The Ancestry of Philharmonic Hall(2) フィルハーモニック -11-
コンサート・ホールの研究は、東はモスクワから、北はフィンランドのヘルシンキ、トゥルクまで、南はブエノス・アイレスまで及んだ。
二つの調査の方法が採用された。一つはコンサート・ホールの特徴のはかり方に、満員と空、上の席と下の席、全ての位置、現代のアコースティック楽器を使う、などを物差しとするものであった。もう一つは、世界中の多くの都市で活躍していてホールのことをよく知っている世界の27人の第一線の指揮者と25人のプロの音楽評論家にインタヴューすることであった。
コンサート・ホールは調査の結果5つに分類された。それは、素晴らしい(E)、大変良い(VG)、良い(G)、普通(F)、貧弱(P)、の5段階。これらの裁定は指揮者と評論家の協力でレビューされた。どれが、素晴らしい(E)コンサート・ホールで、どれが貧弱(P)なホールであるか、ということに関しては彼らの間に意見の相違はなかった。しかし、それは中間的なホールに関連する位置づけという点においてだけである。なぜなら、多くの音楽家、評論家が、異なるアコースティックの特性に基づいた異なる価値を持っているからである。
劣っているコンサート・ホールの特性は残響が1.3秒以下である。それは、彼らが演奏を始めるや否や残響がなくなるということである。残響が短いホールは講義のような話しにふさわしいが、コンサート・ホールには貧弱そのものである。ホールの理想的な残響は1.8~2.0秒である。残響が短くてライヴ感がないと、音はドライで薄くなる。残響が長すぎてエコーがありすぎると、音楽は混乱しめちゃめちゃになってしまう。もっと重要なことは、アコースティックな緊密感がなくなることである。フィルハーモニック・ホールでは、音が動き回る通路を短くしようとしたために、アコースティックな‘くもり’が音を少し早めに下げている。この2600以上の席を持つホールに、1500席のホールのような緊密な感覚を持たせてくれる。
コンサート・ホールというものは楽器のようなものだ。しかし、その機能は全く異なる。たとえば、ヴァイオリンは体から音を発散しなければならない。コンサート・ホールは、音、を含まなければならない。このため、最高のホールの壁、天井は全てが木であるということはほとんどない。木で出来ているように見えるけれども。
フィルハーモニック・ホールの壁はプラスターで出来ている。ホールの壁は音を反射しなければならない。他方、ステージの床はヴァイオリンの共振の特性を生かすものでなければならない。従って床は木で出来ている。コントラバスとチェロはステージの床にある糸巻きを通して音のポーションを伝えなければならない。
コンサート・ホールのアコースティックな品質というのは多数の要因から影響を受けている。たとえば、バルコニーの前方のふちはステージにエコーが戻らないよう、尖っていなければならない。
フィルハーモニック・ホールは、音、が鳴らなければならないだけでなく、不要な雑音を排除しなければならない。その基礎は地下鉄の音を防ぐため、鉛とアスベストの緩衝材で出来ている。屋根はジェット機の騒音や航空機の爆発音でさえ入り込まないよう設計されている。天井は振動が隔離できるよう吊り下げられている。ドアと壁は通路ロビーの騒音から遮蔽されている。よい演奏ができるようにするために奏者が音合わせをする部屋は、メイン・コンサート・ホールの音を排除するために、壁、床、天井が遮音されている。エア・コンのダクトはマフラー付で、音を吸収する素材で覆われている。End
(続く)