河童メソッド。極度の美化は滅亡をまねく。心にばい菌を。

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OCNから2014/12引越。タイトルや本文が途中で切れているものがあります。

0074 ラ・ボエーム ミラノ スカラ座1988 -4-

2006-10-04 00:01:00 | 音楽




カルロス・クライバーの場合、ロドルフォが何故、ペーター・ドヴォルスキーなのか。といったことが割と普通に話題になった記憶がある。
あの流麗な指揮とはあまり相容れない硬くて気張った歌い方であるのに何故、彼なんだ。と素直にそう思ったりもした。クライバーにしかわからない美的感覚のようなものがあるのだろう。
ラ・ボエームは人気演目だけに6回公演。
この日はこんな感じ。

1988年9月27日(火)18:30上野
プッチーニ/ラ・ボエーム

ロドルフォ、ペーター・ドヴォルスキー
ミミ、ミレイラ・フレーニ
マルチェルロ、ジョナサン・サマーズ
ムゼッタ、バーバラ・ダニエル

指揮カルロス・クライバー
フランコ・ゼッフィレルリ、プロダクション

とにかく早い。いつものように。
速度を上げることによる“よく歌う楽器”の最高のフレージングを聴くことができる。美しすぎてばい菌が欲しくなる。
このオペラは2回の休憩を除くと正味2時間ぐらいなのだが、クライバーのフレージングだと2時間をかなり割る。コスト・パフォーマンス的にはどうだろう。列車みたいなものだ。おそいほうが安く、速いほうが高くつく。クライバーの場合、速くやったほうが絶対に美しくなると思っているわけだから、速かったのがたまたま高かっただけ。
とにかく、美しくあるためには呼吸さえ美的でなければならず、その前後近辺でさえ、繊細にくまなく微妙に変化する音の強弱・速度・厚みなど、一度聴いたら麻薬みたいなものだ。プレイヤーにとってもそうかもしれない。
河童の大好物のオペラだけに、第1幕の後半20分だけあれば生きてゆける。
チェ・ジェリダ・マニーナ。
ミ・チアマーノ・ミミ。
オ・ソアヴ・ファンシウラ。
これこそイタオペの真髄。クリスマス・イヴにミミは20分で落ちた。でも彼女がそうさせた。火がない、鍵を落とした、といろいろと小細工して、ロドルフォが彼女の手に触るのを誘った。そして、チェ・ジェリダ・マニーナ。何と冷たい手。。。。。
舞台はそのまま第2幕になだれこむ。ムゼッタのワルツのエンディングで引き延ばされたテーブル転げ、そして一気にピアニッシモにかわる音楽の妙。第2幕導入部の行進曲か再度流れ音楽は見事な対をなして終わる。
そして、第3幕のムゼッタとマルチェルロのやるせない音楽。それにからむミミとロドルフォ。音楽の弧はさらに大きくなり、異常な美しさを保ちながら、これまた対をなす二つの打撃音で締めくくられる。
そして第4幕は、今度は第1幕と対をなす音楽から始まる。プッチーニの音楽は擬音化されている部分が多いが、このようなシンフォニックな構成も見事というほかない。
この第4幕は後半にいたって暗く沈みこみ、くもりガラスのカーテンを閉じるロドルフォ。そして、コラージョ。
ストーリー熟知派さえ毎度泣かせてしまうこのオペラはすごい。
クライバーは輪をかけてすごかった。彼が存在しないことによって、あのような音はもう出なくなってしまった。そこまで神がかり的な棒であったのだろう。
フレーニは過去の残像を背負う運命。あの頃がぎりぎり。

ゼッフィレルリのプロダクションはメトのものであるが、あれを日本にもってきて同じようにやろうとしても無理難題。舞台のサイズ・仕掛けが不可能。おそらく引っ越し公演用の道具を使っていることと思われる。
メトにおけるこのプロダクションでは、可能な限り人・動物を舞台の上に載せることがテーマ。多いことは感動だ、というのが見ればよくわかる。ゼッフィレルリもそれを意図していたに違いない。第1幕冒頭でボヘミアンのみすぼらしい屋根裏から始まり、アタッカで第2幕巨大人数を舞台に上げる。あの対比はド迫力。
メトとかコヴェントガーデンを見に行ったことのあるオペラゴアーズでない人たちは、たまにこんなことをいう。「あんな陳腐な舞台を何故このような都市でやっているのか。」
このせりふはメトのような巨大観光都市では実験工房のようなオペラはできない、ということを知らない。みんな一度は観てみたいものを観光がてら見にきているのである。またはそれに近い人が多い。実験工房をしても誰も人はこない。オペラはエンターテインメントなのである。
ただ、上演回数の多さが聴衆の深い理解には必要ともいえる。これは日本ではかなわない。聴くほうがどうしても一発勝負になってしまい、思い入れ、イメージ、などが極度に先行してしまい、感動しないと損、といった少し変な方向にいってしまう。これはある程度仕方の無いことでもあるが。

ということで、このプロダクションは日本にはあわず、音楽の中身で感動、といった感じでそのまま帰路についたかどうかはいま一つ思い出せず。
おわり

 

 


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