2018年4月19日(木) 7:00-9:15pm サントリー
モーツァルト ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491 15-7-10
ピアノ、アンネ・ケフェレック
(encore)
ヘンデル(ケンプ編曲) メヌエット ト短調 4
Int
ブルックナー 交響曲第6番イ長調WAB106 16-17-9-16
(ヨーゼフ・ヴェナンティウス・ヴェス編纂版)
(encore)
モーツァルト 交響曲第29番イ長調K.201(186a)より、第4楽章 3
上岡敏之 指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団
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プログラム前半後半ともにハイレヴェルで充実の内容、音楽の愉しみを心ゆくまで味わえた。
ケフェレックさんのピアノ、同じ伴奏の組み合わせで2016年に27番を演奏している。
2186- モーツァルト33、Pfcon27、ケフェレック、ブラームスpf四1、上岡、新日フィル、2016.9.16
今回は24番。ハ短調がベートーヴェンのピアノコンチェルトの3番を思い出させる。暗くて力強いオケ伴からスタート、ケフェレックの上品で、全ての配慮が隅々まで行き届いている味わい深い演奏にうなるばかり。目を閉じればアルチザンのような趣きも感じられる。
やや右サイド至近距離の定席で聴くケフェレック。鍵盤は見えない席なんだが、大きく開けたピアノの磨かれた蓋の内側に両手が写るのでよく見える。音もよく聴こえてくる。
ケフェレックのピアノの切れ味というのは、妙な例えかも知れないがプロフェッショナルなラッパのタンギングのようにみずみずしい。まるで水の中で弾いているような具合で、水滴がきれい鮮やかにスパッと次から次と切れていく。ひとつずつの音の粒が際立っており、絶妙な平衡感覚で奏でられていく。極めて美しいバランス感覚といえよう。
時折魅せる独特の節回しには熟成感がある。長年かけて作り上げた歌い口なのだろう。こぶしの着地点がうまく決まる安心感もそこはかとなくよろしく漂う。
本当に美しい短調、呼吸を感じさせてくれるピアノ、絶品。素敵なピアノサウンドが久しぶりにこのホールに響いた。
最後一気にあっという間に華麗に締めくくるモーツァルト。圧巻のオケパッセージを見事に決めた上岡NJPの伴奏。ピアノと同じぐらいお見事なものでしたね。
上岡はピアノと呼吸が合っている。彼がピアノの意を汲みながらタクトを取っているのはもはや明らかだ。時折、鍵盤を覗き込み、ケフェレックの両手を見ながら振る、つかず離れず、邪魔っぽさや煩わしさが皆無のアカンパニストぶりは自身のピアニストという事もあってか、真骨頂のピアノ伴奏棒。
独奏ピアノとオーケストラが入れ替わるように波を作りながら進んで行く様は自然で美しい。柔らかい音も出色ですね。物憂げな短調がこんなにも美しく響く。素晴らしい。
締めくくりの一気に駆け上がる見事さは当分忘れられそうにないわ。
ケフェレックさんの弾くアンコール。なんという静謐な世界。作品を越えた完結の世界でも見ているようだ。同時に音楽に尽くしている姿もよく見える。愛しむように弾いたヘンデル。心が洗われるようだった。
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AB6 duration
Ⅰ 2-2-2-t3-2-2-1-c2
Ⅱ 2-3-2-t2-2-2-2-c2
Ⅲ 3-3-3
Ⅳ 2-2-1-t4-2-2-2-c1
後半プロはブルックナーの6番。これも水際立った出色の演奏。パーフェクトな造形感とわかりやすさ、適度なアドレナリンを注入しつつ作為無しのナチュラルな美演。
主題の切り替えが、指揮者譜面不要の棒の中、まるで譜面の練習番号を見ているような鮮やかさで進行。といっても、譜面をなぞってその譜面が見えるような硬くクリアな演奏とは様子が違うのである。上岡自身が譜面のように見えてくる。その指揮者がその上で見事な進行を魅せてくれる。ここが変わり目ですよ、の、切り替えではなくて、遠く霧から出てくるような滑らかさ。ナチュラルに時に弱音まで落としたネクスト主題の開始、押しつぶしたようにというのは変だが、例で言うとムラヴィンスキー、レニングラード・フィルのシューベルト未完成、主題の頭の叩き付けを極力排した演奏、わけても第2楽章練習番号Eにおける強弱記号と実際に出てくる音の違い、生々しい説得力。ああいったことを思い出させてくれる上岡のブルックナー、これはこれで凄い、自然の作為といってもいいかもしれない。
それから、ソナタ形式のアダージョの第3主題、フィナーレの第1主題の低弦によるピチカートの緊密感、この説得力。そういったことがあちこちに出てくるのである。極め付きはフィナーレコーダ、第1楽章の第1主題を奥ゆかしいほどに抑え、他の主要主題を浮き彫りにさせる。この見事さは第8番のコーダにおけるモチーフの絡み合いを想像させるに足るものがある。この説得力、造形美の。
柔らかいオーケストラサウンドもこの作品によく寄与しているし上岡の棒も納得できるものだ。この組み合わせだったからこのような見事な演奏になりえたという気がしてくる。
柔らかい主題の押しだし、バランスの良いウィンドハーモニーの絡みあい。叩き付け皆無のブラスセクション、弦のけばけばしくない明るさ、美しい水滴の様な弦楽アンサンブル、結果としての明るさですね。
どれもこれもパーフェクトな輝きのブルックナーでした。それから、今回の演奏はヴェス版という初耳版。上岡好みでのものでしょうし、多かれ少なかれ今日の演奏にうまく反映されていたことでしょうね。版と演奏表現の区別はつきませんけれどもね。主題やコーダの終結部分での締めあげモードはヴェス版仕様なのかもしれない。
いずれにしても、巨大な6番でした。6番普及にはこのような演奏、表現が望まれます。お見事。
おわり