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「水濃徃方」の解読 41


(庭のもう一つのバラ)

家の庭にはバラが二本しかない。人の背ほどの生垣の上から枝を伸ばして咲かせる赤いバラ、今年は花が鈴なりに付いた。生垣を選定する時、皆な切り取られてしまうのだが、生垣の中までは届かないので温存され、春にはまた新芽が出て、花が咲く。この家が出来る前だったか、どなたかからの頂き物で、生垣と共に育ってきた。40年以上、我が家と共に生きながらえて、家人は時々その花で驚かされる。

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「水濃徃方」の解読を続ける。今日より「大森翁之篇」。

   大森翁之篇

相模の国、阿夫利の山に、立たせ給う不動明王は、霊験鮮(あらた)にまし/\て、鎮護国家の道場なり。近来、山上に石尊大権現(せきそんだいごんげん)鎮座あって、衆生の祈願に応じ給う事、聲と響きとの如くなりとて、関八州の民、我も/\と参詣し、六月末より上るを初山と云い、盆を盆山(ぼんやま)ととなえて、その群集夥(おびただ)しき事、(あまね)世の人の知れる所なり。
※ 阿夫利の山(あふりのやま)➜ 神奈川県伊勢原市にある大山。山上にる神社である。
※ 石尊大権現(せきそんだいごんげん)➜ 大山の山岳信仰と修験道的な信仰が融合した神仏習合の神であり、十一面観音を本地仏とする。
※ 普く(あまねく)➜ もれなくすべてに及んでいるさま。広く。一般に。 

あるいは運を守り給いて、信ある人は負(ま)くベき事にも勝つと言うてより、ひょんな事の守り神の様に覚え、江戸中の鳶(とび)の者、諸職人の弟子、魚売(うおうり)、天窓(あたま)に少しも血の気、持った者は、なまぐさばんだ、ばさら髪に、大の木太刀(きたち)引っ担(かた)げて、五郎時宗が、富士の狩場へ切り込んだる勢い、伊達染(だてぞめ)浴衣の露をむすんで肩に懸け、
※ ひょんな ➜ 思いがけないさま。意外な。
※ なまぐさばんだばさら ➜ 不動明王の真言。「ノウマク サンマンダ バザラダン カン」
※ ばさら髪(婆娑羅髪)➜ ばさばさに乱れた髪。
※ 五郎時宗(ごろうときむね)➜ 五郎時致とも。仇討の曽我兄弟の弟。
※ 伊達染(だてぞめ)➜ はでな色や模様に染めること。

「今年は藤沢の宿も世並(よなみ)が直って、よい尼めらが見える。兄イ、立て引だ。一晩泊まってくれるなら、忝(かたじけ)なすびの胡麻和えだ。」と誉(ほめ)る事さえ、弱みを見せぬ、朝比奈の三ブとも云うべき、若い者頭(がしら)も、良弁の瀧ひいやりと浴びてから、無性に有難くなりて、「親仁(おやじ)様、そろ/\御下(くだ)りなされませ。お山はよう御座りますかな。」「アヽおまへ様は早くお仕舞なされて、浦山(うらやま)しい」と、どこの人やら知れぬ人にも、無性にいたいけになって、口の内にて南無大聖不動明王と唱(とな)え/\。
※ 世並(よなみ)➜。世間一般の例にもれないこと。世間並み。また、はやっていること。
※ 立て引(たてひき)➜ 言い分を述べること。談判すること。交渉。かけひき。
※ 良弁の瀧(ろうべんのたき)➜ 大山の麓にある滝。大山詣での人達が水垢離を取った。
※ いたいけ(幼気)➜ 言動に思いやりがあり、やさしいさま。
(「水濃徃方」つづく)
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