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高倉健の「あなたに褒められたくて」

(高倉健と田辺聖子の2冊の本)

図書館で、高倉健のエッセイ集「あなたに褒められたくて」という本を偶然見つけて借りて帰り、一気に読んだ。16年前に出た本である。高倉健が書いた本があると知っていたから、躊躇無く手が出た。

高倉健のご先祖に商家のおかみさんがいて、短歌仲間と小僧さんを連れてお伊勢参りに出かけた。その時の記録が残っていて、その記録をもとに、作家の田辺聖子が「姥ざかり花の旅笠―小田宅子の『東路日記』」という本を書いた。その本を読んで、小田宅子が高倉健のご先祖で、そのことを高倉健がエッセイに書いていると知っていた。そのエッセイ集をたまたま見つけたのである。

「姥ざかり花の旅笠」を読むと、交通手段も整っていない江戸時代に、小僧さんを連れているとは言え、おばさん仲間だけでほいほい五ヶ月の旅に出てしまう。その間、危険な目に遭うことも無く、面白おかしく旅をして、しかもけっこう無計画で、はじめはお伊勢参りに行く予定が、ここまで来たらもう少し足を延ばしてと、そのあと、善光寺から日光東照宮、江戸見物から再び善光寺に寄ってようやく岐路に着く。

大阪までは瀬戸内海を船で行くが、あとはすべて徒歩の旅になる。途中でみやげ物をたくさん買っていく。お金は持っていなくても、今で言うトラベラーズチェックのような為替の制度が確立していて、書付を指定された店に持っていくと現金に換えてくれる。買ったお土産はお店に頼めば宅急便のように自宅まで届けてくれる仕組もあった。旅に関しては、江戸時代には、交通手段が限られているだけで、他のありとあらゆるものが揃っていた。しかも、旅の安全は現代以上であった。

「あなたに褒められたくて」にはご先祖の小田宅子のことも書かれているが、けっこう心に残るいい話がたくさん書かれていた。映画俳優の宿命で、高倉健は「高倉健」として生きなければならないわけだが、けっこう地のままなんだと思われた。素の高倉健も、純粋で頑固で、融通が利かなくて、さぞかし生きにくいだろうと思われる性格なことが窺える。そのことに気付いていながら性格は変えられない。高倉健のそんな思いが伝わってくるエッセイ集であった。
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