2019年9月28日(土) 6-8pm みなとみらいホール、横浜
伊福部昭 日本組曲より 1.盆踊 3.演伶(ながし) 4.佞武多(ねぶた) 5-4-6
井上道義 メモリー・コンクリート 9+4+10+5
Int
リスト 死の舞踏 17
ピアノ、アリス=紗良・オット
(encore)
サティ グノシェンヌ第1番 2
リスト ハンガリー狂詩曲第2番ハ短調(管弦楽版) 11
(encore)
アーレン オーバー・ザ・レインボウ 2
井上道義 指揮 日本フィルハーモニー交響楽団
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4曲プログラム構成で後半の1曲目にピアノのソリストが登場という、あまり普段お目にかかることのない組み合わせ配列。雑然としたところは無くて全部魅力的、結果、お腹いっぱいになった。
伊福部の作品は豊潤なサウンドの嵐で、なんだか通奏低音的にずーっと、ヤーレンソーランがこだまする。派手で鼓舞するような趣きがあり日本のひとつの原型を感じさせる。
次の井上作品。2004年の作とあるが今回初めて聴く。プログラム冊子によると随分と色々書いてあるが、そんなに大袈裟な話では無くて、オケ編成は、伊福部の14型コントラバス7を正規の6に戻したもの、鳴り物はどっさり増える。
30分弱の曲で切れ目なし。激音・緩(ブラスの強吹き)・軽くリズミックでシニカルな流れ(カデンツァ)・静の流れ。この4つの雰囲気で進行。メロディアスなところもあり難解さはない。耳によく馴染む。後半部分のカデンツァからフィニッシュの静寂までが印象的。緊張感よりも尻つぼみ感を思わせるのは、前半のテンションがいまいちというところがあるかもしれない。対比にドラマチックなものがあればと思うし、もっと新しい音楽的技巧を盛り込んで欲しかったというところもある。若干構成感の不足を感じる。
プログラム冊子ではコンクリートの意味合いを色々と解説しているが、実際に聴いてみると、まず、ミュージック・コンクレートでは無いな、と。自分の思いとしては皮下記憶。底に固まった記憶がそこらに留まっていたり、一旦破れると飛び散るように跳ねて出る記憶。そういったことがごった煮になっている。
カデンツァでは作曲家の指示で、指揮者が音楽以外の事をしろと指示書きがあるようで、いかにもエンターテインメント、ショーマンシップに溢れた井上らしい。きっとここは自分が一番よくできるんだ、と言っているようなものだろうね。おもむろに出した指揮棒ならぬ釣り竿、あらかじめ最前列に座っていたアヒルの縫いぐるみを抱いたひとりの客。結局、井上の釣り竿に引っ掛かったアヒルが吊り上げられてしまう。唖然とした笑いの聴衆。井上はアヒルを自宅で飼っている、とプロフィールに書いてあるしね。でも、アヒルは釣り竿で釣れるのかな。
作曲家の思いは良く伝わってくる作品でした。
場面かわって後半戦。
アリスが死の舞踏のためだけに登場。場が華やかになる。空気が変わりました。
派手なリストの音楽はなにやら伊福部のサウンドを引き継いでいるようにも聴こえてくるが、怒りの日パラフレーズ、一気にアリスのピアノでワイプアウト。
強烈なリストサウンドの中、超絶技巧ピアノ、アリスの長くて細い両腕が蛇腹のように目まぐるしく動き回る。これを見てるだけでも凄い唖然。上半身もよく動く。髪を振り乱しの上下移動。タッチがいつも垂直なのだろう。冴えわたる弾き。圧巻のパワフルプレイ。今回の目的を果たしたかのような激演でした。
常々大人しめの横浜定期の客もブラボーと拍手のどよめきが止まらない。あまりの沸騰にもしかして予定外のアンコールのように見えました。洒落たプレイ、印象的なエンディングと長い空白でした。
アリスの実演には何度も接していて、いつも元気。ピアノに何かぶつけるのではなくて、両腕で鍵盤から音を拾い上げる。素敵なプレイですね。全身全霊で音楽を作り上げる渾身のプレイ。咀嚼は済んで作品が身体から溢れ出るよう。素晴らしい。
〆は同じリストの狂詩曲。
日フィルの太くて柔らかめの音。安定感抜群。めくるめく多彩な絵の具を塗りこめていく。音浴びの愉悦。派手に鳴らして、アンコールもつけて、激演フィニッシュ。
沢山楽しめました。ありがとうございました。
おわり