2009年4月17日(金)7:00pm
サントリー・ホール
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シェーンベルク/浄められた夜
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シュトラウス/祝典前奏曲
シュトラウス/ツァラトゥストラはかく語りき
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ダン・エッティンガー指揮
東京フィルハーモニー交響楽団
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この前まで初台の新国立劇場で、ラインゴールド、ワルキューレを振りまくっていたエッティンガーだが、4/15のワルキューレ千秋楽を終え、同じ東京フィルとの3回公演を開始。本人にとっては整理体操みたいなもんだろうが、それでも聴く価値はあり。
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前半のシェーンベルクは、リングサイクル前半2演目の興奮をそのまま持ってきたような感じで、全く素晴らしいの一語に尽きる。
敷き詰められた弦、この鳴りに隙間はない。どす黒い重油のように重く流れる充実の響き。
今日の演奏は33分かかったが、そもそも30分もかかるこの曲ではあるのだが、それでなくても睡魔を排除できない演奏が多い中、弦楽器そのものの響きの美しさと鳴りきる弦の充実度、そして合奏という行為、それを感じた一夜であった。
弦楽7部のこの編成に響きの多様性をあまり求めてはいけない。それよりもむしろ細やかなニュアンスや音楽の情緒性がどのように醸し出されてくるのかを感じた方がいい。
シェーンベルクのインスピレーションはデーメルあってのものかもしれないが、それは音楽を書きたくしょうがなかった時に、それがそこにあったのだろう。一筆書きのような曲なのだ。天才の光りがある。重く暗く始まる曲ではあるが、それは月夜。そしてはらんだ子供はあなたの子ではない。テキストを読み進めながら聴くと格別なものがある。字幕的説明付きでの進行もありだったかもしれない。
東フィルの奏者の充実度は明白。この若い棒振りの棒を渾身の力で表現。まったく共感以外の何ものでもない。信頼度の強さから音楽の共感へ。こうなったら鬼に金棒。棒と音が一体化している。
バレンボイムとの相似性はもうあまり言わないことにする。自分探しの旅であり、それはそんなに先にならず見つかるであろう。
ひとつ、音楽の間について言うと、振り方はやっぱりバレンボイムと瓜二つ以上(いまのとこ)だが、オペラのピットだとわからないことがオンステージだとよく観える。両肘を直角に折り曲げて、一度、拍を作り次のフレーズにはいる。劇的な箇所でよく見せるしぐさだが、本来、その拍はスコア上にはないものだ。この間の作り方が劇的な表現をさらに強めている。演奏者の精神集中も並大抵のものではないだろう。ここで縦の線をあわせて奏するのは彼の棒を知らなかったら困難なものがあるかもしれない。合ったら今夜のようになる。
このような棒なので、静かな局面では伸縮の伸のような表現になってバランスを保っていると言ったところもあるのかもしれない。
全体にごり押しの棒ではなく、オーケストラから出てくる響きは共感の自発性から出てくるものであり、そうでなければあのような音の芯がそろった演奏とならない。
それから、この棒振りですが、こういった雰囲気に聴衆も引きずり込ませる能力があるのか、フライング拍手をさせない雰囲気をもっている。最後の音のあとの空白は見事な間であった。
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後半のシュトラウス。祝典前奏曲は聴けば聴くほど駄作だと感じる。節はひとつだけ。塗りこめられた弦と、どうも寸詰まり状態のブラス。チャイコフスキーなら鼻で笑うかもしれない。指揮者もまともにやろうとすればするほど曲の駄作性があらわれるだけで、彼ももう振らないのではないか。聴衆の方もわかったもので、左右後方と一本ずつのバンダを配置した100人以上の規模の曲だが、そのわりに肩すかしのパラパラ拍手。
2曲目のツァラトゥストラも同じような傾向の曲だけに2曲並べたのは不正解。指揮者の強い希望で曲順を入れ替えたとのことであったが、入れ替え失敗です。
そのツァラトゥストラですが、方針はシェーンベルクと一緒です。ですから指揮者の方針、曲の解釈、それと、音楽の表現方法が確立されているのだろう。フルトヴェングラーが何を振ってもフルトヴェングラーになってしまう、そこまで極端ではなくても、エッティンガーの刻印がどの演奏にも克明にあり。
最初の節は万人の知るところであるが、そのあとまだ30分以上続くのかしらなどと余計な心配のしたくなる曲ではある。最後のコーダ部分では案の定5分ぐらいかけた濃い演奏となっていた。ここでも拍手を排除させる力を持っている指揮者の力量は昨今の棒振りに比べると一つ上をいっていると感じる。
おわり
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エッティンガーの演奏
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322-ファルスタッフ 2007.6.13
621- 2万パーセント・バレンボイム エッティンガー ファウスト交響曲 2008.6.13
785-WALHALL ラインの黄金 オペラパレス初日 2009.3.7
790-エッティンガー ラインの黄金 オペラパレス2009.3.15
816-ワルキューレ再演 千秋楽 オペラパレス、新国立2009.4.15
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