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日本左衛門騒動記 18 日本左衛門出頭の事(後)

(裏の畑のアマリリス)

日本左衛門騒動記の解読を続ける。

三條通りにて、髪月代を致し、ここぞこの世のはれなるぞと、衣服改め給いける。下に白無垢、浅黄無垢、上に黒羽二重、帯は黄羅紗のはゞ広にて、印籠、巾着、最上のおじめは珊瑚珠、大玉にて、根付け象牙の玉獅子にて、茶羅紗の紙入、脇差まで金銀、後藤の細工にて、さしも立派に出で立ちて、正月六日巳の刻に、町御奉行永井丹波守殿御番所へこそ出でにける。
※ 髪月代(かみさかやき)- 髪を結い月代を剃ること。
※ おじめ(緒締)- 袋物の緒を束ねて通し、口を締めるための穴のあいた玉。緒止め。
※ 後藤の細工 - 後藤彫の彫金は有名であった。


恐れながら申し上げ候意趣は、私義、先だって御尋ねの日本左衛門と申す者に御座候。恐れながら御直談申し上げたき義に御座候て、罷り出で候。御取次下さるべきと申し上げる。与力衆中、聞き届け、早速丹波守様へ申し達しければ、その者白砂へ通すべしと、与力、同心前後をかため、先ず脇指を取り、無腰にて白砂へ召し出され、丹波守、三ツ井下総守、御両所出でられ、日本左衛門とは我が事か、名乗り出る事、神妙なり。
※ 意趣(いしゅ)- 理由。わけ。
※ 直談(じきだん)- 他人を介さないで、直接に相手と談判すること。


何の願い有りけると御尋ねこれ有らば、日本左衛門、我れ去年九月廿日の夜、遠州見附宿にて博奕勝負仕る処へ、江戸表より捕り手の衆中、押し込み候所、漸々逃げ延ぶ。それより段々西国辺へ罷り越し候所、手下の者ども残らず召し捕られ候よし。我出でざる内は、右の者ども、拷問責めなやみ、御宥免有るまじと存じ罷り出で候。一刻も早く関東へ御引渡し、大勢の者ども責めを御許し、御慈悲を以って御成敗下さるべしと願いける。
※ 宥免(ゆうめん)- 罰を軽くするなどして、罪を許すこと。大目にみること。

この趣、所司代、牧野備後守殿へ申し達しける。誠に大悪無道の者なれども、智勇勝れし強盗の長本なり。道に背かぬ者ならば、一方の御用にもたつべき者、惜しき事なりとぞ申されけり。

先ず暫く牢へ遣わし置き、関東へ差し下すべく評義一決して、道中宿々御觸れ流しこれ有り、御所司代より、物頭一組、足軽十五人。両町奉行所より与力、同心、弐人ずつ付け、御用御長持外、挑灯(ちょうちん)持ち、十五人、梢払い(さきばらい)前後四人ずつ、道中休み、泊り、その宿々の役人襷を着して、昼夜ともに厳しく番を致し、遖(あっぱ)美々しき召人なり。
※ 美々しい(びびしい)- はなやかで美しい。
※ 召人(めしうど)- とらえられた人。囚人。


同正月廿八日に江戸表へぞ付きにけり。これも本所徳山五兵衛殿へぞ渡されける。
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