九出家」、年増とは「三十成道」、出家の五戒は儒の五常、この五が抜けると、盆茣蓙包(ぐる)めに、ころりと地獄へ、(たんだ)(はしり)という事を申したもの。猶、深奥(しんおう)の玄理(げんり)あれども、申してからが、疑い多い今の人が、何として了解(りょうげ)するもので御座る。アヽ悲しいかなや、キウ、うるさい事だ。キウとは三宝(さんぽう)衰滅の時を、嘆息(たんそく)の度々に、喉から血を吐(は)く思いとは、こなた衆の目には見えませぬか。」との物語。
※ 十九出家(じゅうきゅうしゅっけ)➜ 釈尊は十九歳で出家されたことそ指す。
※ 三十成道(さんじゅうせいどう)➜ 釈尊は三十歳で悟りを開かれたことを指す。
※ 五常(れい)➜ 五徳とも。儒教で説く五つの徳目。仁・義・礼・智・信を指す。
※ 唯(たんだ)➜ ただもう。 もっぱら。 ひたすら。
※ 深奥の玄理(しんおうのげんり)➜ おくぶかい道理。究極の真理。
※ 三宝(さんぽう)➜ 仏教では「仏・法・僧」を三宝として、帰依する。
※ 嘆息(たんそく)➜ 落ち込んだり嘆いたりして出るため息。

勘忍坊も横手を打ち、「アヽ有難い御講釈。只今からは妻子に隠して、より/\お庵へ参りましょう程に、御聴聞(ちょうもん)させて下さりませ。近所まで念仏講に参ると申して参ったれば、さぞ按じて居りましょう。お名残(なごり)惜しさ尽きせねども、御暇(いとま)申し上げます。」と、立ち帰りて、次の日、供養の具など取したゝめ、庵室へ尋ねけれども、かの上人はましまさず。もぬけのからの紙襖(ふすま)、前に一首の短冊あり。

  行きて住まん 月の輪袈裟に 頬かむり 浮世の風を ちょんがれの里

いかなる名徳(めいとく)碩学(せきがく)の、世に隠れて、いまそがりけるにか。この頃、江戸を歩(あり)くちょんがれは、この上人の流れを汲めるなりと云えり。
※ 名徳(めいとく)➜ 名声があり徳が高い人。
※ 碩学(せきがく)➜ 広く深く学問を修めた人
※ いまそがり ➜ いますがり。いらっしゃる。
(「水濃徃方」つづく。明日から「大森翁之篇」が始まる。) 

読書:「問答無用」 稲葉稔 著
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