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駿台雑話壱 10 異説まち/\(二)

(毎年咲くヒヤシンスだが、歳を経るにつれて、花の数が減った様に思う。)

室鳩巣著の「駿台雑話 壱」の解読を続ける。

  異説まち/\(続き)
今の儒者、多くは自ら高ぶる心ありて、濂洛の書を詳しく読む人まれなり。いまだ程朱の藩籬をも窺わずして、己が心を先立てゝ、にわかに大賢を議す。所見の是非は姑(しばら)くさし置きぬ。先ずその学の軽薄浮浅なるこそ、うたてしく覚え侍れ。さようの人は孔孟の書をも、詳しく読むまじければ、孔孟の意をも得ざるべし。孔孟の意を得ずしては、いかで程朱の説に疑いなかるべき。
※ 高ぶる(たかぶる)- えらそうに振る舞う。尊大な態度をとる。おごる。
※ 濂洛(れんらく)- 宋学の事。
※ 藩籬(はんり)- 学問・芸術などの糸口。初歩的な段階。
※ 大賢(たいけん)- 非常に賢いこと。また,その人。
※ 軽薄浮浅(けいはくふせん)- 軽くて薄っぺらな。
※ うたてしく(転しく)- つらく。情けなく。


然るに、程朱をば軽々しく議すれども、孔孟を議する事をば聞かず。これは孔孟にも疑いなきにはあらねども、孔孟は二千年来、世に尊信す。それを議しては人のうけがわぬ事なり。程朱は世代ちかく、明朝(みんちょう)に至りて、或は譏(そし)る人もありける故に、これを譏るなりといわく。これ毛遂がいわゆる因人成事なり。一定の所見ありとはいうべからず。もしまた、己が道徳、学術、孔孟には企て及ばねば、その憚(はばか)りありといわく。さては今、程朱を譏るゝ。これ己がははるか程朱の上に立つと自ら許すなるべし。
※ うけがう(肯う)- 承諾する。肯定する。
※ 因人成事 -「人に因り、事をなす」。独立の気力なく、他人に頼って事を成し遂げる。
「史記列伝/平原君伝」出典。秦の軍が趙の都、邯鄲を包囲したとき、趙では平原君を使節とし救援を楚に求め、合従の約を結ぼうとした。食客や家来のうち、20人を随えて行くことに定まった。20人目に、自薦で加わった毛遂が他の19人との議論の中で発した言葉である。この後、楚に出向き、毛遂の活躍で合従の約が成った。
※ 賢(けん)- 学徳のすぐれていること。


それはともあれ、神道とはいえど、その説をきくに、我国に荷担し、湯武叛逆の類いといえば、そのいわゆる神道は、仁義の外に有るにやあらむ。
※ 湯武叛逆(ゆぶはんぎゃく)- 湯王も武王も前の王を打ち倒して王となった。
※ 仁義(じんぎ)- 儒教で、実践道徳として最も尊ぶ仁と義。

(この項続く)
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