1989年ウィーン国立歌劇場来日公演で4度上演されたパルジファル。最初の10月27日と4回目を聴いた。4回目はこんな感じ。
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1989年11月4日(土)3:00PM
NHKホール
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ワーグナー作曲
舞台神聖祭典劇パルジファル
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アンフォルタス/フランツ・グルントヘーバー
ティトゥレル/オーゲ・ハウグランド
グルネマンツ/ハンス・チャマー
パルジファル/ルネ・コロ
クリングゾル/ゴットフリート・ホルニック
クンドリ/ドュニャ・ヴェイゾヴィッチ
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アウグスト・エヴァーディンク演出
ハインリッヒ・ホルライザー指揮
ウィーン国立歌劇場
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10月27日の1回目とはティトゥレルとクンドリーの配役が変わっている。
舞台の印象は1回目の時とあまりかわらない。
11月3・4・5日は文化の日から始まる3連休であるため、この4日のパルジファルも含めオペラ漬けとなるにはもってこいのオペラ日和。
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パルジファル。カタルシスはここ。
第3幕の練習番号252の1小節前の聖金曜日を導入する五つのティンパニの打撃音。
この音まで長々と聴き続け、いよいよこのたった五つの音符が全てをすっきりさせてくれる。あとは野となれ山となれ。
ただ、ここに来るまでは長い長い時間の道のりを越えなければならない。
第1幕ざっくり2時間。
休憩ざっくり30分
第2幕ざっくり1時間。
休憩ざっくり30分
第3幕ざっくり1時間20分。
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これでグッド・フライデイが現れるのが第3幕もかなり過ぎたあたりであるため、第1幕が始まってから4時間半ぐらいたたないとこの音楽がでてこないのだ。
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第2幕は現実離れした舞台であるのに、花園、悪女、クリングゾール、矢、といった感じの具体的な俗物が出てくるためリアリズムを感じる。
それに対し第3幕は仮面の騎士から始まり、クンドリーが髪で騎士パルジファルの足を洗う動作を経て、限りなく抽象的観念的な音楽・舞台となってくる。
第2幕の縦横無尽な音楽が第3幕で全く静止した音楽となり、もう観念した、と思った瞬間、聖金曜日の音楽が現れる。この見事な楽譜。
そのあとはもう音符がただただうねりを繰り返すだけ。
心がたゆたい、魂が純化され、現実と夢の区別がつかなくなり、長い長い終始音とともに一つの神聖祭典が終わる。
やや明るすぎる舞台ではあったが、最終的には聴衆も浄化されて終わった。
ワーグナーの音楽が聴衆の心を洗う。これが現実離れした芸術の良いところだろう。
茫然自失となったパルジファルのルネ・コロは一瞬、我を忘れていたのではないか。
聴衆がいる現実のホール。その舞台で本当にパルジファルになってしまったコロ。どっちが幸せであったのか。
おわり
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